「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0746

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 「香奈枝からお聞きになったのですよね?」
 つくしには聞き覚えのない名前だったが、それだけであきらには通じたようだ。
 「そうだとも言えるし、そうでもないとも言えるか」
 あきらの言葉に対しては怪訝さをあらわにしていても、特に桜子の告白には驚いてはいないつくしの様子に、あきらが合点して小さく微笑み頷きかけてくる。
 「やっぱり牧野も知ってたか」
 「……まあ」
 「先輩にバラしたのも、やはり香奈枝ですよ」
 「は?」
 意外な言葉に、今度こそ桜子をポカンと眺めてしまう。
 「まあ、彼女は間違っても口が堅いというタイプの女性じゃないからな」
 …なんて言うか。
 なるべく二人の会話を邪魔すまいと存在を消す努力をしているつくしの気遣いとは裏腹に、むしろあきらや桜子が彼女の存在を緩衝材にしていることに、いまさらながらつくしも気がついた。
 「あのさ、…香奈枝さんって?」
 「IMCエンタープライズの代表夫人の柴崎香奈枝です。かなり以前、……そうですね、それこそ7年近く前のことですが、香奈枝は先輩にも会っています。私の顔や体が整形で得たものであることを話のタネにして、先輩に、というか、道明寺家の奥様に、自分の名前と顔を売り込もうとした女のことを覚えていますか?」
 「ああ、うん、なるほど。名前や顔まではさすがに憶えてないけどね」
 当時、彼女を通じて司に売り込もうとする輩はひきもきらなかったから、特に珍しい話ではなかったけれど、その出来事ならば、つくしの記憶にもハッキリ残っている。
 あの頃のつくしはまだ過去のことを思い出してはおらず、ただ司を愛し、彼を支えて戒を立派に育てたい、道明寺家の若夫人として頑張らなければと気負うだけの自分でしかなかった。
 「その人が美作さんに?」
 「……まあ、聞かなかったとは言わないが、桜子もそんなに強固に隠していたというわけじゃないだろ?」
 「宣伝はしていませんし、あえて自分から口にしたことはありませんが、……どちらにせよ、香奈枝がそうであるように、人の口に戸は立てられませんから」
 「……………」
 おそらく、いや間違いなく、そうした他人の悪意や嘲笑は、これまで何度となく桜子を傷つけ、哀しませてきたのだろうと、つくしにも容易に察せられた。
 しかし、苦笑する桜子の横顔には、そうした出来事を乗り越え自分なりに消化してきた者の強さがある。
 あからさまな悪意だけでなく、無遠慮な大多数の悪意なき人々の好奇の視線や言葉に、傷つけられてきた苦悩や哀しみ、悔しさを飲み込んで、それでもなお前を向き力強く足を踏み出し続けてきた女の横顔。
 「ですので、いつかはあきらさんにもバレてしまうことの覚悟がなかったわけではありません。でも、香奈枝からではなかったということは?」
 「高校時代の一時期、下級生の間でお前のことが噂になったことがあっただろ?」
 「……ああ」
 たしか桜子もつくしと同時期、英徳学園の高等部の一学年下に在学していたはずだ。
 だが、つくしには覚えがなかったから、それほど大きな噂ではなかったのかもしれなかったし、あるいはすでに赤札を貼られ、司に示唆された生徒たちからのイジメを受けていたか、司によって囚われていた以後のことだったのかもしれない。
 「まさか、あきらさんが私のことを、当時すでにご存知だったとは思いませんでした」
 「2学年違ったからな。けど、1年にすげぇ美少女がいるってことは、総二郎から聞いたことあったし」
 「なるほど」
 「ああ」
 総二郎経由での話だということに、思わずつくしも納得してしまう。
 あきらもスケコマシな印象ではあったが、当時の噂からしてどうもあきらの場合は総二郎とは違って、同年代の女性よりも元々はかなり年上の女性を好むタイプの男だったらしいからだ。
 とはいえ、そのわりには、
 …司のクルーザーで、なんかとんでもないことになっているところを見てしまった憶えがあるかも。……て、いうか、え?もしかして、美作さんと香奈枝さん?って人って。
 妙なことがつくしの脳裏によぎったが、さすがに考え過ぎだと、よけいな詮索はやめることにする。
 「まさか、その当時からご存知だったんですか?お金で手に入れた美貌を自慢げに振りかざして、いい気になってる女だと?」
 「自虐的な物言いは辞めろよ。お前らしくないだろ?」
 「私らしいって、なんですか?あきらさんは私の何を見て、私らしいとおっしゃるんです?」
 「桜子」
 「……桜子」
 「あきらさん、先ほどの私の質問にまだ答えてくださっていませんよ?」
 桜子の問いかけにわずかに逡巡し、だが問われたことにはあきらも答えるつもりだったのだろう。
 彼は自分から口に出したことを、気まずいからといって誤魔化してしまうような男ではなかった。
 「いい気になってる、……かはともかくとして、お前のそうした強気な態度や、男たちがお前に群がるのが気に入らないヤツもいたんだろ。幼稚舎の時の卒園アルバムだかなんだかを持ち出して、お前をやり玉にあげてたヤツがいたことも、なんとなくだけど聞き覚えがあったんだ」
 「……ふふ」
 こんな場面だというのに、なぜか笑う桜子の顔は、しかし、さすがに心のうちすべてを覆い隠すことができてはいなかった。
 「そんな以前から知られていたとはね」
 膝の上で握り締められた桜子の手が青白い。
 一瞬迷って、けれど、その手につくしは自分の手をそっと乗せた。
 頼りなげな眼差しがつくしへと向いて、ウルリと潤んだ瞳に、ぐっと力を込めあらためて桜子の手を握り直す。
 …私がいるよ。
 彼女の為に何ができるか、それはつくしにもわからない。
 けれど、せめて彼女の心の支えの一つにでもなれれば、と。
 そしておそらくは、今彼女たちの目の前にいて、桜子を追い詰めているあきらもまた、きっと同じことを思っているのに違いなかった。
 それを果たして、桜子はちゃんとわかっているだろうか。
 目の前の男性が、彼女を愛しているとその眼差しにこめて熱く見つめていることを、つくしでさえも疑うことができないというのに。
 …桜子、ちゃんと美作さんの目を見て。
 そして心で感じて欲しい。
 時に逃げてしまうことに安楽を求めて、後の苦悩を深めてしまうこともあるのだと、今のつくしにはわかっていたから。
 せめて友や―――親しい人たちには、間違って欲しくなかった。
 …精一杯やって、それでもダメだったなら仕方がない。
 けれど、と。
 「だから、お前が整形のことを理由に、俺と別れようとしているのならお門違いな話だ。最初からそのことを、俺は知っていた。知ってたが、お前がいつか話せると思った時に話してくれればいいことだと思っていたし、たとえ話してくれないにせよ、それはそれでかまわないと思ってたんだ。誰にだって、たとえ恋人や夫婦の間だったとしても、言えないこと言いたくないことの1つや2つはあるさ。……まあ、少し寂しい気はするけどな」
 あきらのボヤきは本心ではあっただろう。
 彼の言うとおり、誰の心にも秘密や、闇はある。
 言えない、言いたくない、あるいはあえて隠す意図があるにしてもないにしても。
 その別はあったにせよ、おそらくつくし自身にしても、そして、類もまた。
 いくら好き合っていても、愛し合っていても、自分の心や人生全部を他人に語り尽くすことなどできはしないのだ。
 「子供の顔が私に似てしまうかもしれませんよ?」
 「それも嬉しいことじゃないか。惚れてる女によく似た子供が生まれて喜ばない男なんてどこにいる?」
 ―――惚れてる女。
 わずかに桜子を包んでいた緊張がほぐれた気配がした。
 けれど、
 「私はイヤです。………ブスだとからかわれて、初めて好きになった男の子に、ドブスは近づくな、そんな顔で自分を好きなるなんてと罵られる苦痛を自分の子供には味わって欲しくない。………子供の頃のことを、いつまでも忘れられずに恨みに思うなんて、我ながら執念深い話ですが、それでもどれだけの年月が経っても、忘れられないことってあるものなんですよ」




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