「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0758

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 時が……時が、戻った気がした。
 遠い高校生の日。
 美しい王子様の傍らには、当然のように似合いの美しいお姫様が並び立っていた。
 それが物語のセオリーというもので、つくしにはそのお姫様に嫉妬することはあっても、彼女に成り代わりたいと思うことすらできなかった。
 「類……それに、牧野さん」
 三竦みの状態で、一番初めにその状態を脱したのは、やはりというべきか、彼らのうちでもっとも上位に立っていただろう静だった。
 けれど、束の間物思わしげに伏せられた目に、彼女の心情がわずかに現れていたか。
 静の腕を両腕で抱え込み、彼女に寄り添っている杏樹の目は不思議な色を湛え、そんな悲喜交々狼狽えている大人たちを怜悧に観察していた。
 類と静が、あるいはつくしと静が知り合いであることに、杏樹はなぜか驚いてはいないように見える。
 「先日……とは言っても、もう何ヶ月も前のことになるけど、牧野さんとは、病院でお会いして以来ね」
 柔らかく微笑んで、声をかけてくれる静に、自然つくしの強張っていた顔も緩んで、なんとか微笑みを返すことに成功した。
 「はい、お久しぶりです。すみません、また、あらためて、お見舞いに伺うと約束していたのに、……その、伺うことができなくって」
 恐縮するつくしに、静が鷹揚に首を横に振る。
 「いいえ、いいのよ。学生時代とは違うんですもの。そう言ってくれただけでも、とても嬉しかったわ」
 「はい」
 つくしへと頷き返して、あえて…だろうか。
 静が後回しにしていた、類へとあらためて向き直る。
 それでも彼女の顔に浮かぶ表情は、どこまでも沈着で、ただ懐かしげなものだけだった。
 かつて‘不倫’などという、生々しい男女関係が二人の間にあったことなど、微塵とも感じさせない親愛と慈愛のみに満ちた微笑み。
 それは遥か過去と同様、恋人へのものというよりは、たしかに弟か年下の親族に対するものに近かったかもしれない。
 少女の頃のつくしには、その違いがまるでわからなかったけれど。
 それでもつくしから類へと視線を転じる際に、つくしに見せた静の横顔は、過去には見せなかった屈託と、……躊躇があったようにも見えた。
 果たして、それはつくしの気のせいだったのか。
 「類も、ずいぶん久しぶりね」
 「……ああ」
 「どれくらいになるかしら。5年?6年ぶりくらいかしらね?」
 「その子が今7才だって言うんだから、7年なんじゃない?……妊娠中にたしか、一度会ってる」
 類の返答は淀みなく、静と同様、一見沈着なものだったけれど。
 低く掠れた声音の、どこか弱々しい響きと微かな震えに、つくしが気がついた。
 おそらく、静かも、そして、類自身も。
 それは、どれだけの時が経っていたとしても、静との過去を、けっして類が忘れることができなかったことを露呈していた。
 だが、今は、そんなことよりも―――?
 怪訝に静と杏樹を見比べるつくしの視線に気がついたのだろう。
 静が無言のまま、一同の会する様子を見守っている少年へと視線を転じた。
 「まだ、紹介がまだだったわね。といっても、どうやらいつの間にやら、もうお二人とは、顔馴染みになっていたようだし、いまさらかもしれないけれど」
 「えっと、その……杏樹、いえ、杏樹くんはもしかして、……静さんの?」
 まさか、という思いがある。
 …たしか、静さんのお子さんって女の子じゃなかった?
 杏樹の中に、静と―――類との相似点を探して、ジッと見る。
 そんなつくしの視線に嫌ってか、杏樹が彼女からふいっと視線を反らし、顔を背けた。
 「ええ、そう。瀬名川杏樹。この子は私の子よ」




*****




 お互いに予想外の再会であり、どうあっても和やかなものだとは言えないのは当然のこと。
 それでも静は、誰に対しても非礼ではないようにと振る舞い、かつてのように、どこまでも礼儀正しく、柔らかな優しさと笑顔で、類と―――つくしの二人に相対した。
 類の顔が見れない。
 彼が今どんな顔をしていて、静のことをどんな風に見ているのか。
 つくしは、確かめるのが怖かった。
 しかし、その突然の邂逅も、午後からの予定があるからという静の一言で、あっさりと終りを告げた。
 もちろん、類も引き止めはしなかったし、つくしもまた、彼女を引き止める言葉などあるはずもない。
 以前、つくしが、静の入院先の病院で彼女と再会した時のように、懐かしく旧交を温め合うこともなかった。
 ただ、別れ際、
 『類と、……牧野さん、お付き合いしているのでしょ?』
 静の言葉に絶句した。
 彼女の言葉は確信に満ちていて、それは質問ではなかった。
 その言葉は、静がかなり詳細に、類とつくしの関係を承知していることを窺わせた。
 ニュースソースは総二郎か、あきらか、……よもや司からということはあるまいが、それにしても、雑誌や世間の噂話程度のことではないようだ。
 『もうすぐ結婚するのよね?凄く、お似合いよ。驚いたけど、牧野さんとならきっと、類も幸せになれるわね。凄く安心しているの』 
 つくしはなんと言っていいのかわからなかった。
 それがただの幼馴染み、かつて、類と姉弟のように過ごし、あくまでも類の一方通行の初恋の相手の言葉だというのならばまだしも、一時期は、どんな恣意からなのかはともかくとして、曲りなりにとも恋人関係にあった女の言葉としては、あまりに慈愛に満ちて、……冷たすぎるセリフだったから。




*****




 「すっかり、ランチ、取り損ねたね」
 「え?」
 見るともなく、部屋の出窓を眺めていたつくしが、後ろからかけられた声に振り向いて、我に返った。 
 静と出くわした公園から、二人の住まいに戻ってすぐ、類がシャワーにこもってしまったので、つくしも一応は遅い昼食の支度に取り掛かるつもりでいた。
 しかし、エプロンに手を伸ばし、なんとはなしにキッチンと一続きになっている居間の出窓へと視線を向けた先。
 外の景色ではなく、出窓に置いた花瓶に飾っている野草のドライフラワーに目が止まった。
 それはずっと以前、類と二人で行ったさくらんぼ狩りの帰り道に、彼が摘んでくれた野草の花でつくしが手作りしたものだ。
 …あの時、二度目のプロポーズをされたんだっけ。
 彼女とこれからの人生を一緒に生きてゆきたいという類の言葉を、ある意味真剣に捕らえたのは、あの時からだったのではなかっただろうか。
 類はありのままの彼女のままでいいのだと言ってくれた。
 セックスを忌避する彼女に、しなければしないでかまわない。
 セックスは愛を表現する方法の一つではあるけれど、それがすべてではないのだ、と。。
 そして、司を忘れかねていてもいい、自分もまた、静を忘れられていない。
 それでも、愛情と優しさ、幸福と温もり、それらすべてを、自分とつくしの二人で育んでいこうと言ってくれた。
 彼の言葉に力と勇気を与えられたのだ。
 「どうせ、遅くなっちゃったついでだしさ。いっそ、食事は昼夜兼ねて、外で……」
 「類」
 「……ん?」
 「杏樹―――あの子が、静さんのお子さんだってあんた知ってたの?」
 …あの子は、類、あんたの子供なの?




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