「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0747

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 「……司か」
 「えっ!?」
 ギョッと驚いて、つくしが桜子の顔を見直した。
 「……それもご存知だったというわけですのね。まさかその当時から、私のことを憶えていらっしゃったとはとても思えないのですけれど?」
 あきらも桜子の言葉を肯定する。
 「まあ、さすがにな」
 話が見えないつくしへと、それでも覚悟を決めたような顔の桜子が改めて向き直り、握られたままの手を反対側の手でそっと握り返し、だが、すぐにソッと自分の手から外してしまう。
 「桜子?……司が、って?」
 「………子供の頃の話です。本当に私も、道明寺さんもホンの幼い頃、当の道明寺さんですら私のことを憶えていらっしゃらないくらいの、遠い昔の話」
 しかしおそらく、そう言う桜子の中では、そんなに遠い過去の話ではなかったのだろう。
 つくしが何年も十何年も、……ずっと司との昏い過去を忘れられずに苦しみ続けてきたように。
 桜子が言うとおりどれだけの年月が経とうとも、どんな幸せを得たとしても、どうしても忘れられないことがある。
 人の心はそれだけ弱くも、また脆くもあるものなのだ。
 「トーマスだったか?お前の幼馴染みの男が表参道でコーヒーショップを営んでるだろ?」
 「……トーマスが?」
 「ああ」
 「どうして?」
 「これを話すのは正直、俺としてもまったく気が進まないんだが、……一時期、お前のことで、ウチによけいな告げ口めいたことをしてくる連中がいてな」
 おそらく嫉妬による誹謗中傷や、悪意ある讒言などがあったのに違いない。
 つくしにもよくよく身に覚えのある話だ。
 「なるほど。もしかして、トーマスのことで中傷を?」
 「ああ。……俺自身、お前と出会う以前はけっして褒められた素行をしていたわけじゃないからな。そんな自分を棚に上げて、お前のことを上げ連ねてどうのと言うつもりはなかったんだが、実際のところ、あの頃の俺は、お前が俺とのことをどう考えているのか、まだ測りかねていたところがあった」
 「結婚は結婚。お互いにそこは割り切って、外聞を憚れば互いによろしく自由にやるつもりだったのか、……ということですか?」
 「少なくても、俺は違う」
 以前、あきらはつくしにも語っていた。
 遊ぶのは独身時代まで。
 結婚して後は、たとえ政略結婚で娶された相手であっても大切にするつもりだ、桜子をただ義務的にではなく、家庭を共に作り育んでゆく生涯のパートナーとして、自分自身でも選んだ女性なのだと。
 そして、たぶん桜子もまた。
 「今だったらお前に直接確かめた。……だが、あの頃の俺はお前に直接当たることをせずに、他人を使って調べ、他の人間の言葉を聞くことを選んだ。軽蔑するか?」
 あきらの問いに、桜子が微苦笑してゆるく首を横に振る。
 「恋愛ではないのですもの。……それが政略結婚というものだということは私も承知しています」
 その言葉のとおり桜子にも納得できることだったのか、あきらの言葉に傷ついたようではなかった。
 …私だったら、イヤだけど。
 だが、つくしにはつくしの常識があるように、彼らには彼らの常識がある。
 育った環境も立場も何もかもが違った司や類と、つくしとでは高かった壁も、あきらと桜子の間ではそれほど問題が無い程度の高さでしかないのだろう。
 「トーマスはただの幼馴染みです。互いに特別な感情など欠片ともありませんが、それでも兄妹のような情があって、そういう意味では彼に何くれとなく援助をしていた時期もあります」
 「…らしいな」
 そこらへんはあきらも信じているのだろう。
 「それだけにいろいろ彼には私のことも知られていて、……まあ心配してくれてはいるんでしょうけれど、まさかあきらさんに、よけいなことまで話していたとは思いませんでしたよ」
 「よけいなこと?」
 あきらにではなく、つくしへと、桜子が真っ直ぐに顔を向ける。
 「道明寺さんが好きでした」
 「…っ!」
 突然の告白に絶句する。
 「子供の頃の話ですよ?」
 「え?」
 「先ほど、言ったでしょ?子供の頃に初めて好きになった男の子に、ドブスと言われたことをいまだに忘れられないって」
 「………あ」
 それを司かと、あきらが尋ねたのだ。
 「私だって、わかっています。そんな子供の頃のことをいつまでも連綿と恨みに思うなんて、どれほどバカバカしくて、不毛なことなのかなんてとっくにね。それこそ、この顔を変えた時にすらわかっていた」
 「……………」
 「一時期は、大真面目に変えたこの顔やカラダを使って、道明寺さんや……F4に復讐をする、そんなことを思っていたこともあった。そう言ったら、本当にバカな女だったんだと笑いますか?」
 今度はあきらへとなされた桜子の質問に、一瞬あきらが目を伏せ、「いや」と小さく首を横に振った。
 「桜子が手術を受けたのって……」
 「ええ。ご推察のとおり、道明寺さんに子供の頃、ひどいことを言われて拒絶されたことが引き金になってのコンプレックスが原因です」
 「っ!」
 「まあ、それも単なるこじつけに過ぎないということは、いまでは私も認められますが、それでも子供の頃の傷が、他人にとってはどうあれ、私にとっては忘れがたかったことは確かです」
 「わかるよ」
 それはおもねりではなかった。
 たとえ他人にとってはどんなに些細なものに思えても、本人にしかわからない苦しみがあるように、どのようなことがその当人にとって、どれだけの傷となって残るかなど、当事者以外には本当の意味ではわかりはしないのだ。
 「高校時代、道明寺さんに赤札を貼られて学校中に苛められていたくせに、いつの間にか道明寺さんに気に入られて、連れ歩かれるようになった先輩に対して、当時ですら一言では言えない複雑な思いがありました」
 いつだったか、ーーー本当にいつだっただろう。
 司を恨んでいるからつくしを手助けするのだと協力を申し出た桜子から、司への怨嗟ではない、なにか別の感情を感じ取ったことがあった。
 あるいは、……と思ったことがないとは言えない。
 それが子供の頃のことだとは思いもしなかったけれど。
 しかし、本当に桜子のその感情は、彼女の子供の頃だけのものだったのか。
 「それでも、……道明寺さんが日本を去られて、先輩と結婚されて。もう本当に私の手には届かない存在になって、あきらめられたはずだったんです。望外に、美作家からあきらさんとの婚約話までもが持ち上がって、本当にもう、こんな不毛な想いは解放してしまおう。あきらさんがたとえ、この顔とカラダ、あるいは我が家の某かに美作家としてメリットを感じてくれただけだったのだとしても、この幸運を大事にして幸せになろう、本当にそう思っていたのに……」
 「桜子」
 「それなのに、私を地獄の底へと叩き落として長くずっと暗闇に閉じ込めていたくせに、何もかもーーーあの方が長く餓えていたはずの‘愛’ですら手に入れて、自分だけが幸せそうな顔をしている道明寺さんが赦せなかった。こんなにも、……こんなにもっ、ずっと忘れられずに想い続けていた私ではなく、他の女を愛して愛されて、何一つ欠落することなく輝き続けている道明寺さんを見るにつけ、そんなあの人を惹きつけ捕らえ続けている先輩、あなたが妬ましかったんですっ」




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