「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0750

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 「それこそお前にとっては今更だろうし、……ヤツにしても、いまさら俺からお前に伝えて欲しいなどとは欠片とも思ってやしないだろうが。お前と離婚した時、司はお前をまた幸せだと笑わせてやりたい、愛してるからこそ、……自分がこれ以上お前を苦しめる原因でいたくないからこそお前と別れるんだと言ってたぞ?」
 …司が。
 彼女には冷たい横顔を見せて、戒と関わるな、戒とーーー司と関わることは、戒や司にとっても、道明寺家にとっても迷惑なことだからと、冷たく切り捨てた司の想いを、今になって当事者でもないあきらに語られる、その運命の奇妙さを切なく思う。
 けれど、まさに全てはいまさらのこと。
 もはや二度とは取り返しのつかない過去でしかないのだから。
 「……そう」



*****



 もはやあきらもつくしも互いに立ち入ることはせず、何も言わずに二人のやりとりを見守っていた桜子の心配をよそに、それ以上のことは何事も詮索することはなかった。
 あきらと桜子の二人のやりとりに、ハラハラと他のことに気が回っていなかったけれど、司を名前呼びしていたことに後からつくしはふと気がついた。
 名前で呼んでいたからと言って、別段どうということもなかっただろうが、それでも彼を恨み憎みんで離婚した元妻としては、奇妙なことではなかったか。 
 つくしがそのことに気がついて、ハッとあきらの顔を見返すと、どこか困ったような、複雑な笑みを彼は浮かべただけで、なにを言うこともなかった。
 だが、あるいは、あきらもまた、そんな彼女の某かを察していてなお、何も言わずに黙っていたくれたのかもしれない。
 それこそもはや、司とつくしとのことは過去のことなのだから。
 彼らが離婚した当時、司がなにをあきらに言っていたにしろ、すでに司にはつくしではない別の妻がいて、つくしにも類がいる。
 つくしはつくしで、当事者である司のことさえも、遠い過去だと言い切ったくらいなのだ。
 いまさらあきらの謝罪を受ける謂れはなかったし、また彼の言うとおり、彼の罪悪感を軽減するためだけに、その謝罪を受け入れるのも何かが違う気がして、結局、曖昧なまま話を終わらせてしまった。
 いつまでも気が咎めていたのだろうあきらには申し訳なかったが。
 ―――私があの時、流産して記憶喪失になったことも、本当は気に病んでたんだろうな。
 あきらの遠慮がちな言葉の端々から察することができた。
 いつか本当の意味で、彼の謝罪を受け入れられる日が来るかもしれない。
 あるいは時の流れにすべては解けて、単なる過去の一つへと昇華できる日も来るのだろう。
 そう思えた。
 「さ、タクシー拾わなきゃ」
 キョロキョロと道路の向こうを遠く透かし見て、……だが、目的のものではない別の車の影を発見した。
 …どうしよ。
 フロントガラスの向こう側にいる人物の顔は、どこか見覚えがあった。
 正式には引き合わされてはいないが、おそらく類によって彼女に付けられたSPだろう。
 出来うる限り、彼女にその存在を誇示しないようにと命令を受けているだけに、普段はほとんどその気配を感ることがない。
 ひっそりと追尾して彼女を警護してくれているが、その存在に気がついていながらあえて彼らを無視して、よけいな手間をかけさせる不条理を自覚する。
 …あの人たちにとっても、迷惑な話だよね。
 「…ハァ」
 ため息一つで、なんとか今までの妙なこだわりや意固地さを幾分か抑え、路肩に路駐して彼女の行動を見守っている車へと近づいてゆく。
 そんな彼女の姿を認め、助手席側のSPが車を降りてつくしを出迎えた。
 「こんにちは。いつもお世話になっています」
 「……どうなさいましたか?」
 「すみません。お分かりだと思いますけど、今日一緒する予定だった友人に別の予定が出来てしまって、予定変更になってしまったんです」
 何度となく桜子には当初の予定の続行を申し出られたが、寄りを戻す風情の二人に気を使ったつくしの方が遠慮して、一人あきらの車を降りたのだ。
 申し訳なさそうな桜子とは違い、あきらの方は「悪いな、借りとく」と、ウィンク一つであっさりとしたものだった。
 …気遣いの男っぽいけど、しょせんあいつらにしては、ってことだよね、美作さんも。
 自分から申し出たのだから別にいいのだが、あきらの意外なちゃっかりさには苦笑させられた。
 「申し訳ないですけど、ウチまで同乗させてもらってもかまわないでしょうか?」
 すべてはあるべきところへ。
 桜子はあきらの下へ。
 つくしは類の下へと。
 ―――そして、司もまた、彼の運命のあるべき下へと還った。




*****



 「へぇ、本当に凄く飲みやすくて、美味しいわ。これ」
 テーブルの上の琥珀色の液体を注いだグラスを縦に横にと眺めて、もう一口……と味わう。
 「ん~、美味し〜い!くせになりそう!」
 「……珍しいじゃん?」
 「あ、類。お風呂上がったんだ。あんたもなにか飲む?」
 予告よりは多少早かったとはいえ、やはり午前様近くに帰宅した類の顔は、それでもシャワーを浴びたせいか、多少は眠気も落ち着いたらしくわりにサッパリとしている。
 「いいよ、俺はもう寝るし、……これ、ちょっともらうから」
 「あんっ!」
 飲む気満々だったというのに、ぐっと1/3ほどを一気に空けられ、つくしがムッと頬を膨らめた。
 「飲みたいなら作るのに」
 「だから、もういいって。……シャンディガフ?」
 「ん」
 「なに?ビール苦手じゃなかったっけ?あきらのオンナから習ったの?」
 「いや、美作さん本人から」
 一応は、あきらに会うかもしれない、彼からそんなことを打診されていたことは類にも報告していたが、夜遅くに帰宅してきたばかりの類に、今日の詳しい出来事はまだ何も報告していなかった。
 「……お節介」
 「してません」
 片眉を器用に跳ね上げて揶揄ってくる類に、つくしもわざとらしい仕草でツンとそっぽを向く。
 そんな彼女の稚気に苦笑して、
 「まあ、いいけどね。……しかし、それにしてもあきらのヤツ、ずいぶん辛辣なの教えて寄越したもんだよね」
 「あぁ、違う違う。元々は桜子のリクエストだったの。なんだか私でも簡単に作れそうなレシピだったから、思わずパクっちゃったけど。……んん?えっとぉ、辛辣って?」
 そういえばあきらも、なにやら桜子にリクエストされて、苦笑気味にそんなことを言っていた気がする。
 「無駄なこと」
 「は?」
 「シャンディガフの酒言葉だよ。ようは、ナンパとか口説きに対する‘お断り’を意味するチョイス。―――ぷっ」
 …そりゃあ、たしかに辛辣だわ。
 結果的には上手くいったのだから、今となっては笑い話だろうけれど。
 …でも、
 「類ぃ。親友の大ピンチを笑うだなんて、いくらなんでもあんた、なにげにひどくない?」
 「え~、いつものことでしょ?」
 …確かに。
 それこそいまさらな話だった。




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