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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽①

愛してる、そばにいて0796

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 「ぐえっ!」
 戒の肘が突然真横に座って油断していた徹の顎下を捕らえ、勢いのまま彼の座っていた椅子ごと吹っ飛ばす。
 ドンガラガッシャ―――ッン!!
 「きゃああああっ!!!」
 「わあっ!」
 「お、お客様っ!」
 幸いテラス席の周囲はもはや時間帯も時間帯、人がまばらに座っているくらいでほとんど客の姿はなかったから、すっ飛んだ徹がなぎ倒したのは空席の隣の席とその隣の席くらいで済む。
 遠く酔客の喧騒は未だ聞こえていたが、むしろテラス席での騒ぎに店内がシーンと静まり返り、窓際の席の客の幾人かが腰を浮かせて窓ガラスに張り付き、こちらを窺っていた。
 戒と徹の注文はとったものの、ミサが立ったまま席についていなかったからだろう。
 店内に戻るか注文を待つか迷っていたらしいウェイターが、いきなり剣呑になってしまったことの次第に棒立ちになる。
 が、
 「…ふぅ、会計」
 「え?」
 カードを出しかけ、だが、それを財布にしまい直し一万円札をテーブルに置き、戒が席を立つ。
 「ま、まだ、注文のお品をお持ちしておりませんが」
 「…いいよ。物は壊してないと思うけど、迷惑料」
 「あ、でも、こんなに」
 今しがた成した凶行など夢であったかのように、平然と受け答えする目の前の美貌の少年を呆然と見上げ、コクコクと首を縦に振るばかりだったウェイターが呼び止めるが、戒はもう振り返らなかった。
 「う、ゲホ、ゲホッ、ひっ」
 吹っ飛ばされた状態のまま、喉元を押さえ咳き込んでいた徹が、間近に立って自分の手に軽く乗せられた革靴に怯えて、弾かれたように顔を上げる。
 「騒ぐな、目障りだ。お前の方こそさっさと失せろ」
 ウェイターへ向けた静かな声音とは裏腹な冷たい声音と、自分の手の甲に乗った足に徐々に加えられる重さ、その声にたがわぬ冷酷さを含んだ眼差しに、殴られるのを忌避しようとか自由な方の片腕で頭を抱え込んで、ガタガタと震えだした徹が、後ろも見ずに脱兎のごとく逃げ出す。
 戒が威圧したにしても過剰なほどの怯えようだが、これがあと数日もするとまた不思議なくらいにケロリとして、戒の前に纏わり付きだすのだ。
 何かしら徹に目的があることは間違いない。
 どうやって戒が現れるところを待ち伏せするのかわからないが、どうやら徹にも徹なりのネットワークらしきものがあることは、戒にも薄々とわかっていた。
 …退屈だから、ま、それはそれで好きにさせるさ。
 いずれ徹が牙を剥くつもりなのか、あるいは戒を使い某かの目的を果たすつもりでいるのか。
 降りかかった火の粉は振り払えばいい。
 その結果、自分がどうなろうと、道明寺家の名前に傷がつこうと知ったことではない。
 依然、戒はあえて道明寺家の醜聞を作ることもしていなかったが、だからといってかつてのように、家や司を気にすることもしなくなっていた。
 いや、気にしているからこそ、投げやりな毎日の中で淡々と惰性的に朝起きて、学校へ通い、放課後を勝手気儘、特に目的もなく自分とは関わりのない人々が行き交う他人ばかりの街を彷徨い歩いていたのかもしれない。
 ここではないどこかへ行きたいと渇望していながら、そのどこかが見つからない、自分の居場所を見つけられない戒は、どこへいっても異邦人だったから。
 逃げ去った徹と戒を交互に見比べ、怖じけて座り込んだままのミサの真横を通りすぎ…かけ、なんの気まぐれか、魔が差したのか、別段まったく興味がなかった彼女へと一声かけていた。 
 「お前…どこに住んでるんだ?」 
 「え?」
 「この辺はすぐそこが繁華街だ。いくら治安のそう悪くない日本にしても、いかにも中高生の女が一人歩きしていいほど安全というわけじゃない。携帯持ってるだろ?タクシー呼べよ」
 肯定にか、あるいは否定にか、戒の問いかけに首を振ったミサが、怯えて青くなった顔を戒から背け、呪縛から解き放たれたかのように倒れていた床から立ち上がり、むにゃむにゃと断りの言葉か別れの言葉か、何事かを呟いたかと思うと、徹の逃げ去った方向へと後を追い走り出した。
 別に彼女の安全に気を配ってやる義理があるわけじゃない。
 なんだかんだで徹を間に挟み、顔馴染み程度には顔を合わせているというだけなら3~4ヶ月の付き合いになるが、個人的な会話など交わしたことはないし、彼女があきらかに彼を恐れていたから、彼もまたあえて彼女に話しかけたり興味を持つ必要性を持っていなかった。
 本当の気まぐれ。
 ミサは戒との出逢いの最初から徹を心配していた。
 …姉弟みたいなもんだって言うが。
 たしかミサは、戒より1才年上の徹よりもさらに1才年上の17才。
 かつてあの遠い異国の地で、彼が初めて好きになった少女と別れた頃の、少女の年頃と同じ年齢。
 だが、気風が良くて勝気で、…甘い優しさと世慣れて利己的な冷酷さを持つジーナとはあまりに違う女。
 ジーナは彼をして、‘王子様’と現実ではない幻想を彼に重ねるばかりで、彼の内面ではなく外見だけを愛してくれたけれど、ミサは小気味よいくらいに彼に興味を持ってはいなかった。
 誰もがカッコイイと見惚れて、纏わりつきたがる戒に媚びることもなく、ただ徹が彼に害されないように、これ以上道を踏み外さないようにただそればかりを心配している。
 わずかに心の奥底に生まれた不可思議な情動。
 ―――そんな風に道明寺家の御曹司だから、あるいは彼の皮一枚の外見からではなく、ただ彼が彼だというだけで、心配されるというのはどんな気持ちがするのだろうという、そんな思いに戒は気がつきたくなかった。
 気がついて惨めになる自分を許したくない。
 まるで極楽鳥のように目を射るような色合いに染めた長い髪や、いかにも不良少女然とした濃い化粧の奥に透けて見える幼い顔と、柔らかな心根を持つ少女。
 …俺には関係ない。
 そんなお人好しじゃない。
 真夏だというのに、体に感じる凍えるような寒さに、なおさらよけいなお節介を焼く気も失せ、一度は屋敷に戻るべく、少女が消えた路地とは真反対の方向へと足を踏み出しかける。
 けれど、―――ジーナの面影が、真夜中の闇の向こうに消えたミサを無視して、彼がその場を離れることを妨げた。
 「チッ、あっちにタクシーが通る通りなんかねぇだろうが」



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