「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0769

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 類は以前、まだ静を忘れかねている。
 つくしにも司を忘れなくてもいい、互いに別の人間を抱いていても、それとは別のところで、互いなりの愛や恋を育んでいければいいと、そんな意味合いのことを言っていたというのに。
 あきらかに彼は静に再会したことで、過去の生々しい傷痕を蘇らせ、冷静さを欠いていた。
 …私が司を気にしないではいられないように、あんたもそうなんじゃないの?静さんや杏樹が気になって、心配だからこそ、ここのところのあんたの様子はおかしかったし、……杏樹と会っていたのでしょう?
 「はぁ~、意味がわからないんだけど?」
 「…類」
 「なにそれ?なんでお前が、静にわざわざ会いに行く必要があるの?お前、そんなに静と個人的に親しかったっけ?」
 「それは……」
 「俺や静が、互いのことを今どう思ってるのかを知りたかったから?でもさ、静の気持ち云々はともかくとして、どうして俺のことを聞くのに、俺じゃなくあいつに聞かなきゃなんないわけ?第一、お前、静に会ったのって、今日やこの前公園で出くわした時が初めてじゃないだろ?この前は、わざわざ指摘したりはしなかったけどさ」
 いつもは彼女の言葉を待って、自身の意見や考えを押し付けたり、言い負かしたりすることがない類が、まるで責め立てるように畳み掛け、彼女の言葉を封じ込めてしまう。
 そして、つくしにしても隠すつもりではなかったにしろ、静に会いに行ってしまったことを言いあぐねていただけに、彼に負い目を感じていたから、そう言われてしまえば何をどう話してゆけばいいのか言葉に詰まってしまう。
 「あ……それは、その、ごめんなさい。黙ってるつもりはなかったんだけど」
 知られていたことで、結果、隠してしまっていたことになり、つくしが恐縮して項垂れる。
 「それはまあ、いいよ。お前のことだから、お前が言うように、俺に隠し事をしたり、ウソをついたりとかそういうつもりじゃなかったって言うのは、俺にもわかってる。単純に言い出しにくくて、自分のやったことに自信がなくて、グルグルしてた。……そういうことなんだろ?」
 そのとおりだ。
 類の言葉のどこにも反論の余地がない。
 彼にしても、あえてそこらへんを突っ込むつもりだったのではなく、溢れ出した憤懣でしかなかったのだろう。
 あっさりとそのことに固執することなく、元の話題へと話しを戻す。
 類に尋ねかけていたつもりが、いつの間にかつくしの方が詰問されてしまっている。
 「フゥ。とりあえず話を戻すけど、静のことはともかくとして、俺があいつを今も想っているとか、あいつが心配で気になってるとかって、何?いったいどこからそんな考えが出てきたわけ?」
 …静さんのことをまだ、忘れられないって、あんたが言ってたんじゃないの。
 だが、そう口に出して言うことはできなかった。
 類の声音から温もりが消え、つくしに怖気を震わせるほどに冷たさを帯びていて、彼の怒りを彼女にも容易に伝えていたから。
 先ほどまで―――つくしが静の話題を出すまでの、類とはまるで別人のようで、だが、そんな彼をかつてつくしはよく知っていた。
 再会してからの類は穏やかな春の陽射しのようで、そんな凍てつくような冷たさはなりを潜めていたけれど、そうした彼もまた、彼の一面なのだ。
 そんな彼をもう見たくはなかったのに、自分は彼を怒らせて何をしたいのか。 
 それでも目を塞いで、耳を塞いで、自分や愛する人を欺くことは、いつか破綻を生むことをつくしはもう知っていた。
 過去の経験から。
 類とつくしが共に歩み出した今この時期、静が日本に帰って来ていなければ、あるいは、父を求めて彷徨い歩く杏樹と出逢っていなければ、もしかしたら、それらすべて遠い世界の出来事であったかのように、臭いものには蓋をして、何事もなくこうしてぬるま湯の中、二人でずっと生きてゆくことができたかもしれない。
 けれど、もう類は再会してしまったのだーーー静と。
 そして、つくしもまた、杏樹と出会ってしまった。
 だから、このままうやむやに、誤解から彼の傷をそのままにして、結果、彼が後悔するハメに陥らせたくない。
 …だって、あんたは私を助けてくれた人だもの。
 何度も何度も、何度も。
 遠い高校生の日。
 そして、今再び巡り逢って、一人暗闇の中にもがいていた彼女に、ただ自分がいて支えるからと、急かすのではなくただ寄り添うことで彼女の心を救ってくれた。
 そんな彼に、もう二度と取り返しのできない後悔をして欲しくない。
 類を愛するのと同じ比重で、つくしには彼への尊敬と感謝がある。
 「静さんが、日本に帰って来ていることをあんたは知らなかったって、ずっと以前に言っていたよね?」
 「いつのこと?」
 怪訝に問いかけてくる声音は本当に面倒臭そうで、それこそ静のことなどどうでもいい、不快な話題だと言っているようで、つくしの意気地を挫けさせかけるが、彼がそれを狙っていることは彼女にもわかっていた。
 「ずっと以前、あんたのお父さんや西門さんが、あんたと私の付き合いについて、あれこれ心配しだした頃のことだよ」
 「……ああ」
 「その時のあんたはもしかしたら…って、静さんの近況を予測してたけど、でも、それって実際には静さんの現状を知らなかったってことでしょ?」
 「そうだね。お前にもそう言ってあったつもりだけど?」
 そのとおりだ。
 かつて静から別れを告げられて間もなくの頃は、彼女の身辺を調査させていたけれど、彼女が婚家でそれなりに上手くやっていることを知ると、以来類は彼女のことに、タッチすることを辞めたと以前語っていた。
 それが彼なりの静や杏樹への愛情であり、静をさらなる苦境に立たせ、彼女の苦悩を深めた彼なりの悔いであり償いであったのだろう。 
 ただ我武者羅に静にすがり付いて、彼女の愛情を求めるだけだった少年は、長い歳月と苦悩の果てに、愛する女の幸せのために自分を犠牲にしても、見守ることができる大きな男に成長した。
 そうした彼の成長が静の弟への愛情を、恋人への恋慕へと変えることになったのであろうことは想像に難くない。
 …あの子からあの人へ。
 「だから、きっとあんたが知らないことがいっぱいあると思うの。……それを知らないままで、全部を誤解したまま、あんたにこの先の人生を歩ませたくない。後悔させたくないの」
 「俺が知らないこと?俺が知らなくて、お前が知ってることがあるって?」
 鼻で嗤う類の顔があまりに冷たくて、怖くて、意気地を失ってしまいそうになるのをぐっと堪えて、それでも、言わなければならないのだと震える声を叱咤し、つくしは言わなければならないことを言葉にする。
 「もちろん、当事者ではない私が全部が全部知っているとは思わないし、あんたや静さんの本当のところを推察するなんて、烏滸がましいことなんてできない。でも、今静さんに何かが起こっていて、もしかしたら、あんたの助けを必要としているのかもしれない。このままあの人のことを見過ごしてしまうことが、いつかあんたにとって、後悔することになるかもしれないってことだけは話すことができる」
 「静に何が起こっているか?」
 怪訝に尋ね返す類へと頷き、話し出す。
 「これはあんたも。元々ある程度知っていたことだったと思うし、……あんたのお義父さんから聞いた話でもある」
 「親父から?」
 怒りと動揺に冷たい怒りを放射して、投げやりだった類が、自分の父親の名前に顔を険しくさせ、態度を改めつくしへと向かい合う。
 「静さんはね……」




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