「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0761

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 類とつくしが公園で静と出くわして、すでに半月が過ぎていた。
 その間、類はともかくとして、……つくしはずっとこれまでと同じように公園に通い続けていたが、あれほど毎日のように公園に来ていた杏樹は、まったく姿を現さなかった。
 当然、静と出くわすこともなく、つくしが公園に通い続けていることに、類は何も言いはしなかったけれど、彼がなにがしかの屈託を抱え、つくしの行動に対しても何か思うところがあるのはなんとなくだが、彼女も感じ取っていた。
 …わかっている。
 桜子に言われなくても、自分のしていることがよけいなお世話なのだと。
 誰が望んだわけでもなく、それどころかおそらく、類はつくしの行動に眉根を潜めているのだろうし、彼女がそうすることで杏樹や静に何か益になるわけでもない。 
 それどころか、杏樹が公園へと出向かなくなったことこそ、彼女たち母子の意思なのではなかっただろうか。
 もし、つくしが静の立場で、類との過去や関係を我が子に話していないのなら、……もっと言ってしまえば、杏樹の出生について語っていないのであれば、その父親かもしれない人物と我が子との交流を好ましく思うはずもない。
 …でも。
 杏樹はそうではない気がした。
 そして、類との再会を歓迎している風ではない静だったが、それでもなぜか彼女もまた、けっして類に対して何も感じていないわけではないと、つくしは感じていた。
 根拠?
 そんなものはなかったけれど、おそらく女のカンといったものだったかもしれない。
 静の類を見る眼差しはどこまでも懐かしく、かつて深い関係があった男性を見るにしては妙に高潔で、どうかすると年下の親族か何かに対するような、どこまでも生臭さを感じさせない不可思議なものだったが、だからこそよけいに奇妙だったのだ。
 いくらかつて弟のように思っていた幼馴染みだとはいえ、曲りなりにとも過去に肉体関係があって、片方の類が不倫だったと断言しているような間柄にまで陥りながら、いつまでもそんな高尚な気持ちでいられるものだろうか。
 静は普通の女ではない。
 ごく平凡なつくしでは理解しがたくても、おかしくはなかった。
 それでも、静とてただの一人の女性でもあるはずなのだ。
 誰もが特別視したF4、司や類もまた、悲しむこともあれば寂しがったり苦しんだり、幸せになりたいと足掻く普通の人間だったように。
 …私だったら、絶対に普通でなんかいられない。
 疚しさであれ、疎ましさであれ、おそらくけっしてプラスではない感情に苛まれて、相手の顔をしかと見ることさえできなかっただろう。
 …それに類だって。
 花沢の屋敷に、……という話は、とりあえずは保留になっていた。
 立ち消えたわけではなかったが、類にしても今日明日と差し迫った話で持ち出したわけではなく、それどころか単純に静の出現に触発されての、提案だったことはつくしにもわかっている。
 ああいう男だったからあからさまにはしていなかったが、それでも2年以上もこうして一緒に暮らしていれば、つくしにだって今の彼は普段とは違うことは察せられたし、それも当然のことだろうと思う。
 静はあれほど彼が愛した女なのだ。
 今、彼が静に対して抱いている感情が何にしろ、あれほど病み衰えて、窶れた様子もあらわな彼女を見て、平気でいられるはずがない。
 類は冷たい外見とは裏腹に、柔らかな優しさと愛情の深さを持つ男だから。
 ーーーそして、おそらく杏樹のことも。
 三人三様の苦悩と哀切がそこにはあって、だが、ただ1人蚊帳の外で、つくしだけが右往左往してヤキモキしている。
 ようはそういうことなのだろう。
 「でも、だからって、こんなところに来ちゃって、私もいったい何をどうしたいんだか」
 半ば背面側に反り返って、白く高い病棟の建物を、片手を目の上にあて遠く仰ぎ見る。
 さんざん迷った。
 悩んで、このまま類のしているとおり見ないフリ何もなかったフリで、これまでのように平和で穏やかな毎日を享受して、いつかは類の言う永遠を二人で生きていければいいとそんな風にも思う。
 けれど、心の奥底の戒の泣き顔が、なぜか杏樹に重なって無視しきれない。
 そして、なんでもないフリで、冷たく鎧った類の心の奥底にある、彼の動揺と苦悩を、……そして、本心を。
 ―――だから先輩は偽善者だというんですよ。
 そんな桜子の皮肉に満ちた声音が耳殻に蘇った気がして、つい、ふふふと自嘲の笑みが零れた。
 「あら、牧野さんじゃない?」
 ギクッ。
 ついつい自分の中の屈託や物思いに夢中になってしまい、以前は気をつけていられたことをすっかり失念してしまっていたらしい。
 今更気がついても、後の祭りだったが。
 「お久しぶり。なになに、どうしたの?どこか具合でも悪いところがあるの?」
 「く、来栖さん」
 エントランスロビーに一歩も足を踏み入れないうちに、どうやらちょうど、別館から用事か何かで移動してきたらしい看護師スタイルの来栖ーーー以前、この大学病院につくしも勤めていた頃から旧知の看護師に発見されてしまった。
 「お、お久しぶりです」
 「珍しいわね…って、あら、牧野さんが辞めてからここに来たのって、初めてじゃない?」
 「はははは」
 そうではなかったが、とりあえずは笑って誤魔化すことにする。
 「今日は、お休み?」
 「ええ、まあ」
 休みというか、休んだというか、実際、今日この日に静が通院しているという確証もないのに、ずっと以前に杏樹が母親が退院後も定期的に通院していると話していたことを思い出し、やって来てしまっていた。
 数年前に静が入院していた時に彼女を担当していたという医師は、すでに大学病院を辞め他所へ移動していたが、彼に代わる同種の専門医の外来担当曜日が、隔週で今日だったのだ。
 いざとなれば、静にもらった名刺に記載されている彼女の携帯番号にかければ済む話だ。
 しかし、今はまだ何を自分が話し、静に問いかけたいのかさえカタチにもなっていないのに、彼女を呼び出す、あるいはただ電話で話だけでもその勇気が持てなかった。
 「牧野さんが勤めている病院も、けっこう大きな総合病院よね?」
 思い出したらしい来栖の怪訝な顔に、なんと答えたものかと内心で頭を悩ませる。
 …懐かしくなってとか?
 あんまりなさそうだ。
 たしかに懐かしくないとは言わないが、わざわざ平日の午前からやってくるほどの用件ではないだろう。
 かといって、バカ正直に、来るかどうかもわからない静を待ち伏せするつもりで来たというのも呆れる話だし、何のためだ、……さらには静と知り合いなのかと、根掘り葉掘りと聞かれるのも困る。
 「もしかして、誰かご親戚やお友達が入院してるの?」
 「え?そ、そうなんです!」
 つい渡りに船と飛びついて、
 「あら、そうなんだ?どこの病棟?私、今、内科棟の副師長なのよ。良かったらどの人か教えてよ、融通するから」
 「ええ?」
 融通するというのは冗談にしても、誇らしげに胸を張られ、まったくの出まかせだっただけに内心で焦ってしまう。
 …ま、まずいわ。
 しかし、いまさら知人など入院していないというのも言えやしない。
 どうしたものかと悩んでいるうちに、
 「あ……」
 来栖が軽く目を見開き、つくしから視線を外して、彼女の背後を見やった。
 なんとはなしにその視線を追って、振り返った先―――、つくしが声をあげるのが早いか、相手もつくしに気がついたように、話していた老齢の女性から視線を外してつくしを振り返った。
 「静さん」
 「……牧野さん」




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