「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0766

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 「そんな…、そんなっ!」
 つくしにも静の言いたいことはわかる。
 たしかに類と一緒になることは、花沢物産の‘花沢類の妻’になることであり、静にとって、それまでの弁護士のキャリアもそこに至るまでの努力も、すべて擲つことに等しいことだったに違いない。
 だからこそ、そんなことで、とは、言いたくなかった。
 それでも、類を愛する心はそう叫んで、静の想いを認めることを拒んでいたけれど。
 しかし、そう思う気持ちの裏側で、静がどれほどの決意をこめて、当時日本を、富豪の実家を出て単身渡仏したのか、その覚悟を思えば理解せざるえなかったのだ。
 つくしもまた、かつて司の妻となり、‘道明寺司の妻’以外の何者でもなく、つくし個人を誰にも認めてもらえないという葛藤に苛まれたこたがあったから。
 「あなたはきっと、さぞかし私のことを情のない、冷たい女だと思っていることでしょうね」
 「……………」
 頷くことも否定することもできずに、ただ俯くつくしへと、なおも穏やかな……すんぷ変わらぬ優しさをたたえた声音で、静が話を続ける。
 「わかって欲しいとは言えないわ。でも、わかってくれたら、と願わずにはいられない。あなたも、同じ男性を愛して愛された人だから」
 それは静の口から語られた、静の類への愛情。
 「迷ったことはないんですか?」
 類を捨て、自身の信じる道をゆくことに、本当に一分の迷いもなかったというのか。
 それならばなぜ、類を頼ったのだ?
 夫に愛されぬ苦しみを救って欲しいと、類に縋ったその弱さは、しょせん一時の気の迷いに過ぎなかったというのなら、静という女性は、かつて類が血を吐くように叫んだ、そのままの女性でしかなかったということなのかもしれない。
 ―――アイソふりまいて、誰にでもいい顔をして、優しいお嬢様然として、要領よくこなしてる。あんたの気まぐれて傷ついた人間がいても後始末はなしで、俺を弄んでる。
 けれど、つくしは静をそんな女性だとは思いたくなかった。
 類が自分のすべてを捧げて愛した女性。
 …そして、この人はかつて、類の手を引いて暗闇から連れ出した人なんだ。
 幼い少年に初めて、人の温もりを教え、誰かを愛して求めることを教えた人。
 「…………ねぇ、牧野さん?」
 「はい」
 「たとえば、あなたの存在が誰かの……あなたの愛する誰かの将来や、生きている場所を壊してしまうことになるとわかっていて、あなたは自分のエゴを通す決断を下すことができて?」
 「それは相手が何を望んでいて、どうしたいと思っているか、それによると思います」
 実際には、誰かを自分の犠牲にしてしまうくらいなら、自ら身を引き、耐えて自らの不幸を嘆くのみの道を選ぶ方がずっと楽で、自分でもそうしてしまうかもしれないと思う。
 けれど、そうしてしまった結果が必ずしも、相手の幸せに繋がると誰に言えるのだろう
 「そう、あなたは強いのね」
 「いえ、すみません。言ってはみましたが、やっぱり私にも難しいことだし、その時になってみないと答えがでないことだと思います」
 正直でいたい。
 相手からも正直な気持ちを引き出したいのなら、けっして繕わず、自分の剥き出しの心で、相対するべきなのではないかと思ったから、本音で語りたかった。
 「ありがとう」
 けっして静を慰めるつもりで言った言葉ではなかったというのに、静に礼を言われて、つくしの方が面食らってしまう。
 静の言葉の何かが心に引っかかった。
 類の将来、生きている場所、そんな言葉を他の誰かからも違う言葉ではあったが、つくしに言った人間がいなかったか。
 …そうだ。
 「あの、もしかしてなんですけど」
 「……………」
 無言で促す視線に、おずおずと思いついたことを口にしてみる。
 「類のお父様にお会いになりました?」
 愚問ではある。
 静は類の幼馴染みなのだ。
 幼い頃、何度となくお互いの家に行き来もしただろうし、その親とも面識があるのは当然だった。
 しかし、そういうことではない。
 まだ類とつくしの結婚の話が具体化する前に、類の父は彼女に会いに来た。
 彼女の過去の経歴を調べ上げ、彼女がどんな女か、花沢物産に不利益を与える存在ではないかと確認に来たのだ。
 そして、かつては類と娶せることも考えただろう静をして、‘あの女’と呼び、他人の妻である女から、息子の子が生まれることなどあるはずがないと、杏樹の存在そのものを完全否定してのけた。
 「静さんが類と別れた当時、もしかしたら、彼のお父様が訪ねてらしたりしたことがあったのでは?」
 ―――もしかしたら、つい最近も、会っている可能性がないわけではないことに気が付く。
 どうして静は類とつくしが付き合っていることを知っていた?
 また、それだけならば、桜子や千恵子のように、掲載された雑誌から知ったということもあり得たかもしれない。
 しかし、以前に出くわした時には、そんなことを静はおくびにも出していなかったし、結婚などということまでは出ないはずだ。
 つくしと類の婚約はあくまでも内うちのことで、類が目を光らせてることもあり、今回は類の父親も静観している。
 そして、つくしの問いに儚げに笑んだ静の顔に、つくしは肯定を悟った。
 静は何も言いはしなかったが、否定しないことこそが答えだったのに違いない。
 「そうなんですね?類のお父様に頼まれたからっ」
 息子と別れてくれと、類や花沢物産の未来に影を差し類の将来を閉ざす恐れを示唆されたのだろう。
 「もう、終わったことよ」
 「静さんっ!」
 「類にはあなたがいて、……私には杏樹がいる」
 「でもっ」
 「過去を振り返っても仕方がないことだし、埋もれたものを掘り起こしても、何一つ良いことなどなくてよ」
 それはつくし自身が常日頃、自身に言い聞かせていることだった。
 そして、桜子に忠告された言葉でもある。
 けれど、その言葉にこそ、静の心情が込められていると思うのは、つくしの自身を重ね合わせた勝手な思い入れに過ぎなかったのか。
 「静さんは、類をどう思っているんですか?!」
 「過去のことは」
 「過去じゃない。今、今なんです!」
 杏樹にとって、……そして、もしかしたら、類にとっても今なお、なのではないのだろうか。
 「私に後悔はないの。いずれ、時がすべてを、洗い流してくれることでしょう」
 それはつくしの知りたかった答えではなかったし、静もその欺瞞を十分に自覚していただろう。
 「答えてください」
 「たぶん類は、昔からあなたのことが好きだったのね。それがとても寂しくて、でも、弟のためにはきっといいことだと思っていたのに。そのまま変わることなく、彼のことを弟のまま愛し続けていられれば、きっとお互いの為にも良かったのでしょう。……それだけは後悔してるの」
 「静さんっ!」
 食い下がるつくしに、静が席を立つ。
 「今日は来てくださってありがとう。……私の、私たちのことは、これまでどおり、忘れていてくださると嬉しいわ」




*****




 静に遠まわしに帰るように促されてしまっては、いつまでも居残り続けることはつくしにはできなかった。
 突然の訪問の非礼と、歓待に礼を言い、つくしは静の住まいを辞した。
 まだ、聞きたいことがある。
 言わなければならないことがあった気がして、けれど、静がそれを望んではいないことがわかっていたから、もはや、つくしにはこれ以上どうすることもできないことは自覚していた。
 …どうすることもできないって、私はいったいどうしたいのよ。
 静の下へ訪れる前にも自問した疑問。
 はぁ~っと周囲を見回して、未だに古き良き時代の名残を残す町並みをぼんやりと眺める。
 「なんていうか、意外に下町情緒っていうか、この辺って、門前町っぽさがまだまだ残ってるよね」
 そんなことを呟いて、ふいにつくしは思い出した。
 静は古馴染みの乳母的な女性が、昔からこの辺に住んでいると言っていたことを。
 …昔からってことは。
 類は静の幼馴染みだ。
 もしかしたら、この辺には類も来たことがあるのではないだろうか。
 類とつくしが住んでいるマンションの間近とは言えないが、それでも駅で言えば一駅ほどか。
 東京の中心地の一駅。
 歩いて来れないほどの距離でもなく、実際に杏樹も、類のマンションの近場の公園に通っていたのだ。
 それほど会社から遠方でもないのに、使用人が何から何まで管理し整えてくれる便利な実家の屋敷ではなく、わざわざ類がその実家を出て、不便な一人暮らしを選んでこの辺に住んでいた意味。
 考えすぎかもしれない。
 現在はともかく、類が日本に帰ってきた当時は、静はまだフランスにいて、日本に帰っては来ていなかった。
 …類。
 胸の奥底から湧き上がってきたモヤモヤとしたものに胸を塞がれ、つくしは重い息を吐いた。
 気を取り直そうと顔を上げ、
 「あ……」
対面側からやってきた人影に、小さく声を上げた。




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