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「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑦

愛してる、そばにいて0786

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 あのネックレスーーーそれは、もう何年も前のこと。
 司と一緒に望遠鏡で天体観測をした折に、彼にもらった土星のネックレスだった。
 どうやら道明寺邸を出て来た折に、持ち出したバックにしまい込んでいたらしく、邸を出て後は押し入れの底へ、引越しのたびにバックを捨てようかと迷いつつタンスの肥やしになっていて、よもやその奥底にそんなものが潜んでいたことに気が付けずにいたのだ。
 あの頃は夫婦時代の記憶を失い、彼へと再び惹かれてゆく自分を恐れ、彼を必要以上に拒むことでなんとか自分を保っていた頃。
 惹かれてゆく心とダメだと思う心と、彼から逃れるためにそうした葛藤を押し隠し、司へと歩み寄るフリで彼を欺かなければならないという、いくつもの矛盾と苦悩に苛まれていた。
 その時に交わされた会話までをも、思い出したこともまた驚きだったが……。
 …昔約束していたから、か。
 なぜ、いまさらこんなものをくれるのかと尋ねた彼女に、司が言ったセリフ。
 だが、その約束というのがいったいなんだったのか、その当時の彼女にはまったくわからなかった。
 もし、記憶を失っていなかったとしても、憶えていない方が普通だろう。
 思い出せたのは奇跡だった。
 …それなのに、あいつはずっと憶えていたのよね?
 あの頃でさえ、十年も昔の約束だったというのに。
 憎しみや恨みではない……けれど、思い出すたびに胸を突き刺すような痛みを感じずにはいられない、彼との馴れ初めの頃。
 彼女が唯一興味を示した物だからと、押し付けて寄越したネックレスを、彼女は腹立ち紛れに捨てたことがある。
 司の想い。
 不器用だった司のーーー彼女の欲しいものをやりたかったという一途で細やかな望み。
 そんな彼の想いを彼の傲慢ゆえだと、汚物の如く忌避して捨て去った。
 失くしてしまったとウソを付いた彼女に、今度はお前の為だけに作った物をプレゼントすると寝物語に約束されたか。
 …ホント、バカ。
 彼と別れてからさえも、何度となく呟いた言葉に小さく泣き笑いに笑って、つくしは緩く首を横に振った。 
 おそらく類が静を忘れられなかったように、自分もまた彼を一生忘れずにこうして何度となく思い出すのだろう。
 突然途切れてしまった絆が懐かしいのかもしれない。 
 類との時のように、心の準備をすることも整理することも叶わなかった想いだから。
 「……つくし?」
 「あ?うん?」
 「なんかすっかり椅子に根が生えちゃってるみたいだけど、出るのは明日にする?」
 「いやいやいや」
 いくら、いついつまでに出てゆかなければならないと期限を切られているわけではないにしろ、そんなことではいつまでたっても、この居心地の良い居場所を出てゆくことができないだろう。
 一つの終わりと始まりと、また終わって、……新たな始まりがある。




*****




 「類はここまででいいよ」
 「車まで送るよ」
 「いいから、キリがないもの」
 マンションのメインエントランスまで降りて見送ってくれている類の手から、手提げカバンを受けとって、ついて来ようとする類に別れを告げようとして、ふとつくしは目に止まったタクシーの後ろに控えている、見慣れた黒塗りの車に気がついた。
 「あれ」
 「これまでと同じく、なるべく存在は気にならないようにさせるから」
 言外に、つくしの疑問を肯定した類の言葉に眉根を寄せる。
 「ぷっ、そんな顔をしない」
 ゴシゴシと眉間のシワを伸ばして来ようとする、いつもながらの悪戯小僧の手を叩き落として、ムッと睨む。
 「SPとか辞めてよ。もういらないでしょ?」
 「言うと思ったから、あえて言及しなかったけど、そうもいかないよ。少なくても、しばらくはね」
 ずっとではなく、しばらく……と言われた言葉に、文句を言おうとしていたつくしも、おとなしく類の説明を待つ姿勢へ。
 「雑誌にも載っちゃったし、報道規制はかけてるけど、一部の人間には俺たちの交際とか、婚約や同棲の話は知る人ぞ知るってヤツなんだ」
 「だからって、結婚してたわけじゃないんだし」
 頑固に言い募るつくしに、類が仕方なさそうにため息をつく。
 「お前だって望むと望まざるとかかわらず、金がどれだけ人を狂わすものなのか、ある程度は承知してるだろ?お前が俺から何も受け取らなかったことなんて、そうした人間にはわからないことなんだから」
 類の言うこともわからないではない。
 「でも、司の時とは事情が違うでしょ?私たちの場合は正式に婚約発表をしていたわけじゃないんだし、普通に暮らしてる私を見れば、お金を持ってるだなんて誤解だとわかるわよ?」
 「それでも俺から何かしらの慰謝料を受け取ったと、普通、世間は思うものだよ。結婚していたか、いないかが重要なんじゃない。まあ、そりゃ額面や桁は変わるかもしれないけどさ。一般論から言っても、婚約破棄に金銭が関わるのは珍しい話じゃないし。……怒らないで聞いて欲しいんだけど」
 「うん?」
 つくしの反応を恐れてか、類があらかじめ前置きしてくれる。
 「俺とお前が別れたとなれば、俺がお前から気持ちを移したか、追い出したと世間は見るだろう」
 「ああ~」
 その論理はつくしにもわかる。
 けっして気持ちのいいものでもなければ、慣れるものでもないが、司の時にさんざん経験済だ。 
 類や司のようなセレブの男には、石に齧り付いても離れたがらない女が大半で、どこの誰もが無一文で自ら出てくるなど夢にも思わないことなのだ。
 「なるほど。手切れ金ね」
 「そういうこと」
 それでも納得しがたい顔で黙り込んでしまったつくしの様子に、類が大きく息を吐き出して、仕方なさそうに妥協する。
 「せめて一年」
 「……1,2ヶ月にしてよ」
 「一年は譲らない」
 睨みあうように互いの妥協点を探りあい、結局、今度折れたのはつくしの方だった。
 思いっきり大きなため息をつき、それでも深々と頭を下げる。
 「ご迷惑おかけしますけど、よろしくお願いします」
 「ふっ」
 大業なくらいの礼は皮肉でもあったけれど、つくしの本心からの彼への感謝であることは、類にも伝わっているだろう。
 「これから先も、お前の為ならなんでもするよ。何かあったら、必ず俺を頼って?」
 「ありがとう、類」
 「ん、こちらこそ」
 本当にそうすることがあるかはわからないが、それでも彼の気持ちが嬉しいとつくしは素直に頷いた。
 気が付けば、いつの間にか見つめ合っていた。
 万感の想いをこめて、互いの顔を目に焼き付け合う。
 これは永遠の別れなんかじゃない。
 ーーーもしかしたら、もう二度とは会うことはないのかもしれないけれど。
 それでも、たとえ遠い空の下にいても、互いの幸せを祈りあい願っていることを疑わない。
 「あんたはずっと私の大切な人」
 「お前は俺の永遠に大事な人」
 囁き合って、両手と両手を合わせて、自然に互いに目を閉じていた。
 チュッ。
 触れるだけのキスを交わし合う。
 滲んでしまいそうな涙を瞬きすることで誤魔化して、つくしは精一杯の笑顔を作った。
 彼の目に、最後に映る自分が泣き顔だなんてイヤだ。
 「じゃ、行くね」
 「…………うん」
 大して距離があるわけではなかったが、一歩進むごとに足が重くなる。
 今にも振り返って飛びついて、ずっと一緒にいてとすがり付いてしまいそうな不安が強まって、つくしは手の中の手提げカバンの柄をグッと握り締めた。
 それでも、……それでも、タクシーの後部座席にカバンを押し込んで、足を踏み出した瞬間、どうしても振り返らずにはいられなかった。



 
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こ茶子さま
ご無沙汰しております。
いつも楽しく拝見しています(o^^o)
ついに、類との生活が終わりましたね。
つかつく派の私としては、静かに見守っておりました(笑) 類とつくしの穏やかな時間も悪くないかも、なんて思ったり(^^)
類が一晩でつくしとの別れを決断するとは、驚きましたが。つくしの感情がすごく伝わって来て、心が痛みました…。頑張れ、つくし!

でもでも、この後には司とのストーリーが始まるのですね♪ 待ってました〜♡
親子3人に幸せな時間が訪れるのを楽しみにしています!
こ茶子さま、いつも応援しています。
風邪などひかぬよう、お気を付け下さいませ。

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