「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0756

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 「本当にいいの?」
 「うん、タクシー代とか、必要な時用に現金も持ってるから」
 聞いてみると、杏樹は小学校1年生(日本の学齢では)にしてカードも持たされているようで、基本はカードが普通の生活習慣を持つ子供らしかった。
 …なんか、どっかの誰かを彷彿とさせるけど。
 とはいえ、そのどっかの誰か、類や司ほどにはド外れたセレブの子というわけではないのだろう。
 いつ見ても一人なのはともかくとして、さすがにそこまでの富裕層の子供であれば、勝手に一人で出歩くなど言語道断な話だろうし、それこそフランスでつけられていたように、いくら親が多忙であっても子守やボディガードの一人も付けられていたに違いない。
 …どんな親御さんなんだろ。
 眉根を潜めるとまでは言わない。
 しかし、家庭環境は別にしても、いかにも誘拐被害にあってもおかしくなさそうな杏樹のような子供を、一人歩きさせている親がつくしには想像できない。
 「じゃあ、とりあえず類が戻ってきたら、タクシー乗り場まで送っていくね」
 「ん、お願いしま……あ」
 軽快な音楽が杏樹の懐から聞こえ、杏樹がズボンのポケットから携帯電話を手に取り、電話に応答する。
 「はい。……ん、そう。俺?…………うん、大丈夫って言ったじゃん、いつものことだもん。ママンは自分のカラダのことだけ考えてればいいから」
 当然、電話の向こうの会話はつくしには聞こえないが、どうも怒られているようだ。
 反抗的という感じでもなかったが、それでも応対する杏樹の返事は素直とは言い難く、もしかしたら杏樹もまた、いわゆる中間反抗期という時期を迎えているのかもしれない。
 …戒もこんな感じで、司ーーーお父さんとかお義母さんに、生意気な口をきいたりしてるのかな。
 陽太とは母子でいる期間も短かかったからだろうが、彼の穏やかな性格もあって、そんな反抗されるような時期を、つくしはほとんど彼と一緒に過ごすことができなかったから、電話で母親と話している杏樹をついマジマジと観察してしまう。
 「別にいいだろ?言葉遣いなんて。それより!そういうわけだから、そんなにすぐに戻れないよ。もうちょっとしたらタクシー……あ、ママン、もう診察終ったんだよね?もし体調が悪くないようだったら、こっちに迎えに来てよ」
 電話をかけていた杏樹が、チロリとつくしの顔を見た気がして、怪訝に少年の顔を見返す。
 しかし、それはどうやら彼女の気のせいだったのか、そのまま視線はスィッと反らされ、杏樹は母親らしい人物との通話を続けている。
 だが、やがては話がついたらしい。
 「わかった…うん、待ってる」




*****




 結局、日頃杏樹が面倒を見てもらっている家政婦が迎えに来てくれることになったとかで、公園の裏手の駐車場で、迎えの車を一緒に待つことになった。
 「これ、……たぶん大丈夫だと思うけど、もし怪我がひどかったり、保護者がなんか言うようだったら連絡して?」
 類がスラックスのポケットから取り出した名刺入れの中から、自分の名刺を一枚抜き出し、簡単な応急処置を済ませてベンチに座らせている杏樹へと差し出す。
 保護者への謝罪等は遠慮した杏樹だったが、その名刺は素直に受け取った。
 「花沢物産東京本社副社長・花沢類」 
 以前に漢字は苦手だと言っていた杏樹だったが、帰国子女の小学校一年生とは思えない識字力で、名刺に記載されていた文字を読み上げ、まるで押し抱くようにして大事に手の中にしまい込んだ。
 「必ず応答できるとはかぎらないけど、一応、直通だから、俺が出れなくても、俺の秘書の誰かしらが受けるから伝言してくれれば大丈夫」
 プラベートNo.ではないらしいが、それにしても他人に自分の連絡先を渡すなど類にしては珍しいことで、少なくてもつくしの前で、自分から素性の知れない相手に自分の情報を彼が自ら渡しているのは初めて見る。
 …いくらこの子がいい子だからって。
 年齢的なものもあるだろうが、これまでの付き合いで、杏樹が薄暗い思惑を持つようなあざとさをもつ子どもではないことは、つくしにもわかっていた。
 人品卑しからぬ風貌からしても、それなりに良家の子息であることは容易に察せられ、類から得た連絡先を利用して、なにか悪意ある行動をとるとは思えない。
 だが、杏樹に対する信頼や彼のつくしたちへの好意は、あくまでも杏樹個人に限ったことで、その親も同じとは限らないのだ。
 そもそも杏樹のこれまでの言動から、どうも杏樹自身、ただならぬ素性をもつ子供なのではないかという気がつくしにはしていた。
 もちろん、のほほんとして見えても、類もやはりそうした家に生まれた人間の常として、警戒心がない方ではなかったし、むしろ並の人間よりも遥かに洞察力にも優れ、思慮深く、つくしなどに心配されるような人間ではないが。
 「移動しようか」
 「あ、はい」
 「この子は俺がおぶってくから、つくし、荷物頼める?」
 「うん、了解」
 ベンチに腰掛けている杏樹へと、おもむろに類が広い背中を向けてしゃがみこんだ。
 「あ、俺たちの方のデカイ荷物の方はいいよ。せいぜい近所の散歩だし、俺もいることだからとか思って、SP連中置いてきたから貴重品くらいは持って歩いた方がいいけど、残りはあとで誰かに取りに来させるからさ」
 「え~」
 「それか、どのみち俺らも帰り道はここに結局戻ることになるんだから、その時に持って帰ればいいんじゃない?」
 「まあ、それはそうなんだけど」
 根拠もなく人を疑うものではないとは思うものの、類とつくしの所持品であるラケットバックやラケット類は、そこらのスポーツ用品店で販売されている規格品などではなく、オーダーメイド品で、スポーツ用具と一口に言ってもかなりの高級品だ。
 特に周囲の女性陣の類を見るキラキラとした眼差しを見るに、そうした高級品ではなくても、いわゆるファン心理というヤツで盗まれかねない気がする。
 …でも逆に衆人環視状態だから、めったなことはできないかな。
 類にしても、ラケットの一本や二本なくなったところで、痛くも痒くもないだろう。
 「つくしは、この子のラケット持ってやって?」
 初日を除き、杏樹も休日に公園に来る時には必ず、毎回自宅からマイ・ラケットを持って来ていた。
 つくしだけが公園に立ち寄る平日には、杏樹はラケットを持って来ない。
 そんなことから、当初杏樹はつくしにテニスをしようと誘いかけてきたけれど、本当に彼が目的にしているのは、つくしとテニスをすることではなく、類とテニスをすることなのだと、いつの頃からかつくしにもなんとく察しがついていた。
 …まあ、私より類の方が断然上手いしね。
 つくしも元々スポーツは苦手ではないのだが、そこは長年のブランクもあり、とてもではないがプロプレイヤー並みの実力者である類や、体力の塊である子供に対抗できるものではなかった。
 遠慮しいしい、それでも促されるままに、類の背に背負られた杏樹の顔は羞恥にか、……いや、おそらく喜びにだろう、赤く高揚し、照れ臭そうにしつつも素直に身を任せている。
 ギュッと類の逞しい首に両腕を巻きつけて、その肩に顔を押し付けていた杏樹が、ふふふと小さく笑いを零し―――ポツリと小さく呟いた。
 「すっごく、おっきな背中」




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