「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0757

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 「わぁ、なんかの撮影かな?」
 「知らないの?ほら、ここ最近、テニスコートで……」
 コソコソ、ヒソヒソ、クスクスと、すれ違う人々の注目の中、平然と杏樹を背負って歩く類の斜め後ろを、つくしがチョコマカと小走りに追いかける。
 …ひ~、日頃デスクワークか、ぐうたら寝てばかりいるくせして、体力がないわけじゃないのよね、この人って。
 つくしの方は、1ゲームこなしただけで、大してプレイに参加したわけでもなかったというのに、すでに夏の日差しの暑さもあってかなりバテバテだ。
 片や類はといえば、元々の足の長さもあるのだろうが、けっこう大きめの子供一人を背中に背負っていても、涼しい顔でいつもの速度を保って歩いていた。
 チラッとつくしを振り返った類が、珍しく歩く速度を緩めてつくしの横に並ぶ。
 「そっち側じゃなく、こっち、反対側に来な?」
 「反対側?」
 顎をシャクられ、なんだなんだとつくしがキョトンとしていると、仕方なさそうに息を吐いて、わざわざ類の方がつくしの右手側から反対側へと回り込み、彼女を押し出すように木陰側へと追いやった。
 気のせいかもしれなかったが、それでも類の影と木陰の間で、幾分か涼しい気がしてホッと息をつく。
 「日陰の方が、ちょっとは涼しいだろ?」
 「うん。ありがと、類」
 いつもだったら、自然な動作でいつの間にか誘導されているのだが、類の両手が塞がっていたために、どうやらそれができなかったらしい。
 「あ、自販機!杏樹なんか飲む?」
 「え?……あぁ、別に大丈夫」
 断られはしたものの、一瞬、自販機に流した杏樹の目が輝いて、だが、すぐに躊躇したように断りを入れたのに、つくしも気がついていた。
 「妙な遠慮しないの。ただでさえ日差しがキツくなってきてるんだから、熱中症が心配でしょ?スポーツドリンクでいい?」
 「……ファ○タグレープがいい」
 「ぷっ、ファ○タグレープね。OK」
 子供らしいチョイスに思わず笑みを誘われてしまう。
 …そういえばこの子と初めて会った時も、ジュースを買ってたよね。
 子供はジュースが大好きだ。
 特に炭酸ジュース。
 親は顔を顰めるけれど、こうした体や歯に悪いものをこそ子供は好むものなのだと、あらためて思い起こしてなんとなくおかしくも思う。
 …戒には飲ませなかったっけ。
 自分の子供の頃はやはり炭酸ジュースが大好きだったくせに、自分の息子には飲ませなかったなんて、けっこう我ながら厳しい母親だったといまさらながらの感慨を抱いて苦笑した。
 「類は?」
 「ん、ミネラルウォーターって言いたいところだけど、スポーツドリンクの方が今は適切かな。……めっちゃ喉渇いた」
 「はは、そうだよね」
 しゃべっている間にも自販機の方へと移動して、懐から小銭入れを出してつくしが飲み物を買う。
 「この辺ベンチないけど、下ろしても平気?」
 「え?あ……うん、大丈夫」
 頷く杏樹を、類が背中からゆっくりと下ろしてやるのを見守って、つくしは購入した炭酸ジュースを杏樹に手渡してやった。
 「ありがとう、つくしさん」
 「どういたしまして」
 「わっ、類。あんた、背中、凄い汗でべっとり!」
 類は汗っかきなタチではなかったが、さすがに日差しのキツい真夏の暑い中、人一人を背負って歩いて密着していたのだから、とてつもなく暑かったのだろう。
 彼の淡いブルーのシンプルな半袖シャツの背中が、汗ジミで完全に透けてしまっている。
 背負われていた杏樹の方は、わりに厚手のコットンTシャツなので透けてはいないが、彼も相当暑かったらしく、やはり胸元がべったりと汗で濡れた状態だ。
 「マジ、あちぃ~」
 「だよね、あんたにしては凄い汗ダラダラ」
 杏樹が自分のポケットからハンカチを取り出して、顔や手足の汗を拭い出したのを見守って、つくしも類にスポーツドリンクを渡してやりがてら、自分のズボンのポケットから取り出したハンドタオルも類に差し出す。
 「はい、これであんたも汗、拭いなよ。ハンカチじゃ、とても間に合わないでしょ?」
 「ん」
 「って、おい」
 家にいる時よろしく腰をわずかに屈め、つくしへと顔を突き出してくる彼の意図はあきらかだったが、さすがに衆人環視の中で、彼の要求を受け入れてやれるほどつくしは神経が太くはなかった。
 「……自分で拭け」
 「え~、拭いてよ」
 「子供じゃないんだから、自分でやれっ!」
 無理やり類の手を取って、その手の中へとハンドタオルをねじ込み、ピシャリと尻を叩く。
 「痛い。ケチ」
 ブツブツと文句を言いながら、仕方なく類も自分で汗を拭き出した。
 これもそれも、日頃、つくしが彼が甘やかしすぎているせいなのかもしれなかったが、イイ年をして甘えてくる大男の可愛さに、ついつい要求に従って世話を焼いてしまう。
 …まったくぅ。ホント、人目をぜんぜん気にしないんだから、この人ってば。
 うっかり外でスクープでもされた日には、目も当てられない。
 今では二人は婚約しているのだから、たとえ写真を撮られてしまったところで、スキャンダルではあるまいが、それでもえらい恥かきではある。
 と、ふと斜め下から感じた強い視線に顔を向ければ、案の定、そんな類とつくしの大人げないやりとりをジッと見ていた杏樹の視線に出くわした。
 ―――内心でたじろいだ。
 杏樹の目に浮かんでいたのは、呆れとか驚きとか、そんなものではなく、不思議に苦痛を帯びた、切なげな哀しみに昏く陰っていたから。
 「杏樹?」
 「仲、いいんだね」
 「え?」
 「つくしさんと、……類さん」
 「そ、そうかな?」
 「どうして、いつも、類さんとつくしさんの子供は、二人と一緒に公園に来ていないの?」
 「ええ?」
 思わぬ質問に、驚いて杏樹の顔を見返す。
 しかし、杏樹の顔はどこまでも真面目なもので、どうやら彼が類とつくしを夫婦だと勘違いしているらしいことは、つくしもすぐに気がついたが、彼がどうしてそんな表情や眼差しをするのか、その意味がわからず困惑してしまう。
 「る……い?」
 自分たちは夫婦ではない、二人の間にまだ子供はいないのだと、正直に答えればいいだけだというのに、あまりに切なげで空虚な杏樹の声音に、反応に困って類へと助けを求め、つくしが彼を振り返り……かけた。
 「アンジー!」
 背後からかかった声に、ハッと杏樹が声の方向を振り返る。
 「ママン!!」
 「もうっ、あなたったら、こんな遠くの公園にまで一人で来ていたなんて!」
 鈴を鳴らすような軽やかな女性の美声が、半分怒りを含んで、……だが、あきらかに安堵して、杏樹へと歩み寄ってくる。
 「……っ」
 駆け寄ってきた少年を抱き寄せていた女性が、何かを感じ取ったかのように、ふいに顔を上げ、類とつくしを認めて怪訝に眉根を寄せる。
 そして、サングラス越し、彼女もまた驚愕に目を見開く。
 「類……」
 「……静」
 …静さんっ!?
 そこにいたのは、類の初恋の女性―――かつて、彼が誰よりも愛し、恋に破れた、藤堂静に他ならなかった。




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