「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0722

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 「桜子」
 「私が…私のこの顔や体が、整形で手に入れたものだということを、先輩もご存知でしたよね?」
 「え?あ…ああ。うん」
 あれはもうかれこれ7年近く前のことだったか。
 桜子と出会ったばかりの頃、彼女の友人だという女性に偶然出くわした。
 しかし、その友人だという女性は中々の人物で、当の桜子が席を立った隙に、さも楽しげに桜子の秘密―――彼女の容姿が、整形で手に入れたものだとつくしへと語ったのだ。
 もしかしたら、そこには道明寺家の若夫人であったつくしへのおもねりと、関心を得たいという意図があって、あえて他人の弱味を面白おかしく話してみせたのかもしれなかった。
 人間はけっして良いだけの生き物ではない。
 自分の言動が他人を傷つけることだとわかっていてもなお、他人のその苦しみや哀しみを、愉しんだり、一顧だにすることなく無視する手合いも珍しくなかった。
 そして、それはけっして特別な―――特出して悪辣な人間に限定してというわけではなく、大なり小なり自覚のあるなしに関わらず誰にでもある一面なのだ。
 「そのことが原因なの?」
 埋めていた手から桜子が顔を上げた時には、すでにいつもの艶然とした笑みだけを浮かべ、その苦悩を覗かせてはいなかったが、いまだ強く握り締められたままの彼女の拳の小さな震えだけが、彼女の波立つ心情を覗かせていた。
 「それも…というべきでしょうか」
 「でも、こんなこと言いたくないけど、元々が政略結婚なんだよね?」
 「ええ」
 「その、……容姿がどうだとか、そういうことで婚約を解消したり破棄するなんて、そんなことできないんじゃないの?」
 あきら自身は、彼がどうしてもイヤだということなら、彼の両親はそれを押してまで彼に結婚を強要するようなことはないだろうとは言っていたし、彼自身も最終的には自身の気持ちを優先するような事を言っていた覚えがつくしにもある。
 しかし、始まりはどうであれ、今のあきらは桜子自身を好いている、愛しているからこそ結婚を望んでいると言っていた。
 …そうだよ。
 「普通に考えれば先輩の言うとおりです。そもそも釣書※の顔写真を見て、ある程度その段階で振り分けられてますから」
 「あ、ああ。そうか。でも、それなら…えっと、そういう事情も最初からわかってたってことでしょ?」
 名家同士の結婚だ。
 互いに互いの身辺調査も行われているのではないだろうか。
 つくしを調べていた花沢家のように。
 「ご存知ないですよ」
 「え、そうなんだ?」 
 「たぶん?」 
 「は?」
 深刻な話のわりに、曖昧な返しにつくしの目が点になる。
 だが、別段桜子的には、冗談ではなかったらしく、あくまでも真剣な表情を崩さない。
 「だって、そもそも私たちは家同士の結びつきを第一に縁組してるんですもの。最初から、この家のこうした部分が目的で、と目の付け所はハッキリしています。社交界は狭い社会ですから、よほどの格違いでもなければ事前に身辺調査などめったにしません」
 「そうなの?」
 「ええ。あきらさんって学生時代、不倫にハマってたでしょ?」 
 「あ~……え~、ああぁ」
 婚約者を前にして肯定していいものか迷う。
 しかし、英徳学園ではあきらの不倫癖や総二郎の女癖の悪さ、類と静の関係、司の素行など、F4に纏わることはほとんどが公然の秘密で、むしろ彼らに興味のなかったつくしの方が、関わりあいになる以前には詳しく知らなかったことだ。
 それでも、多少なり噂程度には聞き及んではいた。
 当然、彼らのそうした一面は、つくしの一学年下に在学していたという桜子も知っていたのだろう。
 それでもさすがにいくら友人同士の内輪話とはいえ、婚約者の桜子との間で、そんなあきらの若き日のオイタを話題にしたことなどなかったから、気まずくつくしが視線を彷徨わせるのに、桜子がクスリと笑う。
 「釣書には書いてありませんでしたよ」
 「そ、それはそうだよね」
 「音に聞こえた美作家の御曹司のことですから、当家でも特に身辺調査などすることはありませんでした。でも、花沢さんと藤堂さんのことではありませんが、狭い社会のこと、それなりに耳目を澄ませていればイヤでもわかることがあります。だから、絶対に知られているわけがない…とまではいいません。実際に、先輩も、私とそれほどお付き合いが深くなる以前に、よけいな手合いから暴露される一幕もあったでしょ?」
 「…まあ」
 桜子は強気に返していたが、それでもそんな個人の事情を他人から嘲るようにして、噂話をされることに傷つかないはずがない。
 …あの時、桜子はどうだっただろう。
 強気に顔をあげ、他人を切り捨てる強さの裏側にある、彼女の繊細で柔らかな心根にもつくしは気がついていた。
 だからこそ、桜子はつくしにとても優しい。
 時に辛辣で本当は嫌われているのではないかと何度も思ったことがあったけれど、心の底には彼女への絶対的な信頼がある。
 …この子は私を裏切らない。
 それはなぜだったのか。
 「でも、顔や身体とか、そんなことで…」
 「そんなこと?」
 つくしの応えを桜子が鼻で嗤う。
 「人は見かけではないと言うけれど、……たしかにそれがすべてではないかもしれませんが、そんなことを平気で言う人間がいたら、それは単なる偽善者です」
 「桜子、そんな…」
 「人は見かけで容易に態度も言動も変えることがままある。ブスやデブの女にブツかって逆に侮辱する男が、美しい女にはコロッと態度を変える場面に、先輩も出くわしたことはありませんか?」
 「それはね…」
 ないとは言えない。
 そして、それは男女逆転した場合もあることなのだ。
 桜子の言うとおり‘偽善者’とまでは言わないが、たしかに見かけもまた、人を作る要素の一つであることは否めない。
 …でも、それは。
 桜子の言うことが正しいとは思えないのに、つくしには上手い反論の言葉が見つからない。
 「たしかに家と家との結びつきだという主旨から言えば、結婚相手の整形がわかったからといって、即座に破談とはいかない話です」
 それはそうだろう。
 「体面というものもありますし」
 「そうだよ!」
 つくしが我が意を得たりと勢い込む。
 「でも、それは同格の家だった場合の話」
 「は?」
 「おそらく家柄と血筋、人脈で選ばれた縁談だったのだとは思いますが、我が家は両親もなく、傾いてゆくばかりの斜陽の家です。いくらでも、私程度の条件を備えた元華族の令嬢はいるでしょう。それに、たとえそうした事情がなかったにしろ、家のために目を瞑って結婚してもらうことが、耐え難くなったとでも言うべきでしょうかねぇ」
 「…桜子」
 「傲慢になったのかもしれません。……以前は、それでもいいと思っていたんです。この顔と体に騙されて、少しでも条件のイイ男性を釣り上げることができれば、上等。たとえ生まれてきた子供の顔が私に似ていたとしても、それなら私のように、幼い頃に整形してしまえばそれでいい。そんな風に思っていました」
 「……………」
 なんと言っていいのかわからずに、言葉に迷うつくしへと、桜子が寂しそうに笑う。
 それはどこか諦めに満ちた、彼女らしくない儚げなもので―――。
 「まあ、あとは本人同士の相性になりますか。でも、果たして、あきらさんにとって、この顔や身体を除いても、それでもなお私を魅力的な女だと思われるものなのか」
 自虐的な言葉は、平坦で苦痛を顕にしていないだけによけいに、真に迫って彼女の感じている苦悩をつくしに伝えていた。
 おそらく桜子があきらを愛した日から、ずっと彼女を責め苛んできたに違いない苦しみと哀しみ…そして、怖れ。
 「美作さんは、あんたのことを選んだって言ってた。家じゃなく、あんた自身を。たしかに始まりは政略結婚のお見合いだったかもしれないけど、それでも、あんたなら大切にできる。守りたいと思ったし、あんたならそんな美作さんを助けて支えることができる人だと思ったから、好きになったんだって、美作さんは言ってたんだよ?」




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※釣書つりがき、つりしょ)…縁談(お見合い)の時にお互いで取り交わす自己紹介(プロフィール)を載せた書面のこと。 身上書と、同義語。 縁談の時には、他に家族書、家系図という書面も取り交わすことが多いが、近年は釣書の中に含まれる場合が多い。
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