「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0735

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 司の物言いは非難というよりは、むしろ感心すらしているようだ。
 一方、何も答えない戒の顔は、緊張とわずかな動揺に顔を青ざめていた。
 しかし、その表情には少しの後悔も見えない。
 そもそも汚い闘い方も何も、これだけ身長やウェイト差がある相手に勝とうと思ったら、まともなやり方で勝てるはずがない。
 ましてや、司は戒同様、子供の頃より数々の格闘技を叩き込まれている。
 また、若き日には喧嘩に明け暮れ、並みの同年代の男性と比べるべくもないほどの身体能力と、体力の持ち主なのだ。
 戒が不意打ちを躱されてた時点で、すでに勝敗は決まったようなものだった。
 それでも悔しさに唇を噛み締め、自分の父親を睨みつける戒の闘志と殺気は、先ほどとほとんど変わっていない。
 そんな息子の憎悪にギラギラと光る眼光を受け止め、司が小さく息をついて立ちあがる。
 それでも立ち上がる際に、戒に爪先蹴りを加えられた脛を押さえて顔を顰め、痛めた方の足に体重をかけないようにか、もう片方の足を軸にやや片足立ちの状態で立った。
 途端、
 「やあっ!」
 戒が鋭いかけ声と同時に、司へと殴りかかってくる。
 「坊ちゃんっ!!」
 「手を出すなっ!」
 慌てて司と戒の間に割り入ろうとしたSPを、司が怒鳴って制止する。
 親子の問題だ。
 他人に決着をつけさせるわけにはいかない。
 父親としての責任と、意地とプライド。
 いくら格闘技を仕込まれているとはいえ、まだまだ華奢で体格的に劣る戒は、不意打ちでもなければ司の敵ではない。
 右に左にと空を切る戒の拳を小さな動きで躱して、パワーではなく戒自身の勢いを利用し、たたらを踏ませては突き飛ばすことを繰り返して疲労させ、隙をついてなんとか戒を背後から羽交い締めにすることに成功した。
 「はぁはぁはぁはぁ、はぁはぁ………はぁっ」
 「……ふ~っ」
 ホンの短時間の格闘で激しく息を荒がせ、かなり消耗している戒とは裏腹に、司の方はわずかに肩を喘がせている程度、一見しては大して体力を消耗しているようには傍目に見えない。
 しかし、それも大半は見栄で余裕ありげな風を装ってはいたが、内心では戒の若さと力に舌を巻いていた。
 …さすがに寄る年波ってヤツだな。
 年をとったつもりはなかった。
 自分的にはほとんど動いていないにも関わらず、やはり若い日のように、疲れ知らずというわけにはいかないようだ。
 とにかく戒は動きが早い上に、若い分回復が早い。
 しかも見た目の細さとは裏腹に、腕力もあり、身軽な分、司からしても戒は手強かった。
 もちろん、完全に再起不能になるように沈めてしまうつもりなら、まだ司との間にかなりの実力差があり、倒してしまうことはできる。
 だが、戒にシャレにならないような怪我を負わせるつもりもなかったから、司は戒に致命傷を負わせず収めることに難儀していた。
 …しかもコイツ、まだ年端もいかねぇガキのくせに、なにげに喧嘩慣れしてて、かなりヤリ口汚ねぇしな。
 蛙の子は蛙というべきか。
 喧嘩に正々堂々も卑怯もないというのは、司も同意見だったが。
 闘うなら勝たなければ意味がない。
 戒が自分に勝てると大真面目に思っているとも思えないが、それでも一矢報いたい思いでの決死の覚悟ではあるのだろう。
 そうでなければ、父親に対して、いきなり不意打ちでの蹴りなど放てまい。
 どれだけ内心で反抗していようと、戒は父親である司を恐れてもいたのだから。
 だこらこそ、今現在、戒は司に羽交い締めされ、一見手も足も出ないかのように振舞っているが、それもどこまで本当かわかりはしないと、司は内心で疑っていた。
 「もう、しまいか?」
 ニヤリと嘲笑って、あえて挑発する司をギッと睨んでくるその顔が、あまりに自分に似ていて苦笑させられる。
 と、いきなりグニャリと戒の体の力が抜けて、倒れ掛かったのを抱え直そうと俯き加減になったところへ、案の定、項垂れ加減に下がった頭が急に伸び上がって、頭突きを顎に向かって繰り出される。
 怯んだ隙に、戒が司の拘束からの脱出を試みるのを、咄嗟に胸ぐらを掴んで引き寄せ、逆手に突き放した。
 「……っ!」
 突き放された反動で吹っ飛ばされた戒が、廊下の置物に頭からモロに突っ込み、もんどり打って倒れ込んだ。
 グァッシャアァ―――ンッ!
 「「「キャアアアア―――ッ!!」」」
 戒ではなく、周囲から甲高い悲鳴が上がる。
 いまやSPたちや滋ばかりではなく、邸内の近場で立ち働いていた使用人たちまでも玄関ホールに集まって、格闘し合う親子二人を遠巻きに取り巻き、その勝敗の行方を固唾を飲んで見守っていた。
 戒の攻撃を見切ったつもりの司だったが、どうやら完全には避けきれず、かすかに掠って舌を噛んでしまったらしい。
 口を押さえて呻き、口内に広がった生臭い鉄の味に、磨きこまれた大理石の床へと赤い唾をペッと吐き出した。
 「ふっ」
 なぜか唐突に嗤いが溢れた。
 …こいつは俺の息子だ。
 ふいに湧き上がった荒々しいまでの想い。
 いまさらながらの悟りとでもいうべきか。
 さんざん司に似ていると言われ、かつて戒の母親であるつくしでさえも、戒の性質と激しさを司に重ね合わせて、息子の将来を危惧していたことがある。
 しかし、司はそうは思っていなかった。
 見た目や表に現れているものこそ、戒は自分に近しいものがあったけれど、戒はつくしによく似ていた。
 ―――その優しさや真っ直ぐな心根が。
 すべては、彼女から受け継がれたものだと彼にはわかっていた。
 戒―――いましめ。
 司にとって、自身の分身でもある息子の名前は、自身と自身の血を受け継ぐ息子の凶暴性と‘悪’を戒めるべく名付けたものだったのだ。
 …そんな戒めなんざ、こいつにはいらなかったけどな。
 けれど、今こそ、戒の中に自身とよく似た部分を見つけ、あるいは‘神’といった存在がこの世にあったなら、感謝しても良い気がしていた。
 いや、やはり感謝するのならば、戒をこの世に生み出し、そのように生み出した……彼の最愛の女へとするべきだっただろう。
 …そうだ、憎むなら俺を憎め。
 自身への憎しみで、自身へとその憎しみの刃を向け、自分を傷つけるのではなく。
 父である司への戒の怒りと憎しみへの発露を肯定し、司は薄らとした笑みを唇に佩いた。
 それを嘲りと見たのだろう。
 頭でも打ったのか、フラフラとヨロめきながら立ち上がった戒が、能面のようだった怜悧な美貌を引き歪ませ、司への憎悪と憤りに、今度こそハッキリとした怒りの形相を浮かべた。




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