「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0742

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 「なに、さっきからキョロキョロされてるんですか?」
 優雅な仕草でフォークを使い、ゆっくりとサラダを咀嚼していた桜子が、怪訝に尋ねてくる。
 「えっ!?」
 「……なんですか。今日はお会いした時からずいぶん挙動不審ですけど、もしかして、花沢さんが後からいらっしゃる予定とか、そういう感じなんですか?」
 「は?類?」
 それこそ思いもよらぬことだった。
 「いや、まさか。今日も朝からイヤイヤ出勤していったし、たぶん帰宅も午前近くになるんじゃないかな?」
 「ぷっ、イヤイヤって」
 思わずそのまんまの表現を使ってしまい、桜子に笑われてしまう。
 「なんか、花沢さんのイメージじゃないですけど、…まあ、世間が休日の中、激務に耐えてらっしゃるんですから、私としても、同病愛憐れむ気持ちで理解できますよ。とは言え、私はけっこう趣味と実益を兼ねて息抜きもしていますが、花沢物産のような大企業の役職ともなればそうもいかないでしょうしね」
 「……まあね」
 桜子のイメージしている類がどんなものかはともかくとして、たしかにつくしにしても、類の大変さは察して余りある。
 …喜んで仕事してなくても、ちゃんと責任は果たしてるんだから、そこは仕方がないっていうか、正当に評価してあげるべきだよね。
 「毎日、午前様なんですか?」
 「ん〜、さすがにそこまでじゃないけど」
 「でも、似たようなものなんでしょ?」
 「まあ、そうだね。なんだかんだ言っても、普通の会社員とは違うし。いくら若いとは言っても、そこはかなり無理してるよね」
 「………ですよね」
 そこは桜子も似たような立場の男と婚約していたのだから、重々承知な部分だろう。
 いや、まだ完全に婚約破棄には至ってはいないか。
 桜子はつい先ごろ、宣言どおり数年間にも及ぶ長い婚約時代を終わらせようと、あきらに対して婚約解消を申し出ていた。
 ただし、どちらにもこれといった非がない上での申し出だったから、そう簡単には事は進まず、家同士での話し合いは平行線を辿っている。
 ―――当事者の片割れであるあきらが承諾しないのだから、なおさらのこと。
 …自分の生理不順と不妊症を事由に、って言ったって、これといった機能的な障害があるわけでもないし、まだ実際結婚したわけでもないのに、美作さんじゃなくったって普通そう簡単に納得なんてしないよね。
 もちろん桜子の実業その他、不妊だけを事由にしているわけではないが、美作家側の承諾が得らないまま強引なことをすれば、莫大な慰謝料を請求される事態もあり得る話なのだ。
 ましてやあきらの方には、単なる家同士の政略結婚以外の気持ちが桜子にある。
 そして、おそらく桜子にも。
 「じゃあ、先輩も寂しいですよね」
 「え?」
 「まあ、花沢さんの多忙をいまさら嘆かれるには、諦念されているとは思いますが」
 桜子が言うのは、類に勝るとも劣らぬ多忙な男だった司の妻だったのだから、という意味合いだろう。
 たしかにそれはそうなのだが、と、つくしが苦笑する。
 「いや、そんなこともないよ。やっぱり体は心配だけど。でも、類の場合は必要以上の無理はしないから、自分の限界を超えない範囲でけっこう上手くやってるんだよね」
 「そうなんですか?」
 「ん、毎週じゃないし、必ずしも日曜祭日じゃないけど、類もほぼ週一くらいはちゃんと休みとってるよ」
 「え?そうなんですか?」
 今度は桜子の方が驚いている。
 それはそうだろう。
 類の年齢と立場ではとても考えられない。
 「……まあ、お休みをとってるとおっしゃっても、なんだかんだオフの間も仕事を兼ねて、という部分も多いでしょうし、常に頭は仕事って感じでしょうからねぇ」
 「あ~どうかなぁ」
 さすがに頭の中身までは覗くべくもないので、つくしにも断言できないが、どうみても一緒にくだらないバラエティ番組を見ていて、広告作用と収益について、……なんて小難しいことを彼が考えているようには思えない。
 …結構、テーブル叩いて、ひーひー笑ったりしてるし。
 むしろあまりに派手な反応に、つくしの方が若干呆れることも多々。
 「花沢さんと先輩、お休みの時って、いったい何されてるんですか?」
 「類と私の休み?そうねぇ~。私は平日は仕事に出てるから、休みの間に布団干しをしたり、いつもは手を抜いてる場所の掃除したり、買い出ししたりかなぁ」
 「………布団干し、掃除、買い出し」
 桜子が呆れたように復唱しているが、つくしは丸無視だ。
 つくしは生まれながらのお嬢様奥さんではない。
 …ま、まだ奥さんじゃないけど。
 「類は昼過ぎまでだいたい寝てることがほとんどだけど、夕方までに起きてきたら一緒に散歩行ったり、買い出しについてくるかな。あとは一緒にテレビ観てたりすると、一日くらいのオフはあっという間に終わっちゃうからねぇ」
 微妙な顔をしている桜子に、だいたい彼女が何を考えているのかつくしにもわかって口を噤む。
 「なるほど。ようは……お幸せってことですね」
 「ぶっ」
 いきなり明後日の方向の感想に、つくしが口に含みかけていたサーモンを噴き出しかけ、慌ててグラスの水で飲み下す。
 「……なによ、それ」
 カラかってるわけではなさそうだが、それでも小さな含み笑いが冷やかしている。
 「だって、そうなんでしょ?彼氏が定期的にお休みをとって、その時間をどっぷり一緒に過ごせているんですもの。幸せ以外のなにものでもないのでは?」
 「……うーん」
 何やら桜子が言うほど特別なものではないが、違うとは言えない。
 なので、
 「ま、そういうことかな?」
 照れつつも肯定する。
 今度は桜子も掛け値なしの優しい顔で微笑んでくれた。
 「良かったですね。……前回お会いした時には、なにやら悩まれてるようでしたから、実は少し心配してたんです」
 「……あ」
 悩んでいた、……つもりはなかった。
 けれど、つい吐露してしまっていたからには、やはり心のどこかに引っかかっていたことなのだろう。
 しかしその後、桜子のアドバイスではないが、静との約束にも関わらず、彼女の見舞いをいまだつくしは果たしていなかった。
 …もう退院されてるよね。
 携帯電話に登録されている静の携帯電話の番号が脳裏にチラく。
 「先輩は、他人を押しのけてまで、自分が幸せになるという気概が希薄な方です。たしかに自分のことなのだから、それも勝手だろうと言われればそのとおりなのですけれど。時にそれがーーーその潔さや生真面目さが、ご自分を追い詰めるだけではなく、先輩にとって、一番身近な人にも残酷な結果になりかねないということを、果たして先輩は承知していらっしゃるでしょうか?」
 「どういう意味、それって?」
 眉根を寄せて睨むつくしに、桜子が視線を伏せ、わずかに自嘲の笑みを浮かべた。
 「いえ、他人のことはよくわかるものだということでしょうね」
 「桜子」
 「もう先輩は吹っ切られたようなので、いまさら私が何を言う必要もないことですが、……なんとなく、気になったものですから」
 桜子の屈託は彼女が言うように、ただつくしへの心配からくるものでもあっただろうけれど、それだけではないのをつくしも感じていた。
 「あのさ、実はね、美…」
 「さ、なんか妙に辛気臭い感じになっちゃいましたけど、先輩のノロケ話を肴に、美味しい料理を堪能しましょうよ」
 「……私のノロケ話ってあんたねぇ」
 そんなもんあるかと、小突く真似をしかけて、桜子が自分ではなく、自分の背後を険しい顔で見上げているのに気がついて、つくしも怪訝に背後を振り返った。
 …あ。
 「よ、久しぶり。遅くなったから逢えないかと焦ったよ。……俺も同席していいかな?」




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