「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0753

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 「類、なにそれ」
 戻ってきた類の肩には、大ぶりのスポーツバッグ。
 と、思ったら、バックを肩から下ろし、おもむろにファスナーも下ろして中身を取り出してみせる。
 「て、まさか、テニスラケット?」
 「ん、持ってきた」
 「持ってきたって、あんたねぇ」
 さんざん雨が降るかも知れないから帰ろうコールしていた男が、ごく近場とはいえ、わざわざウチまでそんなものを取りに帰っていたというのか。
 よくよく注視してみれば、涼しい顔はしているがうっすらと額に汗が光っている。
 …わざわざ走って往復してきたわけ?
 感心するより呆れてしまう。
 「前に、テニスしようとか言ってたじゃん」
 「え?……俺?」
 突然回ってきたおハチに杏樹が驚いている。
 …そりゃそうだよね。
 いったいいつの話だと首を捻って、なんとなくかなり以前に杏樹から誘われたことがあったような覚えが、つくしの記憶の隅にも引っかかっていた。
 「やらない?」
 「……あ」
 あまりに唐突な申し出に、さすがに対応に困ったらしい杏樹がつくしへと、助けを求めるように視線を向けてくる。
 つくしにしてみても突然の展開だが、類が唐突だったり、言動に突拍子もないのはいつものことだ。
 「ハァ~、まったく、このワガママ小僧もとい、宇宙人はいきなり何を言い出すんだか。しょうがないわねぇ」
 「ぷっ、それこそなにそれ?宇宙人って、まさか俺のこと?」
 さりげなく類の抗議を無視して、あらためて、つくしも杏樹に誘いかける。
 「なんかいきなり気が向いたみたいだからさ、この宇宙人。良かったら一緒にやらない?」
 「でも」
 杏樹は降りそうな空を見上げて、わずかに逡巡している。
 「すぐには降らないよ」
 「え~、そう?」
 「戻りがてら、携帯で天気予報チェックしたら、午後から晴れになってた」
 「そうなんだぁ」
 とはいえ、天気予報は絶対ではないし、通り雨などは予想できない。
 「そういうことらしいけど、えっと、どうする?杏樹。やる?また今度にしておく?もしよければ、だけど」
 一昔前なら家まで送って行くからと、誘うところだが、今時の子供はいくら顔見知りだとはいえ、おいそれと素性の知らない人間の車に乗ったりはしないだろう。
 どうしよう、と逡巡した杏樹の視線がつくしから類へと移り、類がもう一度尋ねる。
 「やらない?」
 「やる、やりたい!もし、本当に雨が降ってきたら、急いで帰るし、少しくらい濡れても、俺、全然平気だよ!!」
 杏樹が今度こそ本当に嬉しそうに頬を染め、年相応にキラキラと目を輝かせ、可愛らしい笑顔で大きく頷いた。




*****




 カラン。
 飲むつもりで作ったロックの氷は、物思いに耽っている間にいつの間にか溶けきっていたらしい。
 もはやロック酒というよりは、水割りになってしまっている酒のグラスを見やって、司は小さく吐息をついた。
 じんわりと締め付けるような頭痛は、彼にはすでに馴染み深いもので、それほど苦痛に感じているわけではないが、さすがに寄る年波なのか、最近では目にも来ることも少なくない。
 霞む視界に、目頭を親指と人差し指でつまむようにして強く揉み込み、俯き加減に目を瞑った。
 戒を、イギリスにあるパブリックスクールに送り出して、早一ヶ月以上が過ぎた。
 元々親密な親子の交流があったわけではない。
 同じ屋敷に寝起きしてはいても、司がそうと努力しなければ滅多に顔を合わせることすらなく、会話を交わすことなどさらに稀なくらいだった。
 それでも、愛している人間がもはや自分の身近に誰もいない。
 唯一愛する女を偲ぶ縁だった息子さえも、手元から手放してしまえば、身の内を蝕む孤独感と虚無がドッと司の体にさらにのし掛かった。
 いったい何のために、自分はこうして息をして生きているのか。
 そんなことさえ見失ってしまいそうだ。
 …なんのために?
 それこそ彼女を失ったその日から、常に自分を鼓舞し続けなければ、ここに有り続けることさえ困難だっただろう。
 つくしが望んでいたから、彼女がそうあれと願った道明寺司であり続けるために、ただそれだけの為に生き続けているなどという建前は、所詮建前に過ぎない。
 守るべき我が子さえも忘れ、世捨て人よろしくどこぞに引きこもって、朽ち果ててしまいそうな自分を誤魔化すための方便に過ぎなかったのだという今更な自覚に、司は小さく乾いた嗤いを零す。
 …しょせん、こんなもんだ。
 司は、ジーナを戒から遠ざけた経緯について、詳しく戒に説明することはしなかった。
 もちろん戒が望めば、すべてを話すつもりではいたのだ。
 また、ジーナにも口止めすることはしなかった。
 もちろん世間に対して、戒や道明寺家のーーー戒のそばにいることで、彼女が知り得た秘密や事情に関しての口止めはしてある。
 そこには半ば脅しも含まれていたし、その意味合いをわからないでいるほどには、ジーナは愚かな娘ではなかっただろう。
 だが、司がジーナと戒との間で、彼が果たした役割を彼女に口止めしなかったのは、真実を隠蔽したところで、もはやすべてを隠し切るには戒が聡明にすぎるからだという判断から。
 あるいはジーナが自身を守る為に戒に虚言を吐いて、司を悪漢に貶める可能性もないわけではなかったが、いまさらだという思いがあって、経緯がどうあれ、結局は司が彼女を戒から引き剥がした事実は変わらない。
 …なんだかんだ言って、あれで戒が選んだオンナだしな。
 歪められた真実はさらなる誤解と苦悩を呼んで、やはり戒をさらに傷つけるだろうことを、これまでの経験で司も学んでいた。
 …あいつとーーーつくしと俺との間にあった真実を、戒に伝えなかったことがすべての始まりだ。
 だからといって、幼い息子になにを話すことが彼にできただろう。
 もしかしたら、そこにはこれほど関係が拗れてしまってはいても、最愛の我が子に憎まれたくない、蔑まれたくはないという保身も含まれていないとは言えなかったけれど。
 それでも、両親の間にあった真実が、どれほど戒を打ちのめしてしまうか、司は怖かったのだ。
 トントン―――。




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