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「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑦

愛してる、そばにいて0777

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 「つくしっ!」
 カードキーがロックを外す音とほとんど同時にドアが開き、つくしが出迎えるまでもなく静を伴った類が、玄関へと飛び込んでくる。
 「夜分遅くに、ごめんなさい」
 「いえ」
 心配だったのだろう涙の跡を残し、半ば化粧のはげ落ちた顔は、いつもの静らしくはなかったけれど、それでも相も変わらず美しく、そうして類と並んでいると高校時代を彷彿とさせる似合いの一対だった。
 「杏樹は?」
 類の問いかけに、つくしは体をズらして背後を振り返って、ダイニングへと二人を導く。
 テーブルに突っ伏して泣きじゃくっていた杏樹は、いつの間にか興奮と疲労に眠ってしまったらしい。
 さすがに小柄なつくしには、小学生とは言え、自分の体重の半分以上もある子供を背負って移動させるのは難しく、とりあえず肩掛けをかけてやりそのまま寝かせておいた。
 「…っ、アンジー」
 冷静さを保っていた静だったが、それでも一人娘の無事な姿に安堵したのだろう。
 口元を抑えて俯いてしまう。
 華奢というよりもやせ細った肩が痛々しく震え、そんな彼女の傍らの類が慰めるように、その肩を抱き寄せようとか腕を伸ばし……かけて、だが彼女の肩に触れる寸前、ぐっと握り締め引き戻されるのが、つくしの目に妙に生々しく焼き付いた。
 まるで、つくしの視線に気がついたかのように。
 いや、気がついたからこそだったのかもしれない。
 スローモーションのように、ゆっくりとした動作で振り返ろうとする類から、つくしは視線を背け静へと向き直った。
 「今さっき、眠ったばかりです。かなり長い間、一人で暗い公園内にいたみたいなので、たぶん寒かったのもあるし、相当怖かったみたいなので、疲れたんだと思います」
 「ええ」
 「いくつか部屋もありますから、良かったらこのまま杏樹と一緒に、静さんもお泊りになってください」
 つくしの提案に類が目で『いいの?』と問いかけてくるのに、無言で頷く。
 だが、静の方は、つくしたちにこれ以上甘えるつもりはなかったようで、
 「いいえ、十分良くしてくださったわ。これ以上、ご迷惑をおかけするわけにはいかないわ」
 「いえ、迷惑だなんて」
 「よほど遠方に住んでいるというわけでもないのに、泊めていただくまでするのは非常識なことよ」
 静の顔には断固たる意志が宿っていて、つくしや類が何を言ったとしても言を翻しそうにもない。
 「杏樹、起きなさい」
 愛称ではなく名前で静が厳しく呼びかけるが、子供の眠りは深く、杏樹はピクリとも起きる気配を見せない。
 肩先に手をかけ、揺すぶろうとする静の手に手を置き、類が横に首を振る。
 「いいよ、起こさなくて。俺が下まで抱いていくから」
 「でも」
 「もうこんな時間ですし、起こしたら可哀想ですから、そうしてもらった方がいいですよ」
 つくしも類の申し出に同意して、重ねて勧める。
 迷う風だったが、それで静の意固地も砕けたのだろう、素直に二人に頭を下げた。
 「ごめんなさい、重ね重ね。ありがとう」
 「いえ、お気になさらないでください」
 …この子は類の子なんですから。
 その言葉をそっと胸のうちで呟き、静に変わって、杏樹に手をかけ抱き上げようとしている類をサポートする。
 「おんぶにしたら?」
 「大した距離じゃないし」
 「タクシー?」
 「いや、運転手、まだ帰してないから、俺たちが乗ってきた車をそのまま折り返させるよ」 
 「わかった」
 縦抱きに抱かれた杏樹は、さすがに長身の類にしてみればまだまだ小さく、抱いている類にしてみても重さなど感じていないかのように軽々抱いている。
 大人のつくしでさえ、類は簡単に抱き上げることできるのだから当然か。
 「静さんのマンションまで送ってあげるんでしょ?」
 「車はね」
 「類は行かないの?」
 どうせなら部屋まで送ってあげれば、という意味合いで聞いたのだが、類は首を横に振った。
 「いや、ガタイのいいSPもいるし、わざわざ俺が送っていかなくっても大丈夫でしょ。行って戻って来るんじゃ、それこそ午前様になりそうだ」
 「でも…」
 「ええ、それだけでも本当にありがたいし、返って申し訳ないくらいよ」
 静も類の言葉に同意する。
 もしかしたら、つくしに気を使っての言葉だったのかもしれないが、それでも二人にそう言われてしまえば、つくしが言い募る筋合いではない。
 「じゃあ、行ってくる」
 「お邪魔しました。……このお礼とお詫びは、またいずれ」
 「いえ、本当に気になさらないでください」
 頭を下げ合い、つくしは玄関で静たち母子を見送ることにした。
 自分がいたのでは出来る話もできないだろうという配慮だったが、あるいは考え直した類が、やはり同行したくなったとしても、自分がいたのでは遠慮するに違いないという心遣いからだ。
 普段どれだけ類が空気を読まない男でも、彼はけっしてカンが鈍いわけでもなければ、人の心の機微に気づかないわけでもない。
 つくしは背を向けた類の背中を、ぼんやりと見送った。
 傍らには似合いの美しい人がいて、腕の中にはそんな二人によく似た天使が。
 ひと組の理想的な家族がそこにある。
 玄関ドアが重い音を立て、そんな家族の姿をつくしの視界から遮って………閉まった。
 キィ~、バッタン。




*****




 コチカチコチカチ。
 常には気にならない時計の音が妙に耳にかかる。
 いつもそうだ。
 心に澱が凝る時―――迷いが彼女の精神を苛んで、これでいいんだ、自分は間違っていないんだと、そう何度も自分に言い聞かせる言葉こそが、自分の迷いそのものなのだと自覚させられてしまう。
 どうして、こんなにも自分は脆弱なんだと。
 下階の駐車場まで静と杏樹を送っていったはずの類は、まだ帰らない。
 あるいは、やはり何かしらのアクシデントがあって、彼は結局、静の住まいまで二人を送ってゆくことにしたのか。
 両手で包み込んでいるコーヒーを入れたマグカップは、いつの間にか生温く冷えて、先程までジンジンとイヤな熱を伝えていた熱ささえも失ってしまっていた。
 ボウッと見るともなく動画を眺めていた手元のスマートフォンが、突然能天気な音楽を奏で出す。
 つくしは驚いて、ビクリと肩先を揺らした。
  ♪゜・*:.。. .。.:*・♪
 0時ジャストを知らせる時報が鳴り響く。
 「やだ、もうこんな時間なんだ」
 本当だったなら、明日ーーー今日は、類と二人で、デートに出かけるはずだったのに。





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