「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0767

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 以前に静の入院先に面会に来ていた女性に伴われ、タクシーから降りた杏樹をつくしは見つけた。
 杏樹の方はつくしには気がついていないらしく、自身の住まいの方ではなく、全く別の何かをぼんやりと見ているように見えた。
 が、何気なく振り向いた顔が怪訝につくしを見つけて、あっという間に彼女が誰であるのか認識したのだろう、わずかに目を見開き、ついで顔を険しくさせ、つくしへと向かって駆け出す。
 「あ、お嬢さんっ!」
 突然走り出した杏樹に、泡を食った女性が声をかけるが、あっという間に走り寄ってきた杏樹が、つくしを睨み上げる。
 「なんであんたがここにいるんだよ!」 
 以前には向けられなかったあからさまな敵意は、杏樹のつくしに対する認識を容易に伝えていた。
 「……こんにちは」
 「泥棒!」
 いわれなき非難だ。
 つくしが非難される筋合いなど欠片ともない。
 そんなことはわかっていたが、それでも幼い少年……今は少女だとわかっていたが、彼女の目に浮かぶ憎しみと哀しみに反論できなかった。
 「お嬢さんっ!」
 杏樹の腕を掴み、強く叱咤した付き添いの女性が、つくしへと頭を下げる。
 「申し訳ありません、失礼を」
 「……いえ」
 つくしのことを女性も知っているのか、動揺しているようではあったが、それでも不審さをその顔に浮かべてはいなかった。
 何かかけるべき言葉があった気がしたが、しかし、今は杏樹の横顔がつくしの言葉を拒絶していて、彼女から何を言われることも望んでいないことはあきらかだ。
 それでもなんとか小さく微笑んで、つくしは杏樹と付き添いの女性に頭を下げ、彼らに背を向けゆっくりと歩き出す。
 「どうして。なんでなんだよ」
 小さな呟きが、どこまでも彼女の背を追いかけてくる気がして、つくしはぐっと唇を噛み締めた。
 ―――どうして?
 杏樹の声でありながら、なぜかつくしには、その声が陽太や戒の声にも聞こえた。
 それはおそらく、大人たちの身勝手に振り回される幼い子供たちの悲嘆の声、そのものだったから。




*****




 初めて出会った頃の、類と静は一対の人形のように完璧な二人だった。
 誰もが彼らをお似合いだといい、二人が恋人同士であることを疑わなかった。
 つくしもそうだ。
 初めて知った恋。
 すぐに訪れた失望と諦め。
 恋と自覚する前から、自分の恋がけっして実らないだろうことが、彼女にはわかっていた。
 誰に言われなくてもわかっていた。
 王子様にはお姫様がいて、自分はけっしてお姫様になどなれないのだと、最初から望むことさえしなかった。
 それなのに、今こうして、なんの因果か王子様と再び出逢い、なぜかその手を繋いだ。
 …夢に見ることさえなかったのに。
 眠り姫ならぬ寝ぼすけ王子に毎日ブチ切れながら、そんな平凡で、……この上なく愛しい毎日が、永遠に続くことをいつの間にか疑わなくなっていたことに、いまさらながらに気がつかされる。
 それなのに、静が類を『あの人』と呼んだ声が耳から離れない。
 かつて彼女は、類のことを弟のように思っていたと言った。
 実際に、過去の静は彼を『あの子』と呼び、けっして一人の男性として見ていなかったように思う。
 …今となっては、だけどね。
 当時はわからなかった。
 つくしは初めての恋を知ったばかりの、恋に幼い少女で―――。
 誰かが自分に恋し焦がれて苦しむことがあるなどと思いもしなかったように、静と類の気持ちにズレがあることになど、まったく気がつきもしなかった。
 『あの人』と類を呼ぶ静。
 『あいつ』と静を呼ぶ類。
 「別にだからどうだって言うわけじゃないのに、一人で勝手に何鬱々としてるのよって話よね」
 「何を鬱々としてるわけ?」
 突然、背後からかかった声に、ビクリと体を震わせる。
 いつの間に帰宅していたのか、すでに上着を脱ぎ捨てていた類が、ネクタイに手をかけながら、小首を傾げて怪訝につくしを見ていた。
 「あ、お帰りさない」
 慌てて立ち上がって出迎える。
 「ん、ただいま」
 ネクタイを緩めただけで抜き取らないまま、類が歩み寄ってきて、柔らかくつくしを抱きしめ、顔を傾けて軽いキスを彼女の唇に落とす。
 チュッ。
 これもいつの間にかの習慣の一つだ。
 けっして甘ったるい男などではないのに、以前に毎日キスをすると言った宣言どおり、毎日お休みやおはよう、行ってきます、ただいまのキスをして来る。
 つくしにしてみても最初は照れたが、しかし、実は遥か過去にも、お馴染みの習慣だったからか、それほど抵抗感なく受け入れていた。
 …少なくても衆人環視の中で、ってわけじゃないしね。
 「で?何をそんなに悩んでたわけ?」
 拘られてしまっている。
 けれど、今はまだ、自分の中でさえも整理がついていない。
 …私、ホント、ダメダメだ。
 静に会いに行く時にも衝動で、会った後も結局、よけいにモヤモヤしてしまっただけで、自分の気持ちさえハッキリと見えないでいる。
 「つくし?」




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