「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0739

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 いくらいつも一人でホケホケ歩いているにしても、普通だったらあまりされない質問だ。
 そうは言っても平日のみならず、陽気のいい休日の午前の時間帯から、犬の散歩やジョギングでもないのに一人孤独に散歩している人間など、そうそう見かけるものでもないのだが。
 …もしかして、私って、なにげに凄い寂しい女だとか思われてた?
 プチショック。
 「あ…ごめん。日本人って、あんまりプライベートなことは、質問しちゃダメなんだっけ?」
 「いや、そんなご大層な理由があるわけじゃないからいいんだけどさ」
 「あ、…この草、面白いんだよね!」
 もごもごと言葉に困っているつくしをよそに、大人びて見えてもやはりまだ幼い少年のこと。
 あっという間に興味はあちらこちらへと飛び火して、花壇の脇に青々と生い茂っている雑草に目を煌めかせてしゃがみんでいる。
 そして、その雑草をプチプチっと2、3本引きちぎって、つくしへと掲げて見せてくれる。
 つくしも両手を膝に置いて、屈んで、杏樹が手に持っている雑草を覗き込む。
 「スギナだね」
 「これ、節と節が傘みたいになってて、プチッて引き抜いてもまた繋がるんだ。知ってた?」
 「ああ~」
 もちろん、つくしも子供の頃にさんざん遊んだことのある、ポピュラーな雑草だ。
 「パリでもさ、こういうのでおママゴトしてる女の子や、親と花や草を摘んでる子とかいたよ。つくしさんも子供とやったりした?」
 「……………そうだね」
 思い浮かぶのは、腕に抱いた幼い戒に、あれこれとその辺の草花を差し出していた自分と、引きちぎったりバラ撒いては、キャアキャアと喜んでいた戒の姿だ。
 「どっちの息子も男の子だから、おママゴトとかお花摘みはそれほどしなかったけど、でも、スギナの節目をちぎって繋いでは、どこを繋いだかとかのクイズはしたりしたかな」
 「へぇ~、ウチはペール※3…父親がほとんど家にいなかったし、ママンも仕事が忙しかったからさ。小さい頃から何人かヌヌー※1もついてたけど、………めったに屋敷の庭ですら出してもらえることなかったから、そういうことはしたことないんだよね」
 「そうなんだ」
 つくしは、なんと言っていいのかわからなかった。
 フランスでは共働きの夫婦も珍しくなかったから、母親が仕事で多忙だというのも奇妙なことではないが、それでも子育てを優先して、パートタイムに切り替えて子供との時間を大切にする母親も少なくない。
 そういう意味では、杏樹の母親は本当に多忙だったのだろう。
 …おうちの庭ですら出してもらえなかったって、よほどお母さんが過保護だったのかな?
 「私の名前‘つくし’って、スギナ、……この草の子供なんだよね」
 「え?そうなんだ、へぇ~」
 改めて手の中の雑草をマジマジと見て、杏樹が感心している。
 ツクシとスギナが同じ植物であることを知らない人は、案外、日本人でも多そうだ。
 …ホント、私の名前って雑草そのものなんだよね。
 子供につけるにしては素朴にすぎる名前だと、思わず苦笑してしまう。
 けれど、自分には合ってると、親のつけたこの名前をつくしはけっして嫌いではなかった。
 「日本へは、お母さんのお仕事の都合で?」
 パンパンとついていたズボンの膝の汚れを叩き落とし、杏樹が立ち上がった。
 「ううん。日本には、ママンの生まれた家―――お祖父さんやお祖母さんの家があるんだ」
 「ああ」
 「とか言っても、俺はその家には一度も行ったことがないんだけどね」
 「……………え?」
 意外な言葉に聞き返すが、杏樹は肩を竦めただけで話を流してしまう。
 つくしもそれ以上は、他人の事情に突っ込むことができずに口を噤んだ。
 「ママンの仕事とか病気のこともあって、前までは何度かママンが一人で日本に来てたんだけさ。……今回はちょっと長く入院することになるかもしれないからって、俺もフランスから一緒について来たんだ。でも、まさか、本当にそうなっちゃうとは思わなかったんだけどね」
 「……そう」
 なんとはなしに歩き出した杏樹の横をつくしも一緒に歩く。
 戒同様、実年齢よりもずっと大人びた子だ。
 たぶんそれは、外国育ちとか、日本人離れした見かけだけの問題ではなかっただろう。
 「フランスに帰りたい?」
 「俺?」
 「そう」
 つくしの問いに、杏樹がわずかに視線を落とす。
 彼の横顔は、どこか年齢に見合わぬ孤独の影が濃いようにつくしには思えた。
 「ん~、俺、あんまり日本人は好きじゃない」
 「…そっかぁ」
 「けど、日本は好き」
 「そうなの?」
 「うん。こうやって一人で好きなところに行けるところとか、桜や街とかも好きかな」
 返ってきた返事は、フランスに帰りたいかというつくしの問いかけに対するものではなかったけれど、それでも彼が日本を嫌っているわけではないらしいことは、つくしもなんとなく嬉しかった。
 「それに、こっちに来てから、ママンとたくさん一緒にいれるし」
 「杏樹」
 俯き加減に杏樹がはにかんで、小さな微笑みを浮かべた。
 幸せそうなのに、やはり寂しげなのはどうしてなのだろう。
 「本当に、ママが好きなのね」
 言わずもがなことだったが、杏樹を見ていると彼の母親への愛情と思慕が強く伝わって、気が付けば思わずそう呟いていた。
 「もちろん!ふふ、俺のママンって、すごい美人なんだよ」
 「ふぅん。わかるわぁ」
 全然意外じゃない。
 杏樹の容姿は生身の人間であることが信じられないくらいに美しく、彼の将来を嘱望するだけでなく、その両親の美貌もまた容易に偲ばれた。
 …お父さんも、お母さんも、本当に綺麗な人なんだろうなぁ。
 しかし、ハタッと気がついた。
 つくし自身が、ごくごく平凡な容姿の母親から、超絶美形の息子を生んだ実証例だ。
 「……戒みたいな例もあるよねぇ」
 「え?」
 「あ、なんでもない、こっちのこと。き、気にしないで?」
 またも独り言を呟いてしまっていたらしい。
 慌てて訂正するが、杏樹としてはどうでもよい質問だったようで、こだわることなく頷いてあっさりと流してくれた。
 「ママンはさ、綺麗でなんでもできるんだ。優しいし、……ママンより素敵な女の人なんか絶対どこにもいないよ」
 「そう」
 子供が母親を誇りに思うのは微笑ましいことなのに、………切なくホロ苦い。
 「やっぱ、日本に来たことは良かったことなのかも。日本に帰れて、ママンも嬉しそうだしね。それに、もう少ししたらたぶん病院も退院できるんだ」
 「え?そうなんだ?」
 「うん。完全に病気が治ったわけじゃないから、仕事には復帰できないけど、自宅療養に変わるんだって」
 「そっかぁ。良かったね、杏樹」
 つくしの祝いの言葉に、杏樹が満面の笑みを浮かべる。
 今度は影のない、真実、混じりっ気なく嬉しそうな明るい笑顔。
 「ありがとう!そうしたら、ここへもママンと一緒に散歩できると思うから、今度つくしさんにも、ママンを紹介するよ」
 「うん、よろしくね」
 少年の母親がどんな病気かは聞いてはいなかったが、それでも子供にとって、母親の病気や不在が、どれほど心の負担であるか心配なものであるのかは想像に難くなかった。
 「でもさ、俺がママンを大好きなのは当たり前だけど、つくしさんの子供だって、つくしさんのことが大好きでしょ?」
 「………そうかな」
 少なくても陽太は肯定してくれるだろう。
 けれど、戒は?
 …憶えていてくれてすら、いないかもしれない。
 いや、むしろ忘れてくれて構わなかった。
 新しい母親に馴染んで、彼女と父親である司に愛され、大切にされていてくれれば。
 …あの子が幸せなら、それでいい。
 それ以上、自分のことを突っ込まれるのを忌避して、つくしが話題を変えてしまう。
 「それにしても、日本は嫌いじゃないって言ってくれたのに、……杏樹、あんまり日本人は好きじゃないんだ?どうして?」
 「ん~日本人って、何が物珍しいんだか、すぐ俺のことジロジロ見るじゃない?」
 「あぁ」
 たぶんそうではないかとは、つくしも思っていた。
 しかし、人々が杏樹に注目するのは、悪い意味ではないはずだ。
 「なんか、珍獣かなんか見るみたいでさ。あっちでも、まったく人種差別がなかったわけじゃないけど、……やっぱりなんでだか、俺はこの国でもみんなと一緒じゃないんだ」
 「みんな杏樹が凄く可愛いし、綺麗だからついつい注目しちゃうんだと思う」
 「……そ?」
 「悪意があるわけじゃないよ」
 「そうかもしれないけど」
 杏樹の顔は、つくしの言い分にも憮然としていて、少しも納得したようではなかった。
 だが、それも仕方のないことかもしれない。
 以前に杏樹と出逢うきっかけになった病院で、杏樹と諍いになった中年女性ほどではなかったが、それでも通り過ぎる人々の視線や噂話が、たとえ悪意からのものではなくても、これまでこの稀な少年の心を傷つけることもあっただろう。
 異端であること、……他者から特別視されることは、たとえ排斥ではなくても、それだけで孤独と寂寥を生むものなのだ。
 かつて、一般庶民の出でありながら、異世界にも等しい上流社会に紛れ込んでしまったつくしのように。
 あるいは、本来その両極端の世界の人間である司とつくしの間に生まれてしまったゆえに、そのどちらの世界にも溶け込むことができず、幼いながらにその苦悩を背負わざるえなかった戒のように。
 …たぶん、学校でもなのかな?
 「でも、つくしさんのことは、俺、けっこう好きだよ?」
 「え?本当?」
 にっこりと微笑んでくれる顔には、社交辞令やウソはなかった。
 「ん~、つくしさんって、なんか面白いから」
 「は?なによ、それ?」
 「オーバーアクションが可愛いっていうかさ?一々、俺みたいな子供の言うことも間に受けて、百面相したり悩んだり、……いっとう最初に会った時は、下手したらリセ※2の学生くらいかと思ってたら、オバさんだとか言うし。そうかと思えばさ、自分でオバさんだって言ったくせに、いざそう呼んだらすげぇイヤな顔したり、つくしさんってなんだか、びっくり箱みたいな人だよね?」




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※1 ヌヌー…フランスにおけるいわゆる乳母。フランスでは出産後に仕事を続ける女性が大半で、育児休暇も長くはとらない、日本より世帯の独立性が高いため祖父母が子供を預からない、保育園が少ない等の理由でこうした専属の職種がある。ベビーシッターと言えば夜間や休日に学生がアルバイト的にこなすことが多いが、ヌヌーは平日昼間に子どもを預かる人。


※2 リセ…高校。

※3 ペール…お父さんの丁寧な言い方。お父様かな?お父さんは、パパだそうです。

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>みみこ様

こんにちは。
いつも応援ありがとうございますm_ _m


ご指摘の記事ですが、ミス投稿で、一昨日の記事を元記事にしていて、本文を修正し忘れていました。
修正いたしましたので、よろしければ再度、読んで頂ければ嬉しいです。
ありがとうございました^^!

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>こんこん様

初めまして、こんにちは^^
いつも応援ありがとうございますm_ _m


リンク集について―――

すみません、なくなったわけではなかったのですが、スマホ版のトップページに作っていたボタンは、もともとのテンプレートにあったものではなく、自作ボタンでして。
ちょっと不具合が出て、そのまま設置できなくなってしまったため、デフォルトの『お知らせ♪』ボタンの方に統合しました。
少々使いづらくなってしまったかとは思いますが、各記事ページにも合わせてリンクを貼りましたので、それでお許し願いたく。

これからもどうぞ、花男サイト巡りを楽しんでくださいませ^^♪

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