「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0749

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 「お前には、……いつか、きちんと謝りたいと思っていた」
 人前で感情を顕にしてしまったのが気恥ずかしいのだろうか、ハンカチで顔を抑えたまま再び窓の外へと顔を向け、落ち着くのを待ってくれと桜子がそっぽを向いて間もなく、あきらがつくしへと切り出した言葉。
 もちろん、桜子にしても完全に二人の会話をシャットアウトしているわけではないのは、ソロリと背後を窺うようにして、つくしやあきらを見た彼女の心配げな顔でつくしにもわかっていた。
 しかし、そんな桜子の気遣いとは裏腹に、つくしにはあきらが自分にいったいなにを謝りたいと言っているのか、皆目見当がつかないでいた。
 「謝りたいって、いったい?」
 ―――そもそも、彼に某かを謝ってもらうほどの濃い付き合いをした憶えがまるでない。
 「高校時代のことだ」
 「……っ」
 青天の霹靂と言ってしまっても良いだろうか。
 だが、あきらの顔をハッと見やったつくしの心情はまさにそれで、彼が以前からつくしに対して、どこか疚しさのようなものを抱えているのは彼女も察してはいたが、よもやそのことを今、彼がハッキリと口にするとは思っていなかったのだ。
 「何を今更、と思われるかもしれない。……けど、いつかは言いたいという気持ちと、しょせんそれもまた、俺が自分の罪悪感を軽くしたいだけのエゴなんじゃないかという想いもあって、なかなか口にすることができないでここまで来た。ほんとうにすまなかった」
 両手を開いている膝の上に置き、頭を下げるあきらの態度は、あるいはその言葉のわりに大仰さに欠けると非難することもできたが、けれど、他人に頭を下げる機会などこれまでほとんどなく、常に他人を見下す立場にいる男にとって、そうして頭を下げることがどれほどのことか、今のつくしには理解できる。
 当事者の司でさえ、その当時のことに関して、つくしに謝ったことがないというのに。
 「美作さんが、なにを謝らなければならなかったと言うの?」
 「司の罪を見逃したこと。……そのことで、自分自身も罪を犯していたことを、自覚していなかったこと、だよな?」
 あきらは当時、積極的にはつくしや他の司に虐げられている生徒たちを害していたことはなかった。
 だが、そうしている司を見逃し、あるいは止めることもできる立場にいたはずだというのに、あくまでも傍観者であったのは、確かに罪ではないとは言えないだろう。
 しかし、それを言ってしまえば、類も同じ立場であったのだし、自分自身が被害者になる以前は、つくしもまたその罪人の一人だったのだ。
 …私も自分が赤札を貼られる立場になるまで、他の人が司に虐げられているのを、咎めて非難するどころか見逃していた。
 保身ゆえに。
 他人を庇うことで、自身も被害者になることを忌避したのだ。
 自己保身から他人の罪を見逃していたつくしと、あきらとでまた立場や罪の意味合いも違っていただろうけれど、それでも、あきらがむやみやたらに彼女を虐げようとしていたわけではなく、時には司の八つ当たりから庇ってくれたことすらあったこともわかっていたから。
 「司がお前に赤札を貼ったこともそうだが、司がお前を連れ歩くようになった頃、何かがおかしいとわかっていたにも関わらず、俺はそれを掘り下げることはせずに流していた。………類にお前のことを、可哀想だと思わないのかと聞かれて初めて俺は、司のように積極的ではなかったにしろ、他人を虐げることを是認して見て見ぬフリをしていた卑怯者だったんだと自覚し始めたんだ」
 「……可哀想。類が?」
 当時、ほとんど彼女に興味を示すことがなかった彼が?
 たしかにつくしを憐れみ、時には庇ってくれたこともあったが、おそらく本当の意味では、彼女の境遇に同情していたわけではなかっただろう。
 「初めてだったよ。あいつが静以外の人間のことを気にして、俺たちに何かを非難したり忠告したりすることなんて。それこそ、長い付き合いの俺たちの間でも、お前のことだけだった」
 「…………」
 それを嬉しいと素直に思えないのは、意固地さだろうか。
 …類が私のことを気にしてくれていた。
 そのことに対する喜びはある。
 しかし、司に虐げられていたのは彼女だけではなかったのだ。
 「あの頃、ーーー私とあいつ、司と一緒にいる私のことを、美作さんたちはどう思ってたの?」
 「……どう?」
 怪訝に尋ね返すあきらの顔に、どう説明すればいいのか言いあぐね自分の中から言葉を探して、あらためて問いかける。
 「おかしいって思ってたってことは、少なくても私が司のことを好きで一緒にいる、もっと言ってしまえば、交際していたわけではなかったってことを、美作さんも察してはいたわけよね?」
 あきらにしても総二郎にしても、けっして愚鈍なわけではない。
 当時、彼らは事情のすべてを知った上で、つくしを虫けらの如く見下し、彼女が司にどう扱われようと気にしてもいないだけのことなのだろうと、自虐的に思っていた時期もたしかにある。
 けれど、彼らの個人としての為人に接することで、実はそうではない、ある程度の事情は察していたにせよ、すべてを知っていたわけではなかったのではないかという思いもあった。
 「司から全部聞いていたの?」
 「全部ってなんだ?英徳の連中からのリンチに対する庇護や、学生生活の平穏とか、将来的な展望を司のヤツにチラつかされた以外に、まだ他に何かあったってことなのか?」
 まさに、かつて楓が彼女に言ったこと。
 ―――彼らにおもねり関心を得るためならば、どんなことでもする人間が珍しくもなく大勢いて、つくしが自ら望んで何かの融通と引き換えに、司を受け入れていたのだろう、と楓が認識していたことと同じことなのだ。
 多少ニュアンスに違いはありはしても、つくしや彼らの周囲を取り巻き阿る人間たちへの彼らの認識が、そこには深く暗く横たわって、真実を覆い隠し隔ててきた。
 そして、あきらや総二郎がつくしをどう誤解していたにせよ、その程度の関わり合いしかなかったのだから仕方ないことだったのだろうとも思う。
 当時の彼女だったなら、あるいはあきらの認識を侮辱だと憤って詰ったかもしれなかった。
 しかし、そうした認識は、彼らにしてみれば、けっしてつくしへの侮辱や卑下などではなく、よくある日常茶飯事の当たり前の、出来事でしかなかったのだろうと赦すことができる。
 …赦すって言うのも、なんだか何様って言われちゃうことかもしれないけどね。
 少なくてもあきらや総二郎は、つくしが司によって無理強いに、肉体的にも精神的にも、拘束されていたとは夢にも思っていなかったということなのだ。
 彼らの認識ーーー司やあきらたちだけではなく、彼らを取り巻く世界の人間たちにとって、その頂点に立つF4を、拒める人間などいはしないのだから。
 そしてまた、いまさらその齟齬を言い立てたところで、結果は同じだったのだと思い切ることもできた。
 だがら、
 「もう、終わったことだよ」
 「……………」
 「いまさら昔のことをほじくり返して、美作さんを赦すとか赦さないとか、そんな話をしても仕方がないことだと思ってる」
 「………牧野」
 「それにさ、いつまでも過去のことを、延々と恨んだりするのに疲れたっていうか、怒ったり憎んだり、……そういうのって凄く、自分も苦しいじゃない?」
 だからこそ、桜子も苦しんだ。
 むしろ忘れてしまえる方がずっと、楽なことも多いに違いなかった。
 …できることなら、赦せることは赦して生きていければ、その方がずっといい。
 いつまでも執念深く赦さずに、恨み続けていられるほどには、もう彼女は強くはなかったから。
 「それは、司のこともか?」




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