「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0725

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 人ごみの中で、戒が彼らに気がついたのは、バスを降りてわりとすぐのことだった。
 あらかじめ検索しておいた24時間営業のダイナー※で夜を明かし、辿りついたフィラデルフィア。
 寝不足の頭が頭痛を訴え、仮眠をするのに選んだチープなスチール椅子に長時間座っていた体がギシギシと痛い。
 …こんなことなら、教会に泊まるんだったか。
 とはいえ、教会の神父や牧師が、どう見てもハイティーンにすら見えないだろう未成年の彼を、宿泊させて警察に通報しないとも思えなかったから、最初から選ばなかった選択肢ではある。
 もちろんダイナーでも、彼の存在は異彩を放ってはいただろうし、あきらかに店の人間ばかりではなく、通り縋る人間たちもジロジロと不審げに彼を見てはいたが、あらかじめ店の店主にチップを握らせ媚を売っておいた効果と、よけいなことに関わりあいたくないという人間心理の賜物でなんとかここまで来た。
 そう何日も続けられることではないということは、戒も最初から承知している。
 かなり念入りに検索を重ね、選んだ夜間営業のレストランでの夜明かしにしても、最初はかなり内心ではドキドキとしていて、親切心を持ち合わせた余計なお世話の客たちに話しかけられる度、ガラの悪い連中に注目される度に緊張の連続だった。
 本当の意味で一人でいること。
 SPの同伴すらない状態で出歩くことは、戒には初めての経験だったから。
 だからある意味、父から派遣されたのだろうSPの存在に気がついた時に沸き起こった激しい失望と―――真逆の安心感に落胆した。
 …俺はガキなんだ。
 腹立たしいまでの自覚は、彼にとっては今更過ぎて真新しいものではなかったけれど。
 そして、すぐに彼を捕縛しようとはしないSPたちの行動が、父の意図を彼に悟らせた。
 どちらにせよ、
 …この逃避行はもうすぐ終わる。
 おそらく、……いや、SPの姿を見る前からある程度予測し、そして、SPたちの姿を発見したことで、いまや確信となっている一つのこと。
 ジーナや彼女の家族が、NYからーーー戒の元から去ったことには、やはり司が関わっていたのだ。
 その目的はもちろん、ジーナから彼を引き離すことであり、その理由にも察しがついていた。
 また、そうしていながら、SPたちが戒を発見しても、即座に彼をNYに連れ戻さない意図も。
 なにがあったとしても、たとえ彼が一時的に父の屋敷から脱走を果たし、父の意思に逆らおうとも、彼はまだ未成年の少年にすぎず、結局は父親の庇護と管理の下へと戻らなければならない。
 戒が父の意思に逆らうことは許されないのだ。
 スマートフォンの道案内アプリで検索し、辿りついた家屋は、何度も訪れたニューヨークの古びて粗末なアパートとは異なり、質素ながらもまだ真新しく清潔だった。
 アメリカの大衆テレビドラマにでも出てきそうな、いかにも中産階級的、理想的な住まい。
 大都会とはいえ、訪れた家がある地域はわりと閑静な住宅街に位置していた。
 戒からすれば猫の額ほどの土地だが、それでも家のサイズに比して、それなりに広さのある庭は芝が生い茂り、朝の爽やかな空気に青臭さを付け加えている。
 道路から伸びた小道の行く手に立ったその一軒家を見上げ、戒は薄らとした笑みを浮かべた。
 少しも楽しさを伴わない、皮肉で自嘲的な笑みを。
 …俺は、こんなところに何をしに来たんだ。
 そんな冷静な思考が、彼の手足をそれ以上先へと進ませるのを拒んでいた。
 けれど、だからといって、何もしないままで…このまま彼女に会わないままで去ることもできずに、戒はぼんやりと立ち尽くす。
 ガチャ。
 そんな彼の目の前で、正面の玄関ドアが開いた。
 「じゃ、行ってくっから。帰り病院寄ってくるし…うん」
 聞き慣れた少年の声が戒の耳に届く。
 いまだ彼に気がつかないジュリオが、家の中にいるのだろう誰かへと頷きかけ、ドアを閉めて正面へと向き直る。 
 その視線がすぐに戒の顔を捉え、―――驚愕に変わった。
 「よう」
 「……………戒」
 ニヤリと嗤う戒の顔に、泣き笑いのような不可思議な表情で顔を歪めたジュリオが、疚しげに視線を反らす。
 しかし、そんな彼の罪悪感に付き合う義理もなければ、そんな気さえない戒が顎をしゃくって、ジュリオを誘い出す。
 視線を忙しなく彷徨わせ、だが、ジュリオにしても、もともと戒から逃げるつもりはなかったのだろう。
 小さくため息をつくと、一つ頷き戒の横に並んだ。
 「……いつ来たんだ?」
 「昨夜」
 「そうか。親は?」
 いつにない戒の疲労の色濃いうらぶれた様子に、ジュリオが怪訝に顔を顰めて、遠慮会釈なく彼をジロジロと見回してくるのに肩を竦める。
 「ドイツ」
 「ドイツぅ?……まあ、お前んちの親はいつも不在がちだっつーから、なんだけど。まさか、一人でここまで来たのか?」
 当然の質問だろう。
 ジュリオも戒が常にSPたちを引き連れていることは知っているのだから。
 戒がチラリと背後に視線を流し、ジュリオもつられたように戒のその視線の先へと目を向ける。
 戒がその存在に気がついたからだろう。
 いつものように間近に付き従ってこそいなかったが、SPたちもそれほど堅固に存在を隠してはいなかった。
 木の陰に佇む二人のダークスーツの男たちの姿に、ジュリオも納得したらしい。
 「しかし、それにしても、お前ずいぶん顔色悪いな。可愛い顔が台無しだ」
 ジュリオのいつもながらの軽口に、戒はフンと鼻を鳴らすだけで取り合わない。
 ジュリオにしてみても、そんなことでその場の空気を和ませることなどできないことは重々承知していたのに違いない。
 「俺、これから朝練なんだ。……まだ、チームに入って間もないから、そうそうサボるわけにもいかねぇし、悪いけどあんま時間ないからそこの公園でいいか?」
 「俺も別に、お前と長々長話したいわけじゃない。話すだけなら歩きながらでも十分だろ?」
 「ああ………そうだな」




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※ダイナー:北アメリカに特有のプレハブ式レストラン。ニュージャージー州では24時間営業している店もあるファミレスみたいなもの?ファースフードでも24時間営業店があるらしい。

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