「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0737

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 戒の体を床に沈め、馬乗りに体重を乗せるようにして司が片腕で戒の首を締め上げ、今度こそ完全に羽交い締めに押さえ込む。
 …勝負あったな。
 戒もとっさに受身を取ったようで、大したダメージはなさそうだが、どちらにせよ、先ほど吹っ飛ばされた衝撃でフラついていたくらいだ。
 これ以上、抵抗しようもないだろう。
 とりあえず致命的な怪我を戒に負わせずにすんで、司も内心でホッと胸を撫で下ろした。
 それでも、戒の手のひらから転がり落ちた陶器の破片に、暗澹ある気持ちがこみ上げる。
 もちろん戒に、司への殺意があったとまでは思わない。
 カッと頭に血が昇った際に、手近にあった武器に手を伸ばしてしまった。
 ーーーただそれだけなのは、わかっていたけれど。
 「お前の負けだ」
 「……ブッ」
 宣言した途端、吐きかけられた唾がべっとりと司の頬を汚す。
 スッと目を細め、司は戒の首を押さえ込んでいた腕の力を緩めて、彼の襟首を掴み引き上げた。
 そして―――、
 バシ――ィッ。
 拳を手のひらに変え、戒の頬を張った。
 「調子に乗りすぎだ。……立て!」
 最後の虚勢だったのだろう。
 さすがにそれ以上の反抗をする気配もなく、司が体の上から退いても戒は暴れ出さなかった。
 しかし、頬に手をあてたままノロノロと起き上がった戒の頭は、グラグラと揺れ動き定まらない。
 「……チッ、脳震盪か?」
 どうやら置物に激突した際、頭を打ったせいで脳震盪を起こしかけていたらしい。
 手加減していたとは言え、司に頬を張られたことで、よけいにそれが悪化したのだろう。
 ひとまず派手な親子ゲンカは収まったと見て取り、成り行きを見守っていた使用人やSPたちに混じって、滋が彼らの元へと駆け寄ってくる。
 「大丈夫?」
 滋はフラフラしている戒の体を支え、自分へと寄りかからせた。
 「あんまり頭、動かしちゃダメだよ?たぶん脳震盪を起こしてるんだろうと思うから。ああ~あ〜、綺麗な顔に真っ赤な紅葉がべっとりついちゃってぇ。……って、口も切ったの!?もうっ!頭は危険だから、一応、お医者様に見てもらおうよね?!」
 戒の青い顔や頬についた赤い手形や、血の滲んだ唇の傷に、司の胸に強い罪悪感がこみ上げる。
 …とうとう手を挙げちまったな。
 一触即発な事態はこれまでも何度となくあった。
 それでも司は、かろうじて戒を殴ったことや、体罰を加えたことはなかったのだ。
 気持ちが落ち着いてくると共に、舌の傷や蹴られた脛の痛みが耐え難くぶり返す。
 両手で顔を覆って項垂れる戒の、いつもよりも一回り小さくより幼く見える姿から、眉根を寄せ司は視線を反らせた。
 「お前はまだガキだ」
 「……………」
 「お前自身の認識や、お前を大人のように持ち上げる連中の評価はどうあれ、12才という年齢はどう大目に見ても、まだまだ分別がついているとは言い難い」
 半ば滋に寄りかかってしまっているが、意識がなくなっているわけではないだろう。
 だが、ウンともスンとも答えない戒の手にひらに隠れた横顔は、完全に司を拒絶していた。
 しかし、彼が聞いていないわけではない証拠に、司が何か言うたびに手の指の間から覗く震える唇が、反論にかわずかに開いては閉じて、唇を噛み締める。
 「時を待て」
 「……………」
 「司」
 「お前が執着している女が、本当にお前にとって運命の女なら、お前がいずれ俺の庇護下から出て、お前自身が力を持った時、あるいはそれから後にでも、また始めることだってできるはずだろ?」
 自分でも信じていないことを平然と吐く自分が、司はなんともおかしく、……軽蔑したくなってくる。
 そして、司自身ですらそう思ったのだ。
 子供とはいえ、聡明な戒が彼の言う欺瞞に気づかないはずがない。
 けれど、司としてはそうと言うより他に、言えるべき言葉がなかったのだ。
 ジーナが司に接触を試み、どんな理由があろうとも、戒との関係よりも他の誰かの安寧を司に願い出たその時から。
 「くっくくく、また始める?」
 「ああ、そうだ。……相手はどうであれ、お前さえ気持ちを変えなければ何も終わらない」
 「終わらない、ね。始まってもいなかったのに、終わらないも何もないし、また始めるとか笑えるよ」
 「………………」
 「あ、ちょっと、戒君っ?!」
 まだ脳震盪は、収まってはいないのだろう。
 フラフラと立ち上がる戒を、滋が慌てて支えようとするが、今度はその手を受け入れることなく押しやった。
 「もう少し休んでなよ?移動したいなら、SPの誰かに抱っこしてもらえばいいし、おんぶの方がいいかな?あ、それとも担架にする?」
 滋の抱っこやおんぶのセリフに戒が顔を引き攣らせる。
 否定的な戒の表情を見てとって、滋も次々に提案を変えるが、それらを受け入れることなく、戒は廊下の壁伝いに体を支え、司や滋に背を向けた。
 「部屋帰るよ、一人で平気」
 「ええ~でもさぁ?主治医の先生呼んでもらったから、一応それまでは一人でいない方がいいんじゃないの?頭を打ってるんだもん。急に吐いたり、意識なくなっちゃったりすることがあるかもしれないし」
 心配する滋を手のひとふりでいなして、戒が歩き出す。
 「戒、母親のことはもういいのか?」
 「………………」
 おそらく無視をするつもりではいただろう。
 しかし、やはり無視しきることができなかったのか、戒がぴくりと肩先を揺らし、振り向かないまま立ち止まった。
 「女を捜すのに、ダチの親のツテで調査会社を使ったんだろう?……なのに、女のことは調べさせたのに、あれほど捜し回っていた母親のことは調べなかったそうだな?」
 司は戒が使った調査会社や、その大元の友人、友人の保護者、そして、その他諸々、戒が三日間の家出の間に辿った軌跡や手段も、もはやほぼ完全に把握していた。
 司が隠したい、表沙汰にしないために隠蔽したことまでは調べられなかったようだが、戒が使った調査会社の人間は中々に優秀だったらしく、短期間の調査だったわりには、ジーナの行方から家族の進退に至るまで、それなりによく調べていた。
 …こいつがその気なら、つくしの行方くらいは簡単に調べられたはずだ。
 かつてならばともかくとして、いまや司はつくしに関わっていない。
 当然、彼女の行方を隠蔽するどころか、今、彼女がどこにいるのかさえ正確には知らなかったから、隠しようもなかった。
 戒がそうしようと思ったのなら、もはや彼が自分の生みの母親に会うことを、司は阻止するつもりはなかった。
 たとえ彼女からどんな真実が飛び出すにせよ、彼女があえて戒を傷つけるはずもない。
 そして、つくしにはいまや類という庇護者がいるのだ。
 たいていのことからは、類が彼女を守ることだろう。
 ―――もう、俺は必要ない。




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