「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0748

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 未練があった―――。
 桜子はそう語ったのだ。
 あえてこれまで、つくしは桜子が司を恨む理由を尋ねてこなかった。
 かつて桜子が言ったとおり、つくしが求めて、桜子が応じた。
 そこにあったのは、互いに利害の一致があったからだし、友情や互いへの好意などはあくまでもその後の二人の関係が育んだものであって、二人がタッグを組んだことに、桜子の司への感情がどうであってもつくしには関わりがなかったからだ。
 …私が苦しめていた?
 桜子の苦悩に満ちた顔が、つくしへと真に迫って、彼女の胸に現実的な痛みさえ感じさせる。
 不思議に、彼女への悪意は思い浮かばなかった。
 裏切られていたとか、騙されたとか微塵も感じていない自分に密かにホッと安堵する。
 ―――たとえ偽善者と言われても、以前に桜子に伝えた言葉をウソにはしたくなかったのだ。
 …私は自分の人生を自分で選んだんだ。
 たとえ誰にどんな思惑があったにせよ、どんな選択肢があったにしても、誰かのせいにしてもう自分から逃げ出したくはなかった。
 「私は、先輩もあきらさんのことも裏切っていたんです」
 「あんたは、私を励まして相談に乗ってくれただけだよ。そこにどんな本音があったにしろ、思惑があったにしても、あくまでもあんたがしたことは、私が頼んだことに協力してくれただけのことで、あんたが直接、司に何かをしたわけじゃない。ましてや、私を裏切ったとか、……美作さんを裏切ったとかいう事実なんて欠片ともないじゃないの!」
 司を陥れたことでさえ、あくまでもつくしと楓、そして遥香が画策しただけのこと。
 そこに桜子が関与したのは、せいぜい楓とつくしのパイプ役という役割だけで、その画策の詳細も桜子は誰からも知らされてはおらず、ただ把握した諸々のことから聡明な彼女が自ら推測しただけのことだったのだ。
 …本当の罪は、私と神崎さん、それにあいつのお母さんにあるだけ。
 桜子があえて見逃し成した役割を断罪するのなら、そもそもの始まりである彼女が司に傷つけられたことに言及しなければならない。
 彼女を司への憎しみへと駆り立てた元凶は、司であり、桜子を心無い言葉や態度で傷つけた有象無象の人々だった。
 また、主犯者であるつくしがいなければ成り立たなかった‘過去’が焦点なのだから、司とつくしの歪んだ関係のそもそもの始まりである赤札に迎合した英徳の生徒たちや、司の歪んだ凶行を見逃した道明寺家の使用人たち、他、あまりにも多くの人々にも罪を問わなければならないだろう。
 そして、やはりすべては司自身に回帰してしまう。
 人は自覚せずして、あまりにも多くの罪を犯している。
 「もう諦めたと、忘れたと思ってました。でも………。実際に何事かを道明寺さんに働きかけたか否かは問題ではありません。知らされていたかどうかもね。諸々のことから私はほぼ完全に事態を把握していましたし、またそうなるべく楓社長とあなたのパイプ役を買って出たんですから」
 「桜子」
 「本当の意味での裏切りとは、現実に何をなしたかではないのではないでしょうか?……心です。心で私は先輩を妬み、その妬みから先輩を唆して、道明寺さんと先輩の二人を引き裂いた。そして、その妬みを抱いた原因を鑑みれば、その妬み心の大元こそ、あきらさんへの裏切りに他ならない」
 妬み心の大元、それは桜子の司への執着、それらはしかし、恋慕と言い換えることができる。
 桜子は他人にも理想を求める女だったが、それ以上に自分に厳しく理想を架す女だったのだ。
 …厳しすぎるよ。
 幼い頃に打ち砕かれ恨みにさえ変わっていたはずの想いは、それでも熾火のように、いつまでも燻り続けて完全には消え去ることはなかったのだと、桜子は言う。
 「わかっていたさ。桜子、お前は俺に惚れて婚約したんじゃない。………美作の長男だから、F4の一人だから俺と婚約したのだと」
 「…………っ」
 「美作さん」
 「俺もそうだった。どのみち家の都合で決められる相手だ。よほど相性の合わない相手じゃなけりゃいい、妥協できると思い決めていた結婚だったんだ」
 あきらの正直な言葉だったのだろう。
 けれど、婚約までした女に言うにしては、あまりに歯に衣着せぬキツイ言葉。
 あきららしくない、しかし、だからこそ、ウソやおためごかしではない彼の本音なのに違いなかった。
 何も言えずに、ただ力なくあきらを見返す桜子へと、だが、あきらは柔らかく微笑みかける。
 「けど、さっきも言ったよな?俺は俺なりにお前に惚れた。惚れたからこそお前と婚約し、お前と結婚すると思い決めたんだ」
 「あきらさん」
 「結婚したい、じゃねぇぞ?この美作あきらが心に決めたことだ。それにな、お前は司への未練があったと言っていたが、俺に対しても、お前なりの好意を抱いてくれていたと思っているんだよ」
 「それはっ」
 「俺のことが嫌いか?」
 あきらの問いかけに、桜子がわずかに逡巡して、だが小さく首を横に振る。
 そんな彼女の答えにあきらがホッとしたように見えたのは、けっしてつくしの気のせいではないだろう。
 重ねて、あきらが問いかける。
 「この先も愛せないか?結婚を厭うほどに、俺はお前にとってありえない男か?」
 「………愛せない?愛していないはずがないじゃありませんかっ」
 気丈に振舞っていた桜子の決壊がついに崩れて、それでも崩れきれずに、とっさに溢れそうになった嗚咽を堪えるためにか、ほっそりとした白い手を口元にあて目を閉じる。
 「あなたを好きだからこそ、……このまま結婚することが耐えられなくなったんですよ。この顔もカラダも作り物で、この醜い本性さえもあなたに知られてしまったら、いったい後は私に何が残ると言うんですか」
 「……………」
 「……………」
 「それでも、以前の私だったらどんなことをしても、自分を偽ってでも、あなたに媚びてどうにかあなたの妻の座に収まろうと画策したでしょう。でも、……それができなくなってしまった。あなたに愛されたかった。何一つ誇れるところのない私だというのに、私自身をあなたに見て欲しい、そんな欲望が膨らんで耐えられなくなったんです」
 ―――いつあきらに見捨てられるか。
 あるいはたとえ見捨てられなくても、ただの義務だけで結婚して、愛の無いーーー自分一人だけがあきらを愛して、彼の愛を求め続ける不毛な人生に恐れをなしたのだと桜子は言う。
 「……どうせ、愛されないのならいっそ婚約を解消してしまえば、と何度も思って、でも結局それを言い出す勇気がなくって、だからといってこのままでいられるはずもない。そんなことを悩み続けた数年間だったんです」
 あきらの申し訳なさそうな目配せを受け、つくしがそっと無言で腰をずらして席を移る。
 対面側のシートに座っていたあきらが、つくしに代わり桜子の隣へと移動して、震える彼女の肩をそっと優しく抱き寄せた。
 「すまなかった。お前のそんな気持ちをわかってやれていなかった俺を赦してくれ」
 「……っ」
 「お前の司への気持ちはわかっていた。……それでもいい。いつかは俺に振り向かせて見せる、そんなことを思って、全部わかった顔して本当の本当のところでは、お前の苦しみに気がついてやれていなかったんだな」
 真摯なあきらの言葉に、桜子が両手で顔を覆ってしまう。
 嗚咽や泣き声は聞こえなかったけれど、それでもあきらの広い胸にもたれる桜子の、小刻みに震える体やかすかに上下する胸の動き、手指の間から流れ落ちる涙の雫が、彼女の今感じている感情を溢れさせていた。
 「俺への気持ちとは別に、お前が司のことを長く引きずったのも仕方がないことだったんだよ。お前はそれほど長い間、司に拘って、囚われ続けてきたんだ。いつか司を見返すーーーその中には、ガキの頃のお前じゃない、今のお前を認めて欲しい、そんな気持ちがあったんじゃないか?」
 「……ええ」
 桜子の肯定に、あきらは一つ頷いて話を続けた。
 「それなのに、お前はあいつにきちんとフラれなかった。その機会さえも与えられなかったよな。……そういうのは後を引くんだよ、当たり前のことなんだ。それを裏切りだなんて俺は思わない。俺はお前を、お前という女を見て惚れたんだぜ?それはお前の顔やカラダ、ましてやお前が取り繕った表面的なものだけじゃないぞ?お前のその一途な情の厚さや激しさ、脆さや弱さ、その全部に俺は惹かれたんだよ。だから、もう俺にしろよ。まるごと俺が受け止めてやる。幸せにしてやるから」
 あきらの掻き口説く言葉に、顔を手の中に埋めたまま、桜子がコクリと小さく頷いたようにつくしの目にも見えた。




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