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「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑦

愛してる、そばにいて0784

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 「たとえ俺がお前と別れて、静のところに行ったとしても、あいつの方が俺を受け入れないよ?」
 それが類の後退だと、つくしにもわかっていた。
 哀しい後退。
 彼女が望んだことなのに、痛みを感じないでいることなんてとてもできない。
 だが、それでもなおつくしは微笑みを浮かべ続けていた。
 「静さんが受け入れないから?だからなに?私という保険がなきゃ、好きな女の一人もあんたは追いかけられないって言うの?受け入れられようと、受け入れられまいと、守ってあげたいのなら向かって行きなさいよっ!女が自分の愛した男の子供を守るために、一人病気やたくさんのことと戦って頑張ってるっていうのに、あんたはそれでも男なのっ!?」
 弾かれたように顔を上げて、つくしを見る類へと頷きかける。
 それは遥か昔、かつて静に去られて項垂れることしかできないでいた一人の少年へと、彼女がかけた言葉。
 だが、あの時と違う言葉がある。
 あの時には伝えられなかったけれど。
 「私はもう一人でも大丈夫だから。あんたが私を癒してくれた。世界中で一人っきりみたいな孤独から、あんたが私を救ってくれたのよ。あんたが私を幸せにしてくれたから、……私はこれからも幸せでいるために頑張れる」
 「……つくし」
 「だから、あんたも頑張って。あたしを幸せにしてくれたように、静さんや杏樹を幸せにしてあげて?」
 左手の薬指の指輪に反対側の手で触れる。
 躊躇は一瞬だけ。
 小さく吐息を付いて、一気に指輪を引き抜き、テーブルに置いた。
 コロンと転がったその音が、ひどく寂しくて、哀しくて。
 食い入るようにしてその指輪を見つめる類の冷たく無表情になってしまっている美貌から、つくしは顔を背けて椅子を立つ。
 「つくし」
 「はぁ~、もうこんな時間になっちゃったぁ。お腹いっぱいになったからかな、なんだか眠くなっちゃった」
 「つくしっ!」
 睨むように自分を見据える類へと、首を横に振る。
 「あとはもうあんたの問題だよ。……もし、本当に、今度こそ静さんや杏樹のことを忘れて、私をとってくれると言うのなら、もう一度それをちょうだい?私も今度こそ、何もかもを忘れる。忘れて、……どこまでもあんたについてゆく」
 「……俺は」
 今度こそ、偽善者である自分を辞めて類だけを取ろう。
 たとえ本当にそんなことができやしないのだとしても、それでもいまは彼の選択にすべてを委ねたい。
 …あんたのためだったら、一緒に地獄にも落ちるよ。
 後悔と罪悪感に苛まれるだろう彼を一生支えて行く。
 また、逆に類の為にならその手を離して、どんなにか孤独であったとしても一人歩いてゆく。
 そしてたとえそうなったとしても、けっして不幸になんかならないと心に決める。
 「二度寝するね。お夕飯こそ、どこかに食べに行こう?」
 泣きたいのを我慢して、けっして泣き顔なんか見せたくはないから、急いで手近のドアを潜った。
 けれど、結局彼女が選んでしまったのは、類と自分の寝室。
 またも自分が類を締め出してしまうことになってしまったのを、皮肉に嗤う。
 ドアを閉めたとたん、堪えていたものが一気に溢れ出して、嗚咽が溢れてしまうのを抑えられない。 
 彼の決断を妨げることになるから、両手で口を抑えて必死に声を堪える。
 ガクガクと力の入らない足から力が抜けて、ベッドまでのホンのわずかな距離さえも惜しんで、ドアを背にズルズルと座り込んだ。
 「えっ……うぅ…………えっ………ふ」
 一度溢れ出してしまった涙や嗚咽は、どんなに堪えても堪えても止まってくれなくて、まるで子供のように泣きじゃくってしまう。
 …だって仕方がない。
 しょうがないんだ。
 あまりに近すぎて、まるで生まれる前から知っていたかのように、親しんで大好きになって愛した男と、もしかしたら離れなければならないのだから。




*****




 床に体を伏せて、うーうー唸っては泣き、泣いては口元を押さえる手の力を強めてというのを繰り返し、いいかげん泣くのに疲れて、無理な姿勢に体が痛んでソロソロと体を起こした。
 ぼんやりとドアに寄りかかって半分微睡む。
 類はとっくにどこかに出かけてしまったのか、他の部屋へと引き上げたのか、居間の向こう側は物音一つせず、彼の気配がない。
 いったいどれくらいの時が経ったのか。
 彷徨わせた視線の先、キャビネットの上の天使時計がつくしの目に入って、そろそろ夕飯の時間帯に近いことを知る。
 …もう、こんな時間。
 熱く火照ったような顔に手で触れると、乾いてかさついた涙の痕が不快で、まるで子供ようにゴシゴシと衣類の肩先や袖で顔を拭う。
 夕飯の約束をしたものの、とてもじゃないが、そうとう悲惨になっているだろう自分の顔を晒す気力が起きずに迷う。
 …でも、どちらにしても、類も二度寝してるか出かけてるっぽいよね?
 このまま気がつかなかったフリ、すっかり忘れていたフリで、約束を反故にしてしまう誘惑に負けかける。
 ゴツン―――。
 まるで彼女の心の声が聞こえたかのようなタイミングで、ドアの裏側が鳴って、ドキリと心臓が鳴った。
 耳を澄ませば、ため息のような小さな呼気の音や人の気配に、彼もまたドアの裏側でつくしと同様座り込んでいたことに気がついた。
 ドア一枚を挟んで背中と背中を合わせて、互いの気配を探る。
 このドアの向こうに側には類がいて、今、彼女と同じようにやるせない哀切と寂寥を抱いて、自身の心の中を覗き込んでいるのか。
 「………………」
 『………………』
 類の心が見えない。
 彼にとって正しい選択をして欲しい、彼が最良だと思える未来を選んで欲しいと思うその裏側で、彼女への哀切と愛情から、彼女を選んで欲しいともう一人の彼女が泣き咽いで叫んでる。
 『……つくし?』
 息を飲んだ。
 咄嗟に喉を抑えた手が、彼女に声を発するのを制したのか、あるいは声を出すことを促したのか、自分でもわからなかった。
 『起きてる?』 
 ギュッと目を瞑って、なんとか声を振り絞る。
 「起き……てる、よ」
 ガラガラとした声はまるで老婆のように嗄れて掠れていた。
 「起きてるっ!」
 『うん。俺、決めたよ』





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