「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0760

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 杏樹が類の子であるのかどうかは、類に聞くことはできなかった。
 類にしても、ある程度は確信しているからこそ、静と杏樹の写真をいつまでも保管していたのだろうし、あれほど最初のうちは杏樹と会うことを忌避して(たぶんそうなのだと思う)、つくしのことも公園に行かせまいとしていたのだろう。
 しかし、静からはハッキリと夫の子だと言い切られ、類自身もその真偽を知らされていないのだ。
 もちろん全てを壊してしまう覚悟さえあれば、その静の意志を無視して、DNA鑑定を求めることもできたかもしれない。
 だが、類はそうはしなかった。
 もし、それを望んで静が拒絶して、なおも強要しようとすれば、裁判に持ち込むしかなくなるが、そんなことをしてしまえば、すべて―――類と静の不倫関係は公になり、そうなれば静の夫も黙ってはいなかっただろうし、類や花沢物産ばかりではなく、静や杏樹までもが世間の晒し者となって深い傷を負ったことだろう。
 だからこそ一枚の写真にすべてを塗り込め、一人虚無に漂うことを類は選んだのに違いない。
 『今、静がどうしているかも知らなかったし、……まさか、こんな近くに住んでいたなんてことも知らなかったって言ったら、お前は信じてくれる?』 
 信じていないわけではない。
 もちろん、類の言うことは信じられた。
 日本にーーーそれも東京に、静が帰っているだろうことは、かなり以前、類の父や総二郎の言動から類も察してはいた。
 だが、それはあくまでも推察であって、某かの調査なり確認をしたわけではない。
 けれど、反面、腑に落ちたこともある。
 …類は、杏樹が静さんの子だってことも察していたんだ。
 たしかに最初は、彼自身の言うとおり、まさか、とは思ったのだろう。
 だが、類が杏樹を静の子だと思っていたのでなければ、説明のつかないこともある。
 類はけっして子供嫌いではなかったし、存外に懐かれればそれなりに相手をしてやることもあった。
 しかし、多忙な中、何よりも寝ることが大好きで、……好き嫌いだけの問題ではなく、激務による日頃の過労を養生する目的もあっただろう、休日の睡眠を返上してまで、彼がつくしの散歩に付き合っていた意味。
 散歩をすれば、近場の公園をコースに回って、そこで杏樹に会い、会えば和気藹々ではなくても、つくしと杏樹の会話に耳を傾け、杏樹がしたいと言っていたテニスに付き合ってやっていた。
 それは父性ではなかったのか。
 もしかしたら、類にもハッキリとした自覚はなかったのかもしれない。
 それでも自身が関わり育んでやることのできなかった、……我が子への情愛。
 …類は愛情深い人だから。
 彼の優しさは、誰よりもつくしがよく知っていた。
 冷たい美貌のそのうちに宿る柔らかな愛情。 
 『もう関係ないって言ったろ?……公園にももう行かない』
 つくしは類と杏樹が会うのを禁止したいわけではなかったのに。
 『そんなことより、そろそろ屋敷に入らない?』
 唐突になされたそんな提案。
 なんとはなしに、二人は類のマンションに住み続けてはいたが、将来的に結婚を視野に……ということになれば、花沢家の屋敷に入ることも視野に入れなければならない。
 もちろん、そうすることを類やその父に強要されたわけではなかったが、あれほど立派な屋敷がありながら、家人は無人の状態。
 類の両親も現在海外生活で、類の父のリタイヤ後はどうやらどこぞの片田舎に引っ込んで、夫婦でのんびりとした老後を過ごすつもりでいるらしく、どちらにせよ、東京の屋敷に戻るつもりはないらしかった。
 『このままマンションにずっと住む……っていうのなら、それはそれでかまわないんだけど、いずれ親父がリタイヤしたら、何かと花沢関係の付き合いがこっちにドッとシワ寄せくることになるだろうし、もし、つくしがイヤでなければ、屋敷の方が何かと都合がいいかもとか思うんだけど?』
 類は花沢家の一人息子だ。
 彼と結婚すれば、いわゆるつくしは長男の嫁になる。
 覚悟がないわけではなかったが、それでも今この時期に、彼がそんなことを急に言い出した気持ちの裏側を探らずにいられない。
 そして、おそらくつくしのそんな屈託もわかっていての、類の提案なのだ。
 静を気にして、類の心の内を気にせずにはいられないつくしの為の―――。
 ずっと以前に、桜子から言われた言葉が脳裏に蘇る。
 ―――先輩は、ご自分と花沢さんのことだけを考えて。昔の女のことなんて、どちらにとっても気にしていいことなんて一つもありませんよ。
 つい最近も、
 ―――先輩は、他人を押しのけてまで自分が幸せになるという気概が希薄な方です。ですが、それは自分を追い詰めるだけではなく、先輩にとって一番身近な人にとっても、残酷な結果になりかねません。
そんな忠告をされてしまっていた。
 …私だって、幸せになりたいし、自分の幸せだけを考えていたい。そんな良い人なんかじゃない。
 誰を押しのけても、自分の幸せを追求したいという欲求がある。
 けれど……。
 類の杏樹を見る愛しげな眼差しが、いまだに静を見て虚ろになる横顔が、杏樹の哀しげで切なげな横顔が何度も蘇って、戒に重なってしまう。
 つくしは、ざわめく心の漣を、どうしても宥めることができないでいた。
 …また、桜子に偽善者と言われちゃうかもしれないけど。
 こんな時に、優紀がすぐそばにいてくれればと願わずにはいられない。
 彼女にも聞いてみたい。
 あの下がり眉の思いやり深い友の考えを。
 けれど、現在彼女は遠い遠方の地で、子供を出産したばかりで慣れない子育てに悪戦苦闘し、一人日々奮闘している。
 夜泣きにも悩まされているらしく、先日ご機嫌窺いに電話した時にも、疲れた声音で、とても長話できるような状態ではなかった。
 「ハァ~」 
 溜息を一つついて、腕時計を確認する。
 この公園のベンチに腰掛けて、すでに30分ほどか。
 いつもはウォーキングと銘打っているだけに、こんなところにボウッと座っていたりせずに、あちらこちらと思うままに練り歩いているのだが。
 …さすがに来てないか。 
 見慣れた少年……いや、少女か、杏樹の姿を目で探すが見当たらず、つくしは重い腰をあげた。
 彼女に会って、何をどうしようという算段があるわけではなかった。
 あるいは、静もただ類と彼女を、旧知の人間だと話しただけでで、それ以上のことは何も語らなかったかもしれない。
 しかし、杏樹のあの、何かを訴えかけるような切なげな目や顔が、類のことを、元々知っていなかったとは思えなかった。
 そして、それもおそらくは、ただの有名人という認識ではなかったに違いない。
 …たしか初対面で、あの子、‘花沢類’とか言い当ててたよね?
 類はアイドルや芸能人ではないのだ。
 「フゥ」
 再び溜息。
 さすがにつくしにしてみても、そろそろ引き上げなければ出勤時間に遅刻してしまう。
 なんにしても、杏樹とは、元々必ずしも毎日会っていたわけではないのだ。
 ほとんど待ち合わせていたに近い頻度ではあったが。
 「杏樹、今週の週末には来るかな」
 類はもう二度と、公園には行かないなどと言っていたが。
 つくしは自分がいったいどうしたいのか、何をしようとしているのか、自分で自分を掴みかねていた。




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