「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0751

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 気が付けばすでに初夏。
 年末だ年始だと言っていた時期も遠く過ぎて、あっという間に年も半ばにさしかかろうとしている。
 …いやあ、早いよね、ホント。
 子供の頃には一年一年がもっとずっと長く濃い気がしていたが、大人になってからの時の流れは本当によくいう光陰矢の如しだ。
 玄関先で座り込み、スニーカーの紐を結んでいるところへと馴染んだ声がかかる。
 「なに?また行くの?」
 「ん~、ウォーキングにもやっと慣れたところだしね。……なんとなく、一日でも休むと気持ちが悪い気がしちゃうのよね」
 「……フゥ」
 小さく突かれた溜息は、どこか呆れを含んでいるようにつくしの耳にも聞こえる。
 「別にいいでしょ?」
 「いいけどね。……でも、何も雨が降りそうな時にまで散歩に行かなくてもいいのに、って思っただけ」
 「散歩じゃありません!ウォーキング!!」
 「はいはい」
 少しも感銘を受けたようではなかったが、それでも隣に立って、いつもの通勤用の革靴ではなく彼女と同じく動きやすいシューズに履き替える類を無言で見上げる。
 「なに?」
 「類も来るの?」
 「ん、つくしが行くなら俺も付き合うよ」
 「雨が降りそうなんでしょ?」
 一応はそんなことを言うが、ここのところ、つくしばかりではなく類にとっても、彼女と一緒に近所の公園周辺を歩き回ることは習慣の一つになっていた。
 さすがに平日、出勤の日には無理な話だが、休日の午前からならけっこう頑張って起きてきている。
 …どういう風の吹き回しなんだろ。
 「なに?」
 つくしの胡乱げな視線に気がついたらしい類が、首を傾げた。
 「プールも行ってるんでしょ?」
 「まあね」
 「別に毎日激務でひいこら言ってるんだから、たまの休みくらい好きに寝ててもいいのに」
 「だって、つくしは出かけちゃうんじゃん」
 「以前のサイクルだったら、遅めのランチならぬアフタヌーンティーまでには私も帰って来るんだから、類は起きてきていないでしょ?」
 そうなのだ。
 つくしが行くのなら……云々と言っているが、別に寝ている時に出かけていたとて構わないはずだった。
 たまに冗談交じりで、彼女が横で寝ていないとどうのと言うこともあったが、類は間違っても不眠症でもなければ、一人で眠れないタチではない。
 まあ確かに、彼女と一緒に眠ることを好んではいたが、だからといって、自分がそうしたいからと、つくしにまで過剰な睡眠時間を強要するほど支配的なタチではない男だ。
 絡まっていた靴ひもにつくしが四苦八苦していたのを見かねたのか、横合いから類が手を伸ばして、紐を取り上げさっさと長い指先で器用に結んでしまう。
 どうせならもう一方もやってくれと、つくしが足を差し出したところで手を止め、類が彼女を見ないままに声をかけてくる。
 「ね、あのさ」
 「ん?」
 「公園、行くの辞めない?」
 「公園?なんで?だから、類がウォーキングするのがイヤなら、別に家にいてくれていいって言ってるじゃない?」
 「………いや」
 「体力作りや健康維持ならプールで十分でしょ?……雨はまあ、たしかに降りそうだから、私もそんなに長々とやるつもりはないけど、散歩するだけなら、天気のいい日にまたあらためて一緒に出かければいいんじゃないの?」
 「……………」
 無言で類が残りの紐も結んでくれる。
 「よっと、ありがと。じゃ、行ってくるね」
 「……だから、一緒に行くって」
 なにをこだわっているのか、結局はついて来るらしい類に肩を竦めて玄関を出る。
 …なんだかな。
 どんな屈託を抱えているのか、ここのところ類の様子は変だった。
 まずは今日のように、つくしが一人でウォーキングすることに難色を示すようになったこと。
 類がつけているSPを彼女も許容しているのだから、安全がどうのという問題ではあるまい。
 そして、もう一つは、つくしに誘われたわけでもないのに、彼女の休日のウォーキングに時間が許す限りほとんど必ずと言っていいほど、類も付き合うようになったことだ。
 「ね、本当はなんなの?」
 「何って?」
 「なんか心配なことがあるんじゃないの?」
 「……どうだろ」
 自分のことなのに、そんな曖昧なことを類がいうのは別段珍しいことではなかった。
 おそらく隠し事をしているというわけではなく、本当に自分でも腑に落ちていない、けれど、感覚的になにか心配事を抱えている、そんな気がする。
 「考えすぎかな、とも思うんだけど」
 「うん?」
 「なんかさ」
 「…………」
 「…………」 
 「………?」
 いくら待っても類からの返事が返らず、怪訝に彼の顔を見返せば、類が秀麗な美貌を顰め大きなため息を落としていた。
 「なによ?」
 「いや、いいよ。なんでもない。……たぶん、単なる5月病?それかここんとこ、厄介なねじ込みとかが連打で入ってて、単に気が滅入ってるだけなのかも」
 「……そっか」
 彼の仕事のことは、つくしにはどうしてあげることもできない。
 愚痴る男ではないが、それでも常に疲労満タン状態の彼の様子を見れば、いいかげんストレスを抱えるのもわかる話だ。
 「今度のオフは、どっか温泉でも行く?」
 「温泉?」
 「日帰り、とかは疲れるからイヤだよね?」
 「……ヤだ」
 一言の下切り捨てられ、苦笑する。
 「でも、温泉はいいね」
 「けっこうあんたって、温泉好きだよね」
 内湯でもカラスの行水ではあるが、シャワーよりも湯に浸かる方を好んでいて、必ず真夏でも湯をためている。
 もしかしたら、冷え性なだけなのかもしれなかったが。
 「来月、……うーん、再来月か盆休みあたりに、2泊くらいで温泉行こっか?」
 「え~、真夏に温泉?」
 つくしもけっこう温泉は好きだし、季節にこだわるわけではないが、さすがに暑い最中の温泉は躊躇する。
 「いいじゃん、暑い日に熱い湯に浸かるからいいんだよ」
 「意味不明」
 そんな与太話をしながら、サクサクと足を進めているうちに、けっこうなんだかんだで歩いてしまっていた。
 「今日は雨降りそうだから、公園はスキップでいいんじゃない?」
 「ん、どうしようかな。ここ飛ばすと、道路やビルばかりで殺伐としてるっていうか、なんか和めないのよねぇ~」
 「……ウォーキングじゃなかったっけ?」
 不審げに言われて、逆にフンと胸を張る。
 「健康と体力の維持と同時に、日頃のストレス発散も兼ねられれば、一石二鳥というものではあ~りませんか!?」
 「いいけど」
 「いいでしょ?ま、いいわ。たしかにいいお天気てほどでもないしね。明日って日もあるから、今日のところは―――」
 回れ右をして、最短コースへと変更しかけたところで、
 「……あれ?今日もやっぱり散歩来てたんだ?」
かけられた澄んだ声音に振り返れば、いまや見慣れた少年が、公園の向こう側から歩み寄ってくるところだった。




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