「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0733

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 何度も何度も頭を下げ、去ってゆく仲睦まじい一家の後ろ姿を見送って、つくしと類は家路についた。
 とはいえ、春祭りのあった公園は二人が住むマンションの目と鼻の先だ。
 …杏樹くん、結局来なかったのかな?
 あるいは違う時間帯に訪れたのか、予想外の人手の多さに、つくしたちが出くわさなかっただけのことかもしれない。
 「ふふふ、ミホちゃん、すごいブンブン手を振ってくれてたね」
 シャツのボタンを外して襟元を寛げ、ドサッとソファに腰を下ろした類がフ―――ッと大きく息を吐き出し、つくしへと顔を向け小さく微笑みを返す。
 スイッチを入れた電気ケトルはあっという間に沸点に達して、その湯を使い、二客のカップに紅茶を入れ、つくしはテレビを付けだした類の前と自分が座るつもりの対面側へと配膳した。
 「ありがと」
 「うん。……疲れた?」
 「かな」
 毎度のことながら、昨夜も類は午前様だった。
 午前中一杯は寝過ごしていたとはいえ、紅茶を含む類の横顔にはまだ疲労が色濃い。
 「座って?」
 「……うん」
 座ろうと思っていた対面側ではなく、差し出された手に導かれるままに類の隣へと腰を下ろす。
 テレビをつけはしたものの、彼も見る気分ではないのか、さっさとカップの紅茶を飲み干すと、類はつくしの手を握り締めたまま、ソファの背もたれに深くこしかけ直し、片腕を目の上に掲げて目を瞑ってしまう。
 「大丈夫?もう今夜は寝ちゃったら?」
 「…………うん」
 「類?」
 「もうちょっとだけ、このまま」
 再度促して、せめて膝掛けだけでも……、と立ち上がりかけたつくしの手を引っ張って、類は彼女をソファに縫い留めてしまう。
 …珍しい。
 甘えたい…というほどでもなさそうだが、誰にだってこんな日はたしかにある。
 疲れてはいるのだろう。
 けれど、ゆったりした時間、気のおけない人と柔らかな空気に浸って、そのままでいたい……そんな気持ちなのだろうか?
 …さっさとお風呂に入って寝ちゃった方が、絶対にいいとは思うんだけどね。
 上に羽織っていたカーティガンを脱いで、膝掛けがわりに類の膝の上にかけてやる。
 そして、自分は類に手を繋がせたまま、ついているテレビを見るともなく眺めながらとりとめのない話を話し出す。
 「ああいうお祭りとか屋台とか、凄い久しぶりだったんだけどやっぱ楽しかったなぁ」
 「…………ん」
 一応は眠っていないらしく、相槌をうってくれる類に小さく微笑む。
 もちろん本人は、顔に腕をのっけたまま目を瞑っているのだから、そんな彼女の笑みには気がついてはいないだろうけれど。
 時折、ニギニギと握る手の力を強めたり弱めたり、彼女の指先を指で撫でてくれたり、彼女の話を聞いているということをアピールしてくれる……そんな彼が愛おしい。
 「私もね、うんと小さな頃、親に連れて行ってもらったお祭りで、やっぱり迷子になったこともあるらしいんだけどね」
 「……………」
 ニギニギ。
 「どちらかというと私より、ぼんやりしていた弟の方が迷子になることが多かったらしいの。昔は携帯電話もなかったし。ウチが行くお祭りなんて、今時の案内所なんかがちゃんとある大きなお祭りとかじゃなかったから、中々捜しあてられないものなのよね。弟を捜してる間は、せっかくお祭りに来たのに、ロクに屋台を見たり買ったりできなかったのが悲しくってね」
 スリスリ。
 「進が見つかった時には、親は二人共、良かった良かったって安堵して喜んでたけど、……私の方は良かったよりも、疲れちゃうしつまらなかったしで、何が良かったんだって妙に腹立たしくてね。だいたいそういう時って、ヤレヤレ良かった……ってなった後にはもう帰る時間だったりで、今度は私の方が泣きたくなって、せっかく泣き止んだ進を殴って泣かしたりとかしたなぁ…なんて、思い出しちゃった」
 「……………………、ぷっ」
 話の流れが意外だったのか、ぼんやり聞いていた類が小さく噴き出して、なんだか笑われてしまった。
 別に笑いを取ろうと思ったわけではなく、本当に取り留めなく思いつくままに話していただけなのだけれど、そうして笑っている類を見ているのが…見ていられるだけで、穏やかな幸せを感じられる。
 自分がいて、類がいて―――、そして、いつかの日にか彼との間の子供がここにいる、そんな未来が本当にあるのかもしれないと思えた。
 カタチのなかったものが、少しづつカタチになって、温かな未来を期待することができる現在に涙が滲む。
 「……………?」
 黙り込んでしまったつくしに気がついたのか、再び寝る体勢になっていた類が、不審げに顔の上に掲げた片腕をズラし、片目だけを開けて彼女を透かし見てくる。
 「ふふ」
 …まるで悪戯っ子みたい。
 「なに?」
 「………ううん」
 クスクス笑い続けるつくしをキョトンと見やって、けれど何を思ったのか、顔の上から完全に腕をどかした類が体を起こした。
 手は繋いだまま、……そんな些細なことさえも嬉しいのだから救いようがないというのは、自分のような女のことを言うのかもしれないと、よけいにおかしくなってしまう。
 …本当に私ったら、類にベタ惚れしてるよね。
 「ただね、ただ…」
 「うん?」
 「プロポーズを受けたのは、あんたが私の為にらしくない演出なんかをしてくれたから、なんて言ったけど…」
 類の肩先に頭を預け、甘えるように懐く。 
 若い頃のつくしだったら照れや意地が邪魔をして、けっしてできなかったことだったけれど、今の彼女は自分の気持ちを素直に表すことができた。
 そして、そのことの重要性をよくわかっていたから。
 「……たぶん、本当は私も類と結婚したかったのかも、って」 
 ふっと類の顔が柔和に笑み崩れて、繋いだ手を離して肩を抱き寄せてくれるのに、つくしも素直に身を任せる。
 「あんたといると、つい、笑ってる自分がいるの」
 類が彼女によく言ってくれる言葉。
 本当に一人は寂しかった。
 でも、今は、
 「……寂しくない」
 優しい視線に顔をあげれば、予想に違わず、彼女を見下ろして優しく微笑んでくれている愛しい男性がいる。
 「紙切れ一枚の繋がりが、どんな絆よりも強固な気がする時があるって、以前、俺、言ったじゃない?」
 「………うん」
 「でも、その紙切れ一枚がつくしとの永遠を約束してくれるなら、たとえ本当はどんなに薄っぺらいものだったのだとしても、………それでもいいって思うんだ。こうやって毎日を重ねて、もしかしたらやがては二人だけじゃない、それこそ昼間出会った家族のように俺がいて、つくしがいて………二人の間の子供がいて、ってそんな未来があるのかもしれない、なんてそんなことを思ったよ」
 つくしが想像した未来を、類も夢見たという。
 「たとえ…そうじゃなかったとしても、こうやっていつまでも二人でずっと歩いていけたら、笑って生きていけたら凄い最高だと思うよ」
 「……そうだね」
 類の唇が下りてくるのを、つくしもそっと目を瞑って受け止めた。



 本当に、願わくば―――今、この時が、この幸せが永遠に続きますように。




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