「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑥

愛してる、そばにいて0745

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 「……………」
 沈黙が落ちる。
 一瞬、周囲の空気が失せて、真空になってしまったかのような錯覚に、つくしがピキーンと固まってしまう。
 申し込れた本人ではない彼女ですらそれだけの衝撃を受けているというのに、当の本人である桜子の立ち直りは意外にも早った。
 「な…んん、んっ。な……にを、急にそんなことを……言い出すんです」
 しかし、それでもその途切れ途切れになってしまっている掠れた声音での言葉や、何度となくせずにはいられないらしい咳払いが、彼女の動揺を隠しきれていなかった。
 「別に何も急な話じゃないさ。俺の気持ちは、お前との結婚を決めた見合いの時から微塵も変わっていない。……いや、違うか」
 ‘違う’のセリフに桜子の体がわずかにビクリと強張る。
 それさえも、隣に座っているからこそ、つくしにもわかった程度のものだ。
 あくまでも強気に真っ直ぐに頭をあげ、あきらを見据える桜子の心情は、かすかに青ざめた顔色以外ほとんど余人に覗かせてはいなかった。
 けれどそれでも、桜子がその態度ほどには平然としているわけではないのは、つくしだけではなく、おそらくあきらもわかっていたことだろう。
 「あの頃よりももっとずっと強い気持ちで、俺はお前と結婚したい。義務としての結婚ではなく、一人の女としてのお前に惚れたから、お前と結婚したいし、一緒に家庭を築いて生きていてきたいと思ってる」
 「………あきらさん」
 睨みつけるようだった桜子の意気地が砕けて、苦しげな顔であきらから視線を反らし、震える唇を噛んでゴクリと唾を飲み込む音が、不思議に大きくつくしにも聞こえた気がした。
 「お前はどうなんだよ?俺たちの間には、まず最初に‘家’のことがあって、そもそもの出会いからして結婚が前提だったから、わざわざお前の気持ちを確認することはしてこなかった。否やを申し出られなのだから、当然、いずれは結婚することに関してお前も納得している。……そう思うことが俺の怠惰だったと言われれば、それを否定することはできない。だが、お前はここに来て、俺との結婚をご破算にしたいと声をあげた。どうしてだ?お前も承知だったはずの政略結婚を、ここに来て破棄しようとするその理由はなんだ?俺たちの世界では付帯することが必然のペナルティを負ってまで、お前がこの婚約を解消しようとする理由はいったいなんなのか言ってくれ」
 ―――ペナルティ。
 それはおそらく、婚約解消……破棄に近いカタチでの解消に伴う莫大な慰謝料を含めた話なのだろうことは、つくしにもわかった。
 あきら個人はともかくとして、元々が家同士での契約であり、1年2年のことではなく、何年にも渡っての婚約関係だ。
 片方が心変わりした、それならば仕方がない、で済ませられないのは、たとえあきらたちのような権門同士の政略結婚ではなかったにしても、個人の婚約関係であっても、簡単にことは収まらないのは当然のことだった。
 「……祖母が亡くなりました」
 「えっ!」
 むしろ驚いたのは、つくしの方だった。
 そんなつくしを横目でチラリと見て、泣き笑いのような奇妙な笑みを浮かべた桜子が、小さく頭を下げ謝罪する。
 「すみません、黙っていて。どちらにせよ、年末の時期にはご報告しようと思っていたのですが、いろいろ一族内でもゴタゴタがあって…」
 親友のただ一人の身内が亡くなったのだ。
 葬式や通夜への参加はともかくとして、意気消沈したに違いない友人に対して、慰めの言葉の一つくらいはかけたかったという思いはもちろんあるが、人には人それぞれの事情があり、時にはその気遣いがかえって煩わしくも迷惑になる場合がある。
 おそらく桜子自身も言っているとおり、ずっと黙っているつもりではなく、一段落がついて後には報告しようとは思っていたのだろう。
 だからつくしも、今は一つ小さく頷き、理解を示すだけに留める。
 …カタチだけがすべてじゃない。
 桜子の祖母への哀悼を告げることは、今この場ではなくてもいつでもできるのだし、その時の桜子の悲しみに共感して、彼女が望んでくれた時に力になりたいと伝えることもできる。
 「あきらさんがおっしゃっているとおり、元々この結婚話は家と家との繋がり。もっと言ってしまえば、半ば没落していた我が家の再興の為にお受けしたお話でした」
 「……ああ」
 あきらの声音は平静だった。
 互いが納得しての事情だとはわかっていたが、むしろ第三者のつくしの方が居た堪れない気持ちを抱かされてしまう。
 「それでもなお聞くぞ?この7年で少しでも俺に、美作ではなく、この俺自身にお前は心を動かされることはなかったのか?家のことがまず前提にあるのは、俺たちの間柄では仕方が無かったことかもしれない。だが、それがあるにしても、三条家にとっても、今、美作家との縁組を解消することに、まったくなんのメリットもないはずだろ?」
 それどころかデメリットでしかないだろう。
 だからこそ、桜子は長年婚約解消を胸の内のどこかで考えながら、そうすることもせず、のらりくらりと結婚を引き伸ばし、引き伸ばしてなお、祖母の死をキッカケにしなければ動くことができなかったに違いなかった。
 「俺を男して愛せなかったのか?一度は受け入れたはずの政略結婚を、あえてペナルティを負ってまで解消せずにはいられないほどに、俺と結婚するのがイヤだった。そういうことなのか?」
 「……っ」
 緊迫した空気と内容に、つくしは口を出すこともできずに、固唾を飲んで二人を見守ることしかできない。
 「だったら」
 「……………」
 「……………」
 「そうだったなら、どれだけ楽だったでしょう。……心を隠して、笑って結婚するくらいの覚悟はありましたっ」
 軋るような桜子の声音には、真実の痛みが宿っていて、自身のことではないというのに、つくしの心にまで物理的な痛みさえ感じさせずにはいられないほどの苦痛を帯びていた。
 ―――心を隠して、笑って結婚する。
 それが幸せなこととは、つくしにはとても思えなかったが、それでもそうすることの方が楽だと言い切れる桜子には、それ以上に苦痛なことがあったのだ。 
 桜子の震える手が自身の頬に添えられ、皮肉な笑みのカタチに唇が歪められる。
 隙なく化粧を施され、人であることが信じられないほどの美貌。
 「この顔や、カラダが紛い物……整形で得たものであることを、あきらさんもお知りになったのでしょ?」




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