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「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0772

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 「え?杏樹が?」
 静からの電話は、杏樹を知らないかというものだった。
 先ほど確認したばかりの時刻を、今度は壁掛時計で確認する。
 …もうすぐ21時。
 大人ならばそれほど外出していてもおかしくはない時間帯だが、杏樹はまだほんの7才の子供だ。
 いくらある程度の一人歩きを許されていたにしても、昼間の数時間とこんな夜の時間帯ではまるで事情が違う。
 実際に電話をかけてきた静の声音は一見冷静だが、それでも言葉の端々に乱れがあって、彼女の動揺を覗かせていた。
 「すみません、私も夕方に家に帰ってきてからどこにもでかけてなくて。その、いつ頃いなくなったかわかりますか?」
 『それが、ちょっとしたことで口論になってしまって。反抗期というのかしら、どうしても気持ちが収まらなくなると寝室の一つに鍵をかけて閉じこもってしまって、私がどんなに外から声をかけても無視をして、応じなくなってしまうことがあるの』 
 つくしには戒や陽太との間で経験のないことだったが、それでも自身の少女時代を思えば、なんとなくでもその状況やその時の杏樹の心情が理解できた。
 『私もちょっと書類の整理があったりして、しばらくそんな状態の杏樹から目を離していたの。まさか知らないうちに、あの子が家を出て行ってしまっていたなんて……っ」
 家出。
 もしかしたら、杏樹にはそこまでの意志はなかったかもしれない。
 頭が冷え冷静に考えれば、自分がまだ年端も行かぬ子供で、親元に帰る以外に行くところなどないことにすぐに気がつくだろうし、すでに、とんでもないことをしでかしてしまったと、後悔して静の迎えを待っている可能性も高い。
 だが、時間帯が時間帯だ。
 そして、どれだけしっかりしているように見えても、まだ年端も行かぬ子供のこと。
 …誘拐とか、変な人に連れていかれたりしたら!
 静の心配が我がことのように理解できた。
 「じゃあ、杏樹がいなくなったのに気がついたのは?」
 『2時間くらい前かしら。すぐに、近所にあるばぁやや、彼女の娘、それに知人の家に連絡したりして、所在を確かめたのだけれど、どこにも訪ねて行ったりはしてなくて……』
 静はすでに近所やいくつか心当たりの場所も見回り、連絡した知人の幾人かに、杏樹の行方を捜してもらっているという。
 『本当にこんな夜遅くに、突然ごめんなさいね。もしかして、と思ったのだけれど……』 
 「いえ」
 残念ながら杏樹は、類とつくしが住むマンションを訪れたことがなく、あくまでも近場の公園での付き合いでしかなかったから、万が一にも訪ねてくることはあまり考えられなかった。
 しかし、
 「あの、公園の方はどなたかいらしてるんですか?」 
 『え?』
 「いえ、その、うちの近くの公園に、つい最近まで足繁く通っていたみたいですから」
 あるいは、つくしと出くわさなかっただけで、いまだに通っていたのかもしれなかったけれど、少なくても静と類との三竦み状態での再会以来、つくしは杏樹とは一度も会っていなかった。
 そして、つくしもまた、ここ数日散歩を辞めてしまっている。
 もしかして、……と思っていることがある。
 『いまはそちらまではまだ手が回ってなくて。いくらフランスとは事情が違うとは言っても、まさかこんな遅い時間帯に、そんな遠くまで行くとは思わなかったんだけど』
 たしかに歩けない距離ではないが、危機意識の強いヨーロッパで育った子供が、夜間の公園などという危険な場所に、踏み入るとも思えないが、だが、子供は大人が思わぬこともしでかすのが当たり前だし、そんな遠いところを足繁く通っていた杏樹の心情を思えば、ありえない話ではないとも思う。
 …逢いたい人がいたって言ってた。
 あの時にはそれが、自分たちに関わりのある人だとは思ってはいなかったけれど、今思えば、その逢いたかった人とは類のことで、……彼を自分の父親だと認識してのことだったのではないか。
 けっして名乗りはしなかったけれど、それでも類を見る彼女の目が、慕わしげな態度が、そんなつくしの推察を後押ししていた。
 『もう少し探してみて、もし、みつからないようなら、警察にも連絡してみようと思うの』
 ‘警察’という単語につくしがハッとする。
 現在、静は離婚訴訟等を起こしているわけではないが、おそらく杏樹を日本に連れてくることにも、それなりに婚家や夫とひと悶着あったのだろうことが想像に難くない。
 そんなおりに、たとえ子供の家出とはいえ、なにがしかの騒ぎを起こしたとなれば、あるいはますます静の立場は不利になってしまうのではないだろうか。
 そうでなかったとしても、著名の大企業の藤堂商事の社長令嬢であり、かつてモデルなどもしていて数々の栄誉で一世風靡した静の娘が……ということになれば、痛くもない腹を探られ、もしかしたら、思いもよらぬスキャンダルに発展することもないとは言えない。
 …類のことも。 
 人は他人事であるというだけで、どこまでも残酷になれることがある。
 「あのっ、類には、類には連絡したんですか?」
 『……え?』
 「類なら、人手を出すこともできますし、そうだ!たしか前回類が杏樹に会った時に、会社の名刺を渡していたんです」
 名刺には電話番号の他にも、会社の所在地も書かれている。
 まさか、とは思う。
 通勤には不便のない距離だといはいえ、静のマンションから類のマンションの近くへ来るのとは違い、類の会社までは相当な距離があり、小学生が一人で移動するのは難しいだろう。
 車と違って、電車やバスなどの公共機関を使うとなれば、なおさらのことかなり遠回りを余儀なくされる。
 けれど、あるいは杏樹は、類に会いに行くかもしれないとも思えた。
 だが、もし類のところへ杏樹からの連絡なり、本人が訪れたなら、静が心配するとわかっていて、類が連絡しないなどということもあり得ない話だ。
 逡巡して言葉を探し、黙り込んでしまった静の沈黙に答えを察して、つくしの方から申し出る。
 「類には私から電話して、杏樹のことを彼の方からも探してもらいます。私も公園を見て回ってみるので、もし見つけたら、こちらの番号に折り返し連絡するということで大丈夫でしょうか?」
 『牧野さん。ありがとう、本当に感謝するわ』
 「いえ」
 『類には、いくらなんでも私からは連絡しずらくって、正直、どうしようか迷っていたの。本当にごめんなさい。こんなふうにあなたたちにまた、関わったりするつもりじゃなかったのに。杏樹にもそう言い聞かせておいたはずなのに……』
 けれど、子供は父親を、あるいは母親を、そして親は子供を、どれだけ禁じられようとも求めずにはいられない。
 逢いたいと想う心を、押し込めることなどできやしないのだ。
 それはたとえ、年端もいかない幼子ではなくても、血という切ることのできない絆であり、そして、それが‘人’という生き物のけっして逃れえぬ業なのかもしれなかった。




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