「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0755

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 「そこ、もっとコンパクトに当てて。ストロークと同じタイミングで引くと振り遅れるから」
 類の指示に、かなり大ぶりなモーションを取りかけていた杏樹が、テイクバック※の角度を小さく取り直す。
 …なんていうか、長閑な公園の屋外コートっていうより、ウィンブルドンかどっかの大コートに見えてくるわ。
 童話から抜け出した王子様……というよりは、今や神話にでも出てくる男神バリの美男と、洋画の天使のような美貌の少年が、ラケット片手にコートを走り回る姿は、一枚の西洋絵画のようで、練習だとは言え一見の価値があり、目の保養だった。
 さすがにコート周辺を間近に取り囲んでいる人はいなかったが、つくしを審判に打ち合う類と杏樹のコート間近のフェンスには、女子高生だろうか、若い女の子を中心に老若男女が鈴なりに取り付いている。
 類のスケジュール上、毎週決まった休日ごとにというわけではなかったけれど、なんだかんだと一度ならず、公園で杏樹と顔を合わせるたびに、少年を加えた3人でテニスをすることがここ2ヶ月近くの習慣となっていた。
 「わっ」
 すぐ背後を通り過ぎて行ったボールを追おうと方向転換しかけた杏樹が、足がもつれたようにつんのめって、ズルリと足を滑らせ地面に座り込んでしまう。
 「大丈夫っ?」
 「いたたたた」
 慌ててつくしが審判台から飛び降りて、蹲る少年のもとへと駆け寄った。
 類の方はそれほど焦ることなく、ゆったりと歩み寄ると、ラケットを杖がわりに杏樹の傍にしゃがみこんで、顔を顰めている彼を覗き込む。
 「捻挫?」
 「わかんない。……グギッてしたけど」
 類が足首を抑えている杏樹の手を外させ、触診するような手つきで少年の足の怪我の具合を確かめる。 
 「ど?」
 「ん……あっ!そこ痛いっ」
 「ふぅん?」
 「大丈夫?病院行ったほうがいいかな?」
 つくしも心配で一緒に覗き込みながら、真剣な類の横顔に尋ねかける。
 「別に平気じゃない?まあ、今はまだ捻ったばかりだから、ちょっと衝撃が来ているんだと思うけど、見て触った感じ特に骨がどうのってわけじゃないと思うよ?」
 「うん、平気」
 類の言葉に同意して、それでも少しホッとしたような顔で微笑む杏樹につくしも安堵するが、それでも少しだけ悩む。
 …うーん。でも、だからって、よそのお子さんを怪我させて、はい、大丈夫っていうのもアレだよね?
 一応は病院で見せるべきか、あるいは親に連絡をして謝るべきか。
 「とりあえずはベンチに移動しよっか。こんなところで座り込んでても仕方ないし」
 「あ……はい」
 言われて立ち上がろうとする杏樹につくしが手を貸そうとして、先を越され、類がさっさと杏樹を横抱きに抱き抱えてしまう。
 「え、わわわっ」
 いつもは澄ました顔で子供らしさをあまり見せない杏樹が、顔を赤らめアタフタと焦っている。
 「きゃああ!」
 「きゃあきゃあ」
 その光景に、まるでドラマの撮影か何かのように周囲が一斉に沸いて、黄色い悲鳴があちらこちらから上がった。
 「うーん」
 つくしにしても、F4と関わって以来、そうした周囲の反応は今さらのことで、こういうシチュエーションには慣れている。
 自分がもし観客側だったら、そうしたくなる気持ちもわからなくはないが、見物される側になるとかなり辛いものがあった。
 …監視されてるっていうか、勘弁して欲しいっていうか、この感じ、いつまでたってもやっぱ落ち着かないわ。
 もっとも、見物されているのはつくし自身ではなく、類と杏樹で、つくしの方はたまに、そんな見たからに只者ではない美男と美少年の二人に挟まれている、平凡な女はなんだといった視線を向けられる程度。
 ほとんど注目されているわけではないのだが、ほぼ衆人環視状態の当人たちが、外野に対してはシラッと平然としているのには感心させられる。
 …類はともかくとして、杏樹もやっぱり注目されなれてるんだよね。
 やはり子供の頃の経験というのはその後の人生にも大きく影響されるものなのか、司と過ごした日々から換算すればこういった状況もすでに20年近く、人生の半分以上になっていても慣れないつくしとは対照的だった。
 「つくし」
 「え?」
 類と杏樹をボンヤリと見ながら、そんなことをツラツラと考えていたから、つくしは類に呼びかけられていることに咄嗟に気がついていなかった。
 「聞いてる?」
 我に返って慌てて返事を返す。
 「あ、うん、ごめん。なに?」
 「ウチに冷却スプレーあったっけ?」
 「え~っと、……ない。保冷剤ならたぶんあるけど」
 一応、頭痛薬や整腸剤などの薬は一通り常備してあるが、類はめったに市販薬を口にしないし、二人の間にはまだ子供がいないこともあって、そうしたものをマンションに常備していなかった。
 …陽ちゃんと暮らしてる時は、外傷薬も必需品だったんだけどなぁ。
 「保冷剤か。まあ、いいや、大した距離じゃないし。……俺、ちょっとすぐそこのドラッグストア行って、冷却スプレーとサポーター買ってくるよ」
 杏樹をベンチに下ろし、立ち上がって軽く伸びをして歩きだそうとしている類を、つくしが慌てて呼び止める。
 「あ、待って!私が行ってくる」
 「いいよ、俺の足の方が早い」
 「え、でも……」
 「俺でも店員に聞けば、どれが保冷スプレーかくらいわかるから平気だよ」
 別にそんなつもりではなかったのだが、日頃、彼女が常々類の非常識を咎めているゆえにか、そんなことを言われ、はははと乾いた笑いを零す。
 「いや、そんなつもりじゃないんだけどね」
 「それより、お前は家の場所、その子から聞き出しておいて?たぶん、冷やしてサポーターしておけば歩けるとは思うけど、けっこう家遠いんでしょ?一緒にいて怪我させたし、一応、謝っておいたほうがいいかもしれないからさ」
 「そうだよね」
 類の指示につくしも大いに納得する。
 つくしが逆の立場だったら笑い飛ばして、むしろ子守をしてくれていた相手に感謝するところだが、誰もが彼女と同じ考え方を持っているわけではないのだ。
 「あ!謝ってもらったりなんかしなくても大丈夫だよ!俺が勝手に転んだんだし……、類さんたちのせいになんかしないっ」
 「でもね、一緒にいた大人として……」 
 「大丈夫だったら!!」
 当人に強硬に反対され、困って、つくしが類に指示を求め彼の顔を見上げた。
 そんな彼女の視線を受け、杏樹を見下ろして、それでもどうするか考えていたらしい類が、小さく息をつく。
 「まあ、とりあえず保冷スプレーとか買ってくるよ。保護者に連絡するかとかはまた後でだね」




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※テイクバック…ラケット・バット・クラブなどを振るために、腕を後ろに引くこと。またはバックスイングとも言う。
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