「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0759

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 …あの子は、あんたが父親だと知っているの?
 その答えは、すでにつくしの中にもある気がしていた。
 類と杏樹の容姿に、それほどの相似性があったわけではなかった。
 少なくてもずっと以前、類の書斎で見つけた静の抱いていた幼児ほどには似ていない。
 …どちらかと言えば、静さん似だよね?
 だが、杏樹は戒のように親によく似たタイプの子供ではなく、あえて言えば彼らの子供だと言われれば納得できるほどに、際立って美しい子供だというくらい。
 しかし、思い起こしてみれば、杏樹を初めて見た時に誰かを思い起こさなかったか。 
 ふとした仕草やちょっとした部位が、馴染みある誰かを彷彿とさせた。
 それが今、彼女の目の前にいる男性であり、……遥か遠い過去、彼と似合いの一対だと羨み、関係のあった女性だったとは思わなかっただけで。
 写真の子供が杏樹であることは間違いない。
 静が自分の子だといい、年頃的にもそれくらいの年齢だ。
 そして、ずっと腑に落ちずにいた、杏樹の類を見る何かを訴えかけるような眼差しや、切なげな顔が、時折、つくしを見る不可解な視線の意味が、その答えを自ずとあきらかにしている気がした。
 そうだ。
 今ならわかる。
 杏樹が時折、彼女に向けていた視線の意味が、敵意と憤り、……哀しみであったのだ。
 杏樹の目は言っていた。
 …なぜ、どうして?
と。
 その疑問の続きを解き明かすならば、
 …なんで、その人が一緒にいるのは俺やママじゃなく、あんたなの?
だったのではなかったか。
 「類?」
 つくしの問いかけに、彼らしくもなく言葉に迷ったように逡巡して、けれど、類の口から出た言葉は、つくしの予想とは真逆のものだった。
 「……いや」
 「知らなかったの?」
 「ああ」
 「本当に?」
 類はつくしを騙したり、自分を守るために誤魔化したりする男ではない。
 そうは思っているのに、彼の答えがあまりにも意外すぎて、疑わしすぎて念を押さずにはいられなかった。
 類が小さく息を吐き出し、つくしに背を向ける。
 別にそれが何かしらの意思表示というわけではなくて、ただ、場所を移動するためだけの動作でしかないというのに、それが妙に寂しくて……哀しくて、つくしは思わず類から顔を背け、ぎゅっと目を瞑り拳を握り締めた。
 「とりあえず座ったら?」
 話そうということだろう。
 自身でキッチンに立った類が、カウンター越し、茶器の準備をしながら彼女に座れと促してくる。
 唇を噛み締め、だが、素直に類の指示に従って、ダイニングの椅子へと腰掛ける。
 ーーーいつものように。
 何かあった時、あるいは何もなかった時にも、二人、こうして話し合ってきたのだ。
 トンと、目の前に置かれたカップを見下ろして、つくしはポツリと呟いた。
 「ミルクティ?」
 それも、ホットというヤツだ。
 類は、つくしにはホットミルクを、自分にはちゃっかりつくしが作りおいた麦茶を配膳して、つくしの座っている席の対面側へと腰を下ろした。
 「落ち着けって、言いたいの?」 
 「まさか。シャワーから出た後、俺が暑がるのを見越してけっこう強めにクーラー入れてくれてただろ?でも、つくしには寒かったんじゃないかと思っただけだよ」
 寒い……というほどではなかったが、類が入った別の浴室で彼女も汗を流してから、たしかにけっこう時間が経っていた。
 どちらかといえば冷え性に近いつくしにしてみれば、適正室温よりもかなり涼しめだ。
 「あったまるよ?でも、ヤケドしないようにね」
 「うん」
 類の勧めに素直に頷いて、つくしは両手で包み込んだ湯気の立つカップに口をつけ、慎重にズズズッと啜り込む。
 …温かい。
 ジンワリと沁み入る温かさが、知らないうちに強張っていたらしい体の緊張を解してくれる。
 たとえ違うと言っても、彼がそんな彼女の為にチョイスしてくれたことは間違いない。
 「美味しい。ありがと」
 「ん。………一つだけ、誤解のないように言っておくけど」
 口調を改めた類の言葉に、つくしがカップの紅茶から顔を上げ、類の顔を見返す。
 彼がいったいどんな表情をしているのか、あるいは、自分が彼をどんな目で見てしまうのか、密かに案じていた彼女の心配をよそに、類の顔はいつものとおり何ら変わってはいなかった。
 少なくても表面上は。
 「静とは、7年前あいつに別れ話をされて以来、一度も会っていなかったし、連絡を取り合ったこともない」
 「……………」
 「当然、静の子供にも俺は会ったことはない」
 それならば、あの写真は?
 そんなつくしの疑問を、問われずとも類も察したのだろう。
 間を置くようにしてグラスを手に取り、わずかに麦茶を口に含んで、再度口火を切った。
 「けど、静のその後の動向を探ったことがなかったと言えば、嘘になる」
 「………調べたの?」
 「ああ」
 会ったことがない、連絡をとったことがないというのなら、それしかないだろう。
 そして、そうしたことに対して、彼らは敷居が高くない。
 「そうは言ってもあいつと別れた直後の頃だけだし、知ったことと言えば、……静がフランスの婚家で、子供を無事出産したことと、その後も変わりなく、弁護士業との二足の草鞋で結婚生活を送っていたことくらいかな」
 「変わりなく」
 「そう。……あれほど旦那とのすれ違いを悩んでいたくせに、笑っちゃうくらいに変わりがなかった」
 外側から見たことと、実際に違うことは珍しくはない。
 いくら類が人を使って調べさせたにせよ、その実態など本当にはわかりようがなかっただろう。
 けれど、ただ一人の女、どれほど世間に後ろ指を指されることだとわかっていても、彼女とならと、道ならぬ道に踏み込んだ女のその後のあまりな消息に、彼がどれほど傷つき苦しんだか想像に難くない。 
 一人で眠ることさえできずに、彼の性分に合わない爛れた生活を送り、荒んだ数年間を過ごした。
 「もう、俺の出る幕じゃないってことを、イヤというほど思い知らされたよ。もちろん、そんなこと、ずっと前からわかっていたことだけどね」
 「……………」
 ここのところ聞くことがなかった、類の虚ろな声音に、つくしの胸が軋んで、物理的な痛みさえも感じさせる。
 忘れることができない人。
 どれだけ憎んでも恨んでも―――。
 そんな彼の気持ちが痛いほどに、つくしにはよくわかる。
 どれだけ、彼が静を愛していたかも。
 ―――そして、きっと今も。
 つくしを愛する心とはまた別のところで、静を忘れがたく思っている類が、つくしには理解できた。
 …どうして、私は。
 嫉妬していないわけではないのに、そんな彼の痛みを当然のごとく受け入れてしまっている自分。
 「てっきり、女の子だと思ってた」
 類の心情からしてみれば、おそらくそれこそどうでもいいことだったに違いない。
 虚を突かれたように目を瞬いて、苦笑している。
 「杏樹?」
 「うん。……ほら、私、以前にあんたの書斎で写真を見つけちゃったことがあるじゃない?可愛いピンクのワンピースみたいな服を着てたから。だから、てっきりね」
 「女の子だよ」
 「え?」
 「アンジー※。俺も最初、あの子が男の子だと思ってたから、まさかと思ったけど。……髪さえ長かったら、あの子は子供の頃の静にそっくりだよ」




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※アンジー…アンジェリーナ、アンジェラ、アンジェリカなどの女性の名前の愛称。欧米各国で見られるこれらの名前は、ラテン語で天使を意味する(angelus)に由来している。まあ、杏樹=アンジュ=ange(仏 アンジュ)=天使の連想ってところで。ちなみにアンジュは男性名詞で、女性名詞はun ange(仏 アンナンジュ)だが、名前なのでどちらもありってことで。
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