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「夢で逢えたら…全207話完+α」
第一章 もう一度逢いたい

夢で逢えたら006

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 メイルズフォート病院の巨大な庭先は、地上3Fの屋上庭園となっている。
 外界からは隔てられた空間ながら、まるで一つの公園であるかのようにベンチが置かれ、噴水があり、様々な花が百花繚乱を競い合っている。
 郊外とはいえ、大都会NYにあってそこは楽園のような憩いの佇まいを様していた。
 ベンチでは比較的軽微の怪我を負った患者達が歓談し、花々を飛び回る蝶や小さな虫を子供たちが追いかけまわす。
 病院という場所ではあっても、そこには明るい風景があった。
 その病院の最上階に位置する特別室。
 5Fの透明な窓から見る庭園の楽しげな空気は、どこまでも遠く。
 賑やかな声でも届けば多少の気晴らしにでもなるのだろうが、患者に配慮した防音設備が逆に、道明寺少年の気鬱を助長した。
 トントン。
 軽やかなノックの音が、冷たい静寂のこもる病室に響く。
 「はい」
 要の付き添い人としてつけられたシュナイダー夫人が3つに別れた部屋の一つ、小さなミニキッチンから姿を現した。
 「マーベルです」
 名乗るが早いか、病室のドアが元気いっぱいに開けられる。
 どの道、不審な人物であればドア前に控えた二人のSPによって押しとどめられるだろうし、要の主治医であるマーベル医師を阻む者など、この病院にはいなかった。
 「要!どう?すっごいイイ天気だよ~、もう散歩には行ってみた?」
 年齢には見合わない溌剌とした目の輝きをした女医師が、屈託なく要に話しかける。
 「おやおや、マーベル先生、何かいいことでもおありになったんですか?」
 ウキウキとした口調に温厚なシュナイダー夫人が、優しく微笑みかけた。
 シュナイダー夫人はドイツ系アメリカ人で、でっぷりとしたふくよかな肢体と、優しい笑顔の素敵な女性で、要より多少年嵩な息子がいるマーベルの母親といってもいいほどの年齢。
 それゆえにか、従順ではあっても気難しい一面をもつ要を、大きな包容力をもって接していた。
 道明寺邸の使用人頭のタマが、直々に選び太鼓判を押したというだけのことはある人物だ。
 「そうなんですよ!シュナイダー夫人。小児科病棟のフランチェスカに中庭のグミの実をたくさん!もらっちゃって~。もうさかりは終わっちゃったから探すの大変だったろうに、いつもありがとう!なんて言っちゃって」
 えへへへと、年に似合わぬ満面の笑みを浮かべてペロリと舌を出すマーベルは、シュナイダー夫人の目にとても可愛らしく映る。
 見栄え的にも中々の美人で、日系3世だというその女性は、東洋人に特有の童顔もあって、とても敏腕医師だという印象はなかった。
 「グミ?なんだそれ?ゴムのことか??」
 「はあ?な~に言っちゃってるのよ、おぼっちゃまはグミの実も知らないの?ドイツ語なんか知ってるくせに、物知らず~」
 いつもは分別臭く澄ましている要の顔がぶううっと膨らむ。
 これこれ、とマーベルが白衣のポケットから純白のレースのハンカチを取り出し、少年とシュナイダー夫人の前で広げて見せた。
 「あら、シルバーベリーですね」
 「ああ、そうそうこっちではシルバーベリーっていうのよね」
 そうだった、と頷き、目を瞬かせて見ている要の口元に一粒差し出す。
 「なに?」
 「一粒食べてみなさいな。おいっしいのよ~」
 目の前に虫でも押しつけられたかのように顔をしかめて、要はマーベルの手を振り払う。
 「こんななんだかわからない物食べられるかっ。衛生的にだって信用ならない!」
 「やっだ~神経質な子ねぇ。私なんてよく小さい頃、近所の公園で採って食べたものよ~。こんなものも食べられないから、体が順調に良くなっていても、病室なんかにこもって青白いままになっちゃうのよ~」
 遠慮なくズケズケいうマーベルと、憮然としている要を、シュナイダー夫人がにこにこと微笑んで見つめてる。
 「私も小さな頃、よく食べましたよ?さてさて、わたしは奥でお茶の準備でもしましょうね。先生はゆっくりしていられるんですの?」
 「あ~、実はこの後、外出しなければならなくって。明日には戻ってきますけど、ちょっと顔を出しただけなんです」
 おっかなびっくり赤い実を口に入れていた要が、寂しげに瞳を揺らして小柄な女医を見上げた。
 「うん?なに?寂しい、要くん?」
 「お前みたいな小うるさい年増女、いない方が清々する!」
 マーベルは、虚勢を張って憎まれ口を叩く少年のほっぺたを抓りあげて、悲鳴を上げさせる。
 「いた、痛たたたた!!!こ、この凶暴女!」
 「なあに、このお子ちゃまは~。立派な成人女性に向かって、その口の効きよう!根性が曲がってるわね、私が叩き直してあげようか?」
 「なにが、立派だよ!立派な大人が、年端もいかない子供相手に、こんな子供っぽいことするかっ!」
 もっともである。
 自分でも大人げない自覚があるので、マーベルが苦笑する。
 「まあ、私も普通の子供相手だったらこんなことしないんだけど、アンタ生意気なんだもん。このまま放っておいたら、俺様、傲慢、わがままの三拍子そろったアホ男になりそうでねぇ」
 「…なんだよっ、それ!」
 「まあ、凶暴でないだけマシかもしれないけど、なんか運命を感じちゃうのよ」
 「それって、プロポーズなんか?」
 「はああ?まっせガキ~」
 「痛い、痛いって!」
 さらに、ひねりあげられ、今度は本気の悲鳴を上げる。
 そうこうジャレあっているうちに、院長と循環器病棟の医長がやってきた。
 「キャシー、今日は午後からオフだろ?」
 「ええ、すいません。要君や、担当する他の患者さんのことはホーガン医師にお願いしてあります。明日の早朝には戻ってこれると思うんですけど」
 「ああ、空港へお迎えだって?」
 「ええ、一か月もほっつき歩いての帰国なので。私用で申し訳ありませんが」
 「いや、いいよ、いつもオーバーワーク気味の君のことだから、羽を伸ばしておいで」
 にこやかに談笑するマーベルと医長の横で、院長が10才の子供に対するものとは思えない丁重な口調で、挨拶をする。
 「要さま、このところ体調の方はいかがお過ごしでしょうか?Dr.マーベルに不備はありませんかな?」
 さっきまでの子供らしい表情とは打って変わり、要の顔は院長から視線を外し固い表情で首を振った。
 「大丈夫、特にひどくはないよ。キャサリンも良くやってくれている」
 こらこら、大人を呼び捨てにするな!と、院長の影からこっそり要に向かって握りこぶしを突き上げるマーベル。
 それを目の端に捉えた要は、ぶっ、とその時だけ子供らしい表情で噴出した。
 一通りの挨拶をすませると、院長は言葉の端々に自分たちの配慮をアピールし、父親の道明寺司への心象を良くしようとする意図を滲ませた。
 こんな子供に、何へつらってるんだか。
 脂ぎってテラテラした院長の横顔を眺めながら、マーベルは眉をひそめた。
 子供が子供らしくいられない環境。
 要個人を見てみれば、多少癇性で我儘なところはあるものの、その父親よりはずっと我慢強く、真面目な少年である。
 少し深く付き合ってみれば、とても純真で寂しがりやな子供であることもわかりやすかった。
 「…と、いうことで、いつでも何かお困りなことがありましたら、Dr.マーベルなり、看護師なりご一報ください。御父君にもくれぐれもよろしく」
 カカカカッと高らかに笑い、顔色の悪い医長を引き連れて、現れた時と同じように去って行った。
 「あらあら、お茶の追加を準備していたら、もう、お帰りになったんですか?」
 シュナイダー夫人が人数分のお茶を用意して、給湯室から現れた時にはすでに跡形もない。
 「あんな奴ら、長居なんてしなくていいよ」
 ムッと膨れて要がつぶやけば、マーベルも肩をすくめて同意する。
 「そうよね~、私も外出するしなにヤな相手に会っちゃったわ~」
 ヤレヤレと首をふる。
 「キャサリン、あいつら嫌いなの?」
 青筋を立て、両腕を腰に当てて、指先を要の鼻先で振る。
 「キャサリンじゃないでしょ~。この小僧は、あたしを何才だと思っているのよ!マーベル先生、もしくはDr.キャシーでしょ?」
 「37才だっけ?けっこうオバンだよな?パパより2才も年上なんだろ?」
 「…道明寺司?」
 「うん、35才なんだ。ジェームズやティモシーのパパなんてオジンだけど、僕のパパはカッコいいだろ?」
 普段は両親のことなど言わない要が、顔を紅潮させて憧れを込めた声でマーベルに自慢する。
 「…うん、そうだね」
 同意すると、キラキラする顔で要が微笑む。
 と、思ったら目をこすって欠伸をしだしたので、クルクルの少年の髪を撫でて、そっとベッドに横たわらせた。
 「一眠りしなさいな。目が覚めたらシュナイダー夫人に中庭をお散歩させてもらいなさい?看護師には伝えて置くから」
 「…いいよ、僕、散歩になんか行きたくない」
 「何言ってるのよ。ここのところ発作もないんだから、あんたみたいな青白い子供は、少しでもお日様の光を浴びて健康にならなくっちゃ!ひ弱だったらありゃしない」
 マーベルに気を許して、すぐ膨れる少年がとても可愛い。
 ニコニコと微笑むマーベルに、要は正直な寂しん坊の顔を見せて哀願した。
 「キャサリン、僕が眠るまでここにいてくれる?」
 「いいわよ、おやすみ」
 「…うん」
 要が目を瞑ると、間もなく安らかな寝息が少年から漏れ出した。
 長い睫毛がその父親と同じように頬に影を作り、柔らかな癖っ毛が撫でるマーベルの掌から優しく滑り落ちる。
 「…お眠りになりましたね」
 「ええ」
 「先生も外出なさるんでしょう?お時間は大丈夫ですか?」
 シュナイダー夫人の問いに、ハッと時計の針を見つめる。
 ちょっと顔を出すつもりが、ついつい長居をしてしまった。
 「ギャッ、やば~い」
 小さく悲鳴を上げて退出しようとしたマーベルが、ふと顔をシュナイダー夫人に向けて問いかける。
 「そういえば、要のパパはお見舞いに来られました?」
 「…ええ、それが」
 不憫そうに要を見やると、心やさしい初老の女性は緩く首を振る。
 「あっいつぅ!近いうちに見舞いに来るなんて言って、なんて男なのっ!!」
 憤慨して両手を叩き合わせ、何かを決心したように一つ頷くと、病室を退出した。

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~ Comment ~

はじめまして

はじめまして。ぴこぴこと申します。
花男の二次小説が大好きで、とっても楽しませていただいております。

主人の仕事の関係でイギリスに住んでおります。

今まではどっぷりと「昏い夜を抜けて」にはまり込んでおりましたが、
主人が日本に出張に行った今この時!!
「夢で逢えたら」の一気読みを開始いたしました。
このチャンスを待っていたので、今とってもウキウキとしております。

幸せな時間をありがとうございます。
一言お礼を言いたくて。

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