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「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑦

愛してる、そばにいて0788

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 『司坊ちゃんっ!?』
 父親とよく似ていると言われることは、もはや戒にとって特に珍しいことではなかった。
 一々目くじら立てて怒るほどには、戒はもう子供ではなかったし、それを指摘してくる人間は一人や二人の話ではない。
 が、その中年の女の彼を見る目が、あまりに畏怖に満ちて、……そして、女がただ彼を司と似ているという意味合いではなく、父と彼を錯覚して恐れていることが妙に気に掛かって、声をかけたのはホンの気まぐれだった。
 めったに彼が自分を‘道明寺戒’だと名乗ることはなかったが、子供の手を引いたその女がおそらく、現在ではなくても道明寺家に仕えたことのある使用人か何かだと推測してのこと。
 しかし、女は名乗った彼にすぐに謝罪して、怯えた顔のまま人違いだと逃げ去るように去って行った。
 人違いには違いない。
 また司を恐れている人間は、その女の他にもいくらでもいるだろう。
 だが、どこかの会社経営者やそれに準じた立場にいる人間だとか言うのならともかくとして、たとえ過去、道明寺家に仕えていたことがあったにしても、ただ通りすがりに出くわしたいかにも普通の主婦らしき女に、あそこまで畏怖に満ちた顔で見られる理由がわからない。
 女の人相風体には特徴らしい特徴はなかった。
 それでも幼稚園のものだろう、他にも何人も歩いている子供たちと同じ深緑の珍しい色合いの園児服を着た、女の連れた子供の服装から、近隣に住まう人間だと見当がつく。
 戒が日本に帰国して、まだ半月にも満たない。
 かつてのように、特に何かの目的があって街を歩いているわけではなかった。
 けれど、つい先ほど出くわした女のことが妙に気にかかっている。
 …もう一度、戻るか。 
 シュッ。
 風を切るような、拳が耳の間近スレスレに通る音に、わずかに首を倒してその拳を避ける。
 威勢はいいが、見事な大根切りで振り被ってくる相手を、躱すことは彼にとって容易なことだった。
 おかげで殴り掛かられていることも脳裏の外で、考え事をしながらの乱闘だ。
 すでに雑魚3人は、地面に倒れ付して呻いてるばかりの状態。
 「はあはあはあはあ、はあはあ」
 戒の方はまったく息を切らせてはいなかったが、ボクシングでも齧っているのか、最初は威勢の良かった相手がすでに精も根も尽き果てたように、忙しなく息を切らせて腹を折っているのを戒は冷めた目で見ていた。
 「て、てめぇ、汚ねぇ、んだよっ!はぁはぁっ」
 「バカだろ、お前」
 ずっと無言だった戒が、思わずポロリと呟きを零す。
 だがすぐに、わかりきったことを尋ねてしまったと、自分で自分に呆れて肩を竦める。
 相手が言っているのは、不意打ちと急所蹴りでさっさと他の仲間を沈めてしまったことを言っているのだろうが、戒は司のように暴力で憂さ晴らしをするタイプではなかったし、彼にはその父親ほどのスタミナやパワーに欠ける自覚があった。
 喧嘩に汚いも綺麗もないのが戒の持論だ。
 だいたいすぐに刃物だ拳銃だと出てくる海外にいた戒にしてみれば、そんなことを悠長に言い出す相手の認識が温いとしか言いようがない。
 そもそも多勢に無勢だ。
 汚い呼ばわりなど、片腹痛い。
 第一、暇潰しにもならない雑魚に、一々手間暇かけるほどにはマメではないというだけで、別に彼が不意を突かずとも結果は大して変わらなかったはずなのだ。
 「ちょ、ちょこまかと避けやがってっ!今度こそ、沈めてやるぜっ!」
 相手の技量を見定められない時点で、少年はすでに戒の敵ではない。
 それでもギョロギョロと忙しなく視線を彷徨わせているところに、相手が今感じている恐怖と動揺が滲んでいた。
 「うおおおおおお!!」
 雄叫びを上げて向かってくる少年の拳を余裕で躱して、カウンターで顎下から拳を入れ、体勢を崩したところで背中に肘を入れ一気に地べたに沈める。
 「ぐはっ!」
 背丈こそは似たような感じだったが、彼よりも横幅が二倍近くあるだけあって、なかなかにしぶとく立ち上がろうとするのを、戒は無造作に股間を蹴り上げ悶絶させる。
 さすがにいくら退屈でも、完全にノした相手をサンドバックにするほどには、彼は暇ではなかったし悪趣味でもなかった。
 すぐに賢者タイムにも似た、シラけた冷静さが彼の心を覆って、すべてがバカバカしくなってしまう。
 どちらにせよ、わざわざ関わって面白味のある連中ではなかった。
 …アホらしい。
 彼が殴って蹴り倒し呻いている少年たちも、呆然と彼と周囲の有様を見回しているそもそもの原因であるカップルも、すでに何もかも戒にはどうでもいい。
 彼らをもう一顧だにすることなく、背を向け、戒は元の大通りへと足を踏み出した。
 「ま、待てよ!」
 結果的に戒が助けた少年の呼び止める声にも、戒の足は止まらない。
 別段、誰かを助けようと割って入ったのでもなければ、いまだ冷たいアスファルトの地面に転がったまま、彼を見上げてわずかに震える声音で呼び止めてくる相手にも、戒はなんの興味もなかった。
 「待ってくれ!!」
 「やばいって」
 周囲の異様な状況と戒が成した所業、それ以上にあきらかに尋常ではない戒の雰囲気に、飲まれたように怖じけてしまっている少女の方が、半身を起こして戒を呼び止める少年の体に取り縋って窘めている。
 戒の足を止めさせたのはいかなる恣意だったのか、あるいは、単なる気紛れだったのか。
 それとも、それをこそ人ならざる誰かの用意した‘運命’という名の必然だったのか。
 「俺だよ!憶えてねぇのかよっ!?」
 怪訝に振り返った戒の顔を、見覚えのない少年が燃えるような目で見つめていた。
 つい先日帰国したばかりの戒に、英徳の学生以外に日本での知り合いなどいるはずもない。
 どう見ても地べたに這いつくばっている痩せてみすぼらしいこの目の前の少年は、彼の属している階級の人間でもなければ、数年ぶりに顔を合わせた顔馴染みの同級生たちでもない。
 とはいえ、まだ日本では大々的に顔を知られてはいなくても、父親に瓜二つな容姿を見れば、彼の正体など容易に知れたに違いない。
 だから、今もそれなりに戒におもねってくる人間はいくらでもいたし、よく知られていたアメリカやヨーロッパでは、なおさら彼の関心を得ようと馴れ馴れしく近づいてくる人間は引きも切らなかった。
 当然、知り合いを装う手合いも珍しくない話だ。
 少年もそんな手合いだろう。
 すぐに関心を失って、今度こそさっさとその場を立ち去ろうと踵を返しかけた戒を、再び少年が呼び止める。
 「徹だよっ。何度かガキの頃、遊んだだろっ!?お前、戒だろ、道明寺戒だよなっ!?」
 どこか昏い眼差しで彼を見つめる痩せた少年の顔に、クリクリっとした目の、ぽっちゃりとした幼い少年の面影が重なった。
 『戒くん、僕たち、ずっと友達でいようね!』
 ―――トオル。



~第8章 明日に咲く花 了・第9章 闇に下る太陽 へ続く~





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