「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0728

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 「あんたは、まだ11才…もう誕生日だっけ、それでもまだ12才じゃない」
 ーーーぜんぜん大人じゃない。
 そう言いたいのだろう、彼女は。
 「それにあたしもまだ、17才」
 ジーナの声は震えていた。
 小さく震える彼女の目元は涙で滲んでいた。
 俯いたまま、彼女の顔さえ見ようとしない戒には、彼女の表情など知りようもなかったことだけれど。
 …ジーナの笑顔が見たい。
 かつての戒の願い。
 いや、今もそう願っている。
 彼よりもずっと年上なのに、弾けるような明るい笑顔でキャラキャラと些細なことで喜ぶんでくれる彼女の明るい笑顔が、戒は今、無性に見たかった。
 「戒………あたしね、売春、してたの。わかる?」
 ジーナが問いかけた問は、そのままの意味ーーー年少の彼が理解しているか、という問いかけ。
 もちろん、戒にその意味がわからないはずもない。
 また、彼女がたとえ自ら告白しなかったとしても、知らない事実ではなかった。
 「知ってたんだ」
 そして、戒のその態度に、彼もまた知っていたことがジーナにも伝わったのだろう。
 しかし、動揺することはなく、鼻で嗤った。
 「そう。でも、あんたの年齢じゃあ、……それがどういうものか、知識では知ってても、実際のところどんなものなのかまだわからないよね」
 ーーーガキ扱いするな。
 バカにするな、と言うこともできた。
 けれど、ジーナの虚ろな目と声音に宿る軋るような苦痛が、そんな彼のささやかな矜持を押し止め、反論することを控えさせる。
 「サイテーだった。どうせ、一度ヤられたら、二度だって三度だって同じ。アイツにヤられるくらいなら、自分のために自分を売ろう、そう思い決めて家を出て始めたことだったのに、……全然平気じゃなかった。…いつも苦しかった、怖かった。辛くて辛くて、それでも生きるためには必死だった」
 ジーナの話の中にたびたび出てきた‘アイツ’。
 彼には自分の父親をアイツ呼ばわりするなと言いながら、ジーナ自身は自分の父親を父とは呼ばずに‘アイツ’と呼び続けた。
 「アイツって、ジーナの父親?」
 「そうよ。サイテーでしょ?あんたには想像できないわよね。自分の娘を犯す父親がいることなんて」
 そのとおりだった。
 けれど、アメリカに限らず、日本でも近年やっと認識されつつある児童虐待の一つで、被害報告件数の全体を見れば、約7万件中2パーセント程度だが、これを数字にすれば1400件ほどの事例があり、実際にはこの数値の十倍以上の被害があるとさえ言われている。
 そして、その加害者のほとんどはーーー父親。
 母親の再婚相手や情夫のみならず、実父からの被害も珍しくない。
 「暴力を奮う男なんて大っ嫌いっ!アイツがママの名前を呼びながら、あたしの上でオナってる間中ずっと震えてた。お酒が切れて謝ってきたけど、それがなに?あたしがどれだけ怖かったか、……痛かったかわかる?男なんてみんな同じ」
 「………………」
 「あたしを買う男たちがそれを教えてくれた。あいつらにとって、あたしは人間じゃなかった。ただ自分の欲望を晴らすためだけの道具なの、人間じゃないの。あたしの父親だけは、あたしのことを愛してるなんて言ってたけど、バッカみたい」
 「……マッシオは?」
 そして、自分は?
 彼女にとってのマッシオの存在はともかくとして、彼女が自分に抱いていたものを戒はわかっている気がした。
 彼が‘男’でなかったからこそ、ジーナは戒を受け入れていたのだ。
 どこまでも彼が子供だったからこそ、子供ではいたくなかった彼を誰よりも‘子供’という型枠に嵌めて、それこそ日頃から『あたしの王子様』と言っていたそのままに、美しいばかりの幻想を重ねていたのだろう。
 幻想はけっして、彼女を傷つけはしないから。
 「マッシオだけはあたしを殴らなかったし、痛めつけなかった。……あたしがイヤだということをしなかったの」
 涙ぐんだジーナがスンと鼻を鳴らす。
 けれど、その顔に浮かぶ悲しそうな…辛そうな表情が、そのマッシオさえも、彼女の安らぎや心の支えにはなり得なかった……少なくても、なり続けることできなかったのだと告げていた。
 「でも、たぶんマッシオも同じ、ね。優しかったあの人も、クスリが切れて、別人みたいになった。お酒にヤられたアイツみたいに。たぶん、いずれマッシオも、あたしのことを殴るようになったでしょうね」
 「……………」
 ジーナは誰も信じていなかった。
 戒以上に。
 痛めつけられ傷つけられた人間は、懐疑心が強くなるばかりで、他人を信じることができないものなのか。
 「あんたはまだ12才。でも、あんたもやがては大人の男になる」
 「………………」
 「大人の男になって、あたしを殴って痛めつけるの。欲望のままにただの道具か玩具にして、やがては結局飽きてあたしを捨てるのよ」
 「…ジーナ」
 戒には違うとも、そうかもしれないとも言えなかった。
 自分の今彼女へと抱いている感情に名前さえもつけることができない、できないのにただ彼女のもとへと来ずにはいられなかった彼には。
 ジーナが戒へと微笑む。
 引き歪んだ……彼女らしくない不細工な顔で。
 そんな顔さえも、戒はけっして嫌いではなかったけれど、それでもそんな顔をさせてしまう自分の無力が、彼女の問いになにも答えることができない自分が、戒は辛かった。
 「どうせ、ずっとなんて一緒にはいられないの。わかるのよ。だから、あたしはあんたを捨てた。あんたのパパが、あたしとあたしの家族に、今とはまったく違う未来と人生をくれるというから、だから、あたしはあんたがあたしを捨てる前に、あたしがあんたを捨てて、新しい自分の未来と人生をとることにしたの。ただそれだけよ」
 「それでもっ、それでも俺はジーナのことが好きだったんだ」
 戒にももう、そう同じ言葉を繰り返すことしかできない。
 たとえ彼女にとっての自分がその程度、他の何かに変えられる程度のものだったとしても、彼女と一緒にいたかった。
 だが、自分の言葉がすでにもう過去形になってしまっていることに、戒自身が一番驚いていた。
 けっして、今も彼女を嫌いになったわけではないというのに、今も彼女が微笑みかけてくれるのなら、それだけですべてを見なかったこと、聞かなかったことにして、彼女の傍らにいることができるのに、と。
 ―――しかし、彼女はけっして、それを望んではくれていなかった。
 未来の彼を恐れて、現在の彼を信じてなかったから。
 「本当に、好きだったんだ」
 呟く声音は、自分でも嫌になるほど弱々しくて…情けなくて、けれど、今の彼にはその言葉以外にジーナに言える言葉がなかった。
 「……………帰りなさい」
 ジーナが戒へと背中を向ける。
 「あんたの世界に。あんたのパパの庇護の下に」
 「ジーナ」
 「バイバイ、甘ったれのお坊ちゃま。自分だけが不幸だとか思わないで。贅沢だよ。あんたには、………あんな父親がいてくれるくせに、さ」




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