「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0736

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 …勝てるわけがない。
 そんなことは最初からわかっていた。
 しかし、沸騰した頭は焼け爛れたような痛みと熱を全身に伝え、戒には怒りを収める方法が他に思い当たらなかったのだ。
 いつも結局は、父の威厳と威圧に萎縮し、反抗しきれず、その鬱憤を堪えることしかできないでいたというのに、自暴自棄にも似た凶暴な何かが湧き上がり、気が付けば無謀な行動に突き進んでいた。
 そして、今、情けなくもこうして無様に地に這い蹲っている。
 まるで鏡面のように傷一つない大理石の床に映った自分の顔は、いかにも負け犬の悲哀と屈辱を浮かべ、卑屈な敗北感をあらわにしていた。
 …俺はっ。
 この数日間、ずっと考えていた。
 たった一つのことだけを。
 「ちょっと!やりすぎよっ」
 固唾を飲んで成り行きを見守っていたはずの滋の声が、思わぬほど間近に聞こえ、戒が眉根を寄せる。
 しかし、すぐにSPが滋を取り押さえ、戒に近づくのを妨げた。
 「ダメです、若奥様。近づいては…険です。……は、犬…喧嘩…同…で……ら、…………」
 周囲の声や物音が耳障りなノイズのように、戒の耳に次第に不明瞭になってゆく。
 ブルブルと震えるその手に、彼がソレを掴んだのは意識してのことではなかった。
 もしかしたら、本当はただこのまま負け犬のまま、自分からすべてを奪いながら、彼のすべてを支配する父親に一矢報いたい、……ただそれだけだったのかもしれない。
 手に握り締めていた陶器の破片を、利き手に持ち替える。
 …どうせ、アイツに俺は敵わない。
 それでも。
 握った際に、自分で自分を傷つけてしまっていたのか。
 先ほどまで破片を握っていた手のひらについた細い線から、じんわりと赤い血が滲み出す。
 痛みを感じてもおかしくはないはずなのに、なぜか感覚はボンヤリとし、痛みさえもがどこか間遠かった。
 いつもそうだ。
 叫び出したい何かがあるのに、なぜかその衝動は、いつもどこか鈍く凝っていて、まるで現実味がない。
 様々な感情が、言葉になる前にどこかへと消えてしまう。
 最後に心と感情が一致していたのは、いったいいつのことだっただろう。
 笑いたい時に笑い、泣きたい時に泣いて、怒りたい時に怒っていたのは?
 戒は哀しいのになんでもないフリをするのに疲れていた。
 怒りたいのに怒るのではなく、皮肉に笑む自分に疲れ果てていたのに、それなのにそれを辞める手段が、彼にはもはやわからないのだ。
 …どうして、なぜ、なんでなんだ?
 いつだって、聞きたかった。
 父に、母に、そして、―――そこにいる誰かに。
 お前は誰よりも大切な息子だと言って、愛しているフリをする父親が、なぜいつも自分から大切な人たちを奪うのか。
 …どうして俺のことを愛してるはずなのに、お父さんは俺を一人ぼっちにするの?
 …どうしてお父さんは俺が一番大事だと言うくせに、いつも仕事ばかりで、お父さんの傍にいるのは俺じゃない人ばかりなの?
 …どうして大好きだったはずのお母さんを追い出したの?
 …どうしてお母さんは、俺を捨てて行ったの?
 …俺がお父さんの子だから、………大嫌いだったお父さんの子供だから、だから本当は俺を嫌ってたんだろうか?
 どうして?どうして?どうしてなんだよっ!?
 たくさんのどうしてが、いつも彼を悩ませ苦しませ続けてきた。
 そして、そのどうして、が、やがてはまた多くの別の疑問を生み出し、誰も彼の疑問に答えてはくれなかったから、自身で答えを探すしかなかったのだ。
 探し出した答えはいつも、彼を傷つけ、絶望をしか生んではくれなかったけれど。
 …お母さんは本当は俺を嫌ってた。だから俺を捨てたんだ。
 …俺は生まれて来ない方が良かったんだ。
 …お父さんに俺は必要ない。俺を必要な人なんてどこにもいないんだ。
 それならば、自分はいったいどこへ行けばいいというのか。
 誰も自分を必要としてくれないのなら、それどころか疎まれるばかりならば、自分が必要とする誰かの傍にいたい。
 たとえ彼女が―――ジーナが自分を必要としてくれなくても、自分が彼女を必要としているのだから、それでいい。
 そう思っていたのに。
 それなのに、彼女は戒をいとも簡単に捨て去った。
 彼自身の母・つくしのように。
 現在の彼ではなく、未来の彼を否定して。
 …過去の俺も、現在の俺も、未来の俺さえも、すべての俺が誰にとっても不必要な存在なら、俺はじゃあ、なぜここにいるんだ?いなければならないんだろう。
 ―――甘ったれのお坊ちゃま。自分だけが不幸とか思わないで。
 不幸なんじゃない。
 幸せになりたいわけでもなかった。
 そもそも彼には、不幸や幸せの定義がわからなかった。
 ただ、ただ、自分がここにいる意味が欲しい。
 いてもいいという理由が欲しい、それだけだったのだ。
 自分が‘道明寺戒’という、誰にとっても、ただの記号や称号のような存在なのではなく、たしかにここに存在する人間なのだと実感することができれば。
 「……じゃないと俺は、生きているのか死んでいるのかさえ、自分でもわからないんだっ」
 よろめきながら足を踏み出し、震える手の中の破片を構えて、父へと真っ直ぐに突き進む。
 「うあああああぁっ!」
 破片を握り締めた戒の拳が司へと到達する寸前、司が彼の手首を脇で挟んで攻撃を受け止め、その勢いのまま、戒の胸ぐらを掴んで背負い投げで床へと叩きつけた。
 ズダァッ―――ン!!
 「……うっ」




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