「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0723

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 言わないつもりだった。
 それはあきらが桜子に言うべき告白であって、本来ならばつくしが言うべき言葉ではなかったからだ。
 けれど言わずにはいられなかった。
 「買いかぶりですよ」
 「桜子!」
 「別に卑屈になって、謙遜してるわけではありません。……ああ、すっかりお茶が切れてしまいましたね。そろそろいい時間ですし、着替えて帰りましょうか」
 すでに話に飽いたのか、時計を見た桜子が話をはぐらかそうとするのをつくしが咎めて声を荒げる。
 「話し合いなさいよ。自然消滅狙ってどうするのよ!」
 「………そういうわけでもないんですけどね。どのみち、どこかでハッキリさせないといけないことなのは、普通の恋愛とは違うところですから」
 それは桜子の方から破談を申し入れるということなのか。
 あきらが危惧していたように、彼女はあきらとの結婚を見直そうとしているのではなく、彼との婚約の解消をどうなすべきか迷っていたというのか。
 「桜…子ぉ、どうして」
 たかが、容姿。
 そう言ってやれない。
 たとえ自分にとってどうであれ、他者には他者の価値観があって、自身の価値観を他人に強要することなどできない、綺麗事だけでは解決しない多くのことが実際にはあることを、もはや潔癖で物知らずな少女時代を遠く過ぎた彼女にもわかっていたから。
 歯痒く思っているのに、第三者でしかない…彼女の元の顔さえ知らないつくしには、桜子にかけてやれるべき言葉がない。
 ただこれだけは言える。
 「あんたはその綺麗な見かけだけの女じゃない。その顔や体もあんたを構成する大事な要素だから、否定はしないよ。でも、違うでしょ?美作さんは、あんたのその顔や身体だけを見て、ただそれだけの理由であんたを選んだの?互いの家が望むものがマッチしてたから、ただそれだけで妥協したとでもあんたは言うつもり?」
 「………………」
 「違うよね?あんたは辛辣で毒舌だけど、とびきり気立てが良くて義理堅い…本当に情に厚い優しい人だって、私は知ってる」
 「…先輩」
 「もし、美作さんがあんたの表面的なものしか見ないで、あんたに惚れた腫れたって言ってるだけだと、彼に直接ブツかりもしないであくまでもあんたが言い張るのなら、それはあんたがそうだからなんじゃないの?美作さんが、美作商事の御曹司だから、美形で地位も財産もある男性だから、ただそれだけの理由で選んだ男だから、だから信じられない、そういうことでしょ?」
 桜子は怒ると思っていた。
 けれど、微笑んだ彼女の顔はいつもとなんら変わることなく美しかった。
 「そうですよ。あきらさんが美作商事の御曹司だったから、美形で地位も財産もある男性だったから、誰もが見惚れるほど素敵な人で、私を蔑んだ……人たちを見返してやれる男性だったから選んだだけです」
 「そんな」
 しかし、さすがにショックに絶句するつくしを真っ直ぐに見ることはできなかったのか、つくしから視線を反らし俯けた桜子の横顔には力がなかった。
 「先輩は、私を恨んでいらっしゃらないんですか?」
 「え?」
 突然、返された鉾先に、つくしは咄嗟に桜子が何を言いたいのかとらえることができずに、キョトンとオウム返しに言葉を返すことしかできないでいた。
 「恨んでるって、……私が、あんたを?」
 「ええ、そうです」
 「なんで、私があんたを恨むなんて」
 まさに晴天の霹靂だった。
 感謝することはあっても、彼女を恨む筋合いなどつくしにあるはずもない。
 けれど、むしろそうした反応をするつくしの方が、桜子は意外だったらしい。
 ーーーいや。
 「そうですね。先輩はそういう方でしたね。うっかり失念しておりました」
 一人得心したように首を横を振って、フーッと大きく息を吐き出した桜子は、しばし目を瞑って、髪に巻いたタオルの合間から落ちてきた前髪をかきあげると、改めてつくしを真っ直ぐに見返した。
 「先輩は、道明寺さんのことを、いまだにこだわってらっしゃいますよね?」
 「…なにを」
 「花沢さんを愛してらっしゃるのは本当でしょう。でも、そのこととはまた違う部分で、いまだに道明寺さんのことも忘れがたく思ってる」
 今度こそ目を大きく見開き、驚くつくしを見る桜子の顔は、けっして皮肉げなものではなかったけれど、それでもつくしにとっては聞き捨てならないセリフだった。
 だが、それを即座に否定できない自分をつくしも自覚している。
 「わかってらっしゃたんですね」
 自嘲して、視線を反らすつくしを見る桜子の眼差しは不思議に優しく、……そして、同時になぜか哀しげだった。
 「もしかしたら、……未練と言い換えられるのかもしれません」
 「…今は関係ないことでしょ?」
 違う…とは言えなかった。
 桜子の事情に踏み込んだのだ。
 つくしだとて言われたくないとは言えるはずもない。
 けれど、見ていないフリ、気がつかないフリをしてきた彼女にとって、それを他人に指摘されるのはこの上ない苦痛だったのだ。
 …忘れられるわけがない。
 おそらくかつてと同じ気持ちで、愛しているというのとも違っただろう。
 司に対してのつくしの想いは、一言では言い表すことは難しかった。
 そして、類もまた、無理に忘れなくてもいいと言ってくれたから、いつか時の流れに真実風化し、司に纏わるすべてをただ懐かしむことができる日を待っている、ただそれだけなのだ。
 「ずっと思っていることがあるんです」
 「……なにを?」
 「もしかしたら…もしあの時、私がお二人の間に分けいらなければ、情に絆されやすい先輩のことですから、あるいはあのままいずれは、道明寺さんを受け入れたかもしれなかったんじゃないかと」
 思わぬ言葉に、今度こそつくしは言葉を失った。
 それこそ、つくしの方が、そんなことを思ってみたこともなかったことだったからだ。
 「当時でさえ、私はそれをわかっていて、先輩を焚きつけ煽って唆したんですよ。……自分の道明寺さんへの私怨を晴らすためだけに」
 「そんな…思ったこともないことだよ。あんたが最初から、司を、……道明寺を恨んでいて、私に協力してくれていたことはわかってた。そもそもあんたは最初から、そのことを私にも隠していなかったじゃないの」
 「ええ。お人好しな先輩ですから、騙そうと思えば騙せたと思いますけど。たぶん、あの頃の状況であったなら、下手にあなたを騙すことよりも、正直に…誠実でいることこそ、もっとも先輩の信頼を得て、自分の本願を果たせる一番の方法だと思ったからです」
 友愛からではなく、私利私欲だと言い切る桜子の潔ぎよさが、こんな時だというのにつくしにわずかな愉快さを感じさせた。
 「…先輩?」
 いつの間にか笑ってしまっていたのだろう。
 けっして愉快なものではなかったけれど、かといって桜子を嘲るものでもなければ、自嘲でもない。
 ただ本当に思いもしなかった…それだけ。
 怪訝に問いかける桜子へと、つくしは首を横に振る。
 「どうしてお笑いになるんです?」
 「なんでもないよ。…たださ、あんたが思わぬことを言うから意外過ぎたかな」
 「……………」
 「あれはあんたのせいじゃない。私が選んだこと、司を傷つけて逃げる道を選んだのも、もう二度とは戻れない道だとわかっていてそうしたのも、全部私なの。私は自分で選んだことを、他人のせいになんかしたくない」
 それだけが、せめてもの…なにも持たない自分の矜持であり、自身の生きてきた道を後悔したいための縁だったのだから。
 「……先輩は偽善者ですね」
 そうかもしれない。
 いつも誰かを心配して幸せでいて欲しいと願うのも、他人のせいにして誰かを恨むことをしたくないと思うのも、きっと弱くて醜い自分を誤魔化して、それでも幸せになりたいという卑小で…身勝手な自分への、言い訳にすぎないのかもしれなかった。




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