「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0752

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 「杏樹」
 「おはよう、つくしさん。……類、さんも一緒だね」
 「あ、う、うん、おはよう。微妙にこんにちは、っぽいけど」
 「あは、そうかも」
 「杏樹こそ、今日、来てたんだ?家、そんなに近くでもないんでしょ?雨、大丈夫?」
 愛想よく返事を返すつくしの横で、類の方は無視をするわけでもないが会釈だけで返す。
 類と杏樹が顔を合わせるのは初めてではなかった。
 初めての出会いから、すでに2度、今回で3度目になるか、やはりつくしに同伴した散歩のたびに挨拶くらいは交わしている。
 …元々愛想がいい方じゃないけど。
 それでも類は子供が嫌いなタチではなく、戒や司の姪、つくしの甥を相手に遊んでやったり、けっこう子供にも好かれることも多いのに、どうにもこの子に対する態度は堅く解せない。
 それがどうにもザラリとした、あまり心地良くない何かをつくしに予感させる。
 以前、杏樹と類が初めて顔を合わせた時の妙な反応に、知り合いなのかと聞いたつくしに類は知らないと言っていた。
 けれど―――、
 「いくら治安面でそれほど神経質になる必要がない土地柄の日本だとはいえ、まったく犯罪がないわけじゃないし、子供の誘拐事件もそれなりにある。付き添いがついていないなら、あまり一人で遠出はしない方がいい」
 言われた杏樹よりも、つくしの方が驚いて類の方を振り返ってしまった。
 類は元々他人に関心が薄く、身内にさえ説教じみたことを言うような男ではないのだ。
 また、それがたとえ正論で、常識的な大人としての忠告であったとしても、類がそんなことを杏樹にわざわざ注意するほど、彼に関心があるようには見えなかったからよけいに。
 それなのに…。
 類の顔はどこがどうと言っていつもと違うわけではなかったけれど、どこか面倒臭そうなその表情は、高校生の頃の彼を彷彿とさせて、今の彼が少なくても愉快だと感じていないことをつくしにも感じさせた。
 どこか薄ぼんやりとして、水の中を透かし見ているような曖昧さ。
 …さっきまで別に機嫌が悪かったわけじゃないのに。
 「ちゃんと留守番の家政婦には言ってきてるんだし、ママンにも許可はもらってるってこの前も言ったじゃん」
 「怠慢だな」
 つまらなそうな類の言葉に、あきらかにムッとした顔でポケットを探った杏樹が、類へと手にしたスマートフォンと防犯ブザーを見せる。
 「こういうのだってちゃんと持ち歩いてる。だいたいあなたには全然関係ないことでしょ?」
 「……まったくだね」
 類の方はすでに少年との会話に飽いてしまったのか、半分喧嘩腰の杏樹をそのままに、つくしの肩を小さく叩いてさっさと踵を返してしまう。
 「も、行こ?」
 「え……、で、でも」
 いきなり突入した臨戦状態からの急な離脱に、キツネにつままれたような気分で類と杏樹の顔を交互に見ていたつくしが、杏樹を気にして振り返る。
 「なんだかわけがわからないけど。な、なんか、ごめんね?」
 「いいよ。別につくしさんが、なんか俺に悪いことしたわけじゃないだろ?」
 「それはそうなんだけど」
 ツレの類がどう見ても、年端のいかない子供に喧嘩を売ったようなカタチなのだ。
 もっとも、
 …この子、大人びてるけどまだ7才なのよね?
 もう少し郊外ならばともかく、この辺は東京のド真中。
 高級住宅街の一角なので、治安面ではたしかに悪い方ではないが、それにしても住まいが近所だというのならともかく、かなり遠距離を移動しているというのでは、たしかに子供の一人歩きは類の言う通り感心できない。
 保護者が許可しているというのだから、つくしが何かを言う筋合いではなかったけれど、しかし、つい最近まで子供の保安には、神経質なくらいに気を配る必要があった海外から来たというわりには、無用心と言えば無用心だった。
 「ね、杏樹。本当にお母さんに、この公園に来てること、行ってあるの?」
 「ここに来てるとは行ってないけどね」
 「は?」
 「でも、公園で遊んでるとは言ってあるよ」
 「いやいやいや、それはちょっと…」
 よその子のことながら、かなり眉根を潜める返答だ。
 たしか母親は、すでに入院先の病院から退院してるとは聞いてたが、杏樹は父親や、その他の保護者と暮らしてはいないようだったから、どうもあまり子供に目が行き届いていない感じの子ではある。
 …家政婦さんがいるんだから、裕福な家庭なんだろうけど。
 ふと背後を振り返れば、すでに類の姿がない。
 どうやらつくしがいつまでもその場を動かないものだから、しばらくは公園の入口で立ち止まって待っていた彼も、痺れを切らして移動してしまったらしい。
 一緒に散歩をしようと言っていた癖に、いつの間に帰ったのか、あるいはどこかへと行ってしまったのか。
 別段携帯電話もあるのだし、いつでも落ち合おうと思えば落ち合うことはできるのだが、それにしても……ではある。
 …どうしたっていうの?
 杏樹が気に入らないのだろうか。
 しかし、類はこんな小さな子供の些細な言動に、一々カン立てて腹を立てたり、不機嫌になるような男ではない。
 胸にまたも、ここ数ヶ月ですっかりお馴染みになってしまったイヤな不安が滲んだ。
 「類さん、行っちゃったね。つくしさんも、もう行ったら?」
 「あ……うん、杏樹は?えっと、まだ公園でお散歩するの?」
 遊びに来ている、というわりには、杏樹が公園に居る他の同世代の子供たちと交流したり、遊具で遊んでいるところを見たことがない。
 それこそつくしがするように花を見て、風を楽しむ、そんな子供らしくない公園での過ごし方をしているところしか見たことがなかった。
 あるいは、
 「もしかして、なにか目的があって、ここまで来てるの?」
 「……………」
 「学校のお友達の家が近くにあって、その子に会いたいとか?」
 「……友達なんていないよ」
 小さく笑う杏樹の顔は不思議に悲壮感はなかったけれど、公園の外へと視線を向ける横顔は、どこか諦めと孤独、……あとは哀切だろうか、不可思議な感情を帯びているようにつくしの目に映る。
 「ただ、……逢いたい人がいたかな」
 「逢いたい人?」
 「逢えるって思ってたわけじゃないけど、……もしかして、とかさ」
 「その人って?」
 尋ねるつくしに、杏樹が曖昧に首を横に振る。
 「俺も会ったことがないから、名前と顔しか知らなかったんだけどね。……ちょっとしたことで、ここらへんに住んでるってこと知って、せっかく日本に来たんだから会えなくても見てみたいなって思っただけ。……でも」
 「でも?」
 「でも………あ」
 俯けた顔をあげた杏樹が、つくしの背後、公園の入り口の方を見て驚いた顔をした。
 「いつまでこんなところで立ち話してるんだか。……話をするなら、せめてベンチに座るくらいしたら?」
 



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