「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0729

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 SPたちが佇んでいる反対側の木の陰から、ジュリオが遠慮がちに歩み寄ってくる気配にも、戒は俯いたまま項垂れ、振り返ることなくただ立ち尽くしていた。
 ジーナは去っていった。
 身体的にはともかく、追い縋る彼の心さえも一顧だにすることなく……。
 「戒………」
 「…………」
 …もう、ここには用がない。
 おそらくもうこれ以上の自由を父は許してくれまい。
 たとえ抗ったところで、これまで一部始終をただ見守るだけで戒の行く手を妨げなかったSPたちも、戒を父のもとへ、……ニューヨークの屋敷へと今度こそ彼を連れ戻すことだろう。
 そして、今しばらくは再び屋敷内での軟禁生活に戻ることになる。
 だが、やがてドイツに出張中の父が戻れば、カナダかイギリスあたりの、それこそこれまでのように好き勝手はできないどこぞのパブリックスクールの寄宿舎にでも入れられ、島流しにされるに違いない。
 …それもいいかもしれない。
 別段、もはや戒にとって、それらのことはどうでもいいことだったから。
 意地になっていた気がする。
 戒にとって、NYだろうと日本だろうと、そこにこだわるべき何があるわけではない。
 かつてのように、父の傍にいたいなどと思っていた幼い日は今は遠く、そうであれば、NYの屋敷にこだわる意味合いは、もはやなかったのだ。
 黙ったまま踵を返し、立ち去ろうとする戒を、ジュリオが呼び止める。
 「戒っ!待てよっ」
 戒は肩を掴んでこようとするジュリオの手を手痛く振り払い、氷つくような冷酷な眼差しを注ぎ凍りつかせる。
 「ま、…待ってくれ、戒」
 「……………」
 「あいつが、ジーナがお前の親父の手をとったのは俺のせいなんだよっ!」
 粛然と項垂れ、頭を垂れる……普段は戒よりも頭一つ背の高い少年のつむじを、戒は無言で眺めた。
 「俺がジーナを責めたから。姉ちゃんがオヤジのことで苦しんでいた時には何もしてやれなかったくせに、俺がガッコを退学になったことを、全部姉ちゃんのせいにして責めたんだ。それであいつ責任を感じて、それでっ」
 「…………ジーナと父親のこと、お前も知ってたのか?」
 彼女が父親にとくに強く折檻を受けることが多かったことは、ジュリオも知っていたはずだ。
 かつて彼自身がそう言っていた。
 しかし、
 「いや、まさか、オヤジがジーナにそんなことをしてたなんて、知らなかった。俺も兄貴も」
 「……………」
 「でも、姉貴が…一番上の姉貴が薄々気がついてたみたいで。この前、ジーナがお前の親父に会いにいく前ーーーあいつが以前やっていた商売が原因で、学校から睨まれたことを俺が責めた時に、姉貴に教えられた。……知ったんだ」
 「お前の一番上の姉貴は、知ってたくせにっ、知ってて何もしなかったのかよ!」
 「……ウチでのオヤジの権威は絶対だった。今でこそアル中で、頭も身体もボロボロだけど、兄弟の誰もが親父に逆らうことなんてできやしなかったんだ。たぶん、当時俺が知ってたとしても、俺もなにもできなかった。…兄貴も」
 よくある話だった。
 本当に。
 体力的なものもあっただろうが、幼い頃から親への絶対服従を強いられ、親の庇護を必要としている子供が親に逆らうことは難しい。
 虐待を受けている当の子供が、親ではなく、自分自身が悪い子供だからひどい目に遭うのだ、親に折檻されるのだと思い込むことすら当たり前にあるほどに。
 たしかにそういう意味で、父親から理不尽な暴力など受けたことがなく、何不自由なく育てられた戒は、ジーナの言う通り贅沢であり、甘ったれているだけのお坊ちゃまだっただろう。
 ジーナやジュリオからすれば、よけいに。
 けれど、ジュリオはジーナのように、彼を‘甘ったれのお坊ちゃま’と揶揄することなく、ただ頭を下げ項垂れていた。
 「どっちみち…っ」
 戒が息を喘がせ、言葉を詰まらせる。
 堪えている情動がわっと噴き上げ、抑えきれなくなってしまいそうな危機感に、ぐっと拳を握り締めそれを耐える。
 「どっちみち…ジーナが言うとおり、たぶんジーナとは、ずっと一緒にはいれなかったさ」
 彼女が彼をただの小奇麗な……物語の人物に押し込め、現実に生きる男として成長するのを忌避する限り。
 彼が子供で、本当の意味では父親に逆らうことができず、司の意に従うことしかできない限り、ジーナの言うとおり、いずれ同じ結果になっただろう。
 こうした別れとは、また違うものだったかもしれないけれど。
 「……それに、お前の退学には、俺も一枚噛んでいたらしいし?」
 「え?」 
 「俺にヤられたヤツが、俺に直接意趣返しできないものだから、どうやらお前にとばっちりがいったみたいだぜ?」
 どうやらジュリオにとっては青天の霹靂だったらしい。
 目をパチクリさせ、言葉に困っているジュリオに皮肉に嗤って、今度こそ、戒はジュリオに背を向け歩きだした。
 「まあ、スポーツ特待生のくせにロクに練習にも出ずに、学校側も世間も許さないようなアルバイトに精なんか出したあげく、あっさりと尻尾を掴まれる間抜けなお前が、どう考えても一番悪いんだけどな」
 冷たい戒の言葉に、ジュリオが仕方なさそうに頷き、同意した。
 「……まったくだな」




*****




 「ふぅん、お祭りねぇ。週末までなんて、とてもじゃないけど桜はもたないよね」
 すでに昨日の雨で、公園の桜は葉桜になり始めている。
 …ホント、儚いっていうか。
 まさに桜の美しさは、この束の間だけのものであるからこそ、なおいっそう美しく見事に……愛おしいものに思えるのかもしれない。
 そんな感慨を、つくしは珍しくも覚えていた。
 別段、花見を兼ねているというわけではなかったが、どうせなら美しい桜を見ながらの出店見物といきたいところだ。
 つくしが類とこの辺に住むようになって、もうかれこれ2年以上が過ぎている。
 光陰矢の如しとはいうが、
 …なんか振り返ってみればあっという間だったなぁ。
 が、昨年は類とNYに行ったり、ただの雇用主・被雇用者という立場から彼の恋人にステップアップしたり、就職したりと生活や環境、心情が激変した。
 なんでもないようでいて、実際はかなり精神的にも余裕がなかったんだと、公園の入口の掲示板に貼られたポスターを眺めながら、あらためてしみじみと思う。
 「明後日くらいに、また雨が降るんだってさ」
 「ありゃ?」
 横合いからかかった声に振り返れば、ここ数日ですっかり顔見知りになった少年が、つくしと同様、掲示板のポスターを見上げている。
 「これって、カルナヴァル※1のお知らせ?それともイースター※2に何か催しでもあるの?」




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※1カルナヴァル…カーニバル、謝肉祭。元々はカトリックなど西方教会文化圏での節期だが、仮装パレードなどが行われていたことから、現代では単なる祝祭も意味して、日本では華やかなパレードのみを指し示している。

※2イースター…復活祭。
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