「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0715

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 「は?戒に逃げられたぁ?!」
 徹夜での衛星会議明け。
 鳴り止まな頭痛に顔を顰めながら執務室に戻った司にもたらされた一報は、事件からすでに半日近くが過ぎてのことだった。
 「……ちょっと待て」
 目を射るような陽光の眩しさに、考えが上手くまとまらない。
 これから8時間の休憩を挟んで、再び会議に向かわねばならず、その間もただ惰眠を貪っていればいいというわけではない。
 最高経営責任者が最重要度指定の会議に出席しているからといって、世界各地に広がるグループに降りかかる種々の問題は待ってはくれない。
 常に会社は動いていて、大抵の場合は各々がそれぞの問題を解決して彼が直接指示を出す必要はないが、世界規模で展開している大企業のこと、どうしてもトップの彼が関与し決断をくださねばならないこともある。
 タイムイズマネー。
 まさに司にとって、時間こそ金そのものであり、これほど彼にとって必要なものはなかっただろう。
 「悪いが、もう一度要点だけをざっと復唱してくれ。順を追わなくてもいい。……さすがの俺もグロッキーだ。飯食いながら聞くから」
 「…かしこまりました」
 現在、仮眠している西田に代わり、第二秘書が司をサポートしている。
 体力勝負の長丁場の会議に同伴する西田は、かつて司の母に仕えていた男、さすがに年齢を得てもますます明晰な頭脳にキレを見せるばかりで衰えを知らないが、それでも司よりも一回り以上も年上なのだ。
 いかに超人的な秘書とはいえ、さらにその上をゆく超人的体力を持つ司に付き合いきれるものではない。
 司の指示に第二秘書がわずかの間沈黙し、その一瞬で報告事項を脳内で取りまとめたのだろう。
 西田ほどではなかったが、それでも彼に劣らぬ実力と実績で、司の下まで這い上ってきた俊英の男だ。
 「NY時間で昨日未明、ニューヨークの本宅のお屋敷で、警備システムへのハッキング騒ぎがありました」
 今の時代、国家機関や公共施設、名だたる大企業の社屋では、警備に人だけではなく、大掛かりな防災・防犯システムを導入している。
 道明寺邸はそうした類の施設ではなかったが、警備システムの規模から言えばそうした施設を凌ぎ、一つの要塞のようなものだ。
 それも当然だっただろう。
 邸内には国宝級の美術品や、天文学的価値のある貴金属が保管されている。
 また、主人一家が誘拐されるなどの被害を受ければ、国家レベルの被害額が生じることもありえるのだ。
 当然、監視カメラに始まり、敷地及び邸内への出入り口の各所には、赤外線センサーによる侵入者察知機能や認証システム等あらゆるシステムが導入され、窃盗犯どころかいかなる不審人物も侵入することはほとんど不可能だった。
 また機械には誤作動もあり、判別し難いケースもあったから、人力での警備も引き続き行われ、道明寺邸は巷の大使館レベル以上の厳重な警備体制下にあった。
 反面、外からの侵入者には強いが、内側からの脱出には幾分か劣るところがある。
 それだけ厳密に選抜し、身元を保証された人物のみを使用人として雇い入れているということでもあったけれど。
 だから、司の意を無視し、戒に味方する人間などいないはずだった。
 「一時的に邸内の監視カメラや認証システムがダウンし、一時期邸内は騒然としたそうです。しかし、以後、特にそれ以上のアタックを受けることもなく、2時間後には無事システムが復旧し騒ぎは収束いたしました」
 あらかじめ用意させておいた軽食のサンドイッチを、司は不味そうに口に運びながら、なんとか眠気の強さを振り払おうと、濃いブラックコーヒーをがぶ飲みして瞼が落ちるのを防ぐ。
 …さすがに完徹は堪える。
 それも3連徹というやつで、ロクに仮眠もとれていない。
 やっとある程度まとまった睡眠時間がとれそうだという矢先の、さっきの今になっての問題発生に、司はなんだか妙にハイな気分で笑い出してしまいそうだ。
 そんな場合ではないというのに、実際司は妙に愉快な気分だった。
 …戒のヤツ、やるじゃねぇか。
 「ふぅん。それで?…外からの侵入者は?」
 「SPや警備犬たちが警備を強化し、外部からの侵入には厳重にあたったそうですが、特に問題が発生することもなく、ダウンしていたシステムが復旧した後にチェックも行いましたが、侵入者も盗まれた物品もなく、危害を加えられたものもおりませんでした」
 「…で、一段落してヤレヤレと、戒の様子を見に行ったら、ヤツはドロンとしていたというわけだ」
 「そのようです」
 警備システムが復旧して真っ先に安否を心配されるのは、本来屋敷の御曹司である戒なのだが、当の本人は篭城中のこと。
 外部からの侵入者の形跡があるのならともかくとして、それらしいトラブルが発生していないとなれば、どうしても後回しにされ、しばらくはそれほど心配されていなかったらしい。
 ところが、だ。
 全てが収束し、戒だけが消えていた。
 もちろん最初はやはり侵入者があったのか、誘拐だったのかと、ことの真相がある程度明らかになるまで再び屋敷内は騒然となった。
 「ハッカーの方は?」
 「………それが」
 さすがに事件から半日が経過している。
 ペンタゴン並とまでは言わないが、道明寺財閥とて世界各地から生え抜きのエンジニアを雇い、サイバーテロからの防御体制を整え、鉄壁の城塞を築いているのだ。
 侵入を許しただけでも言語道断な話だが、それも内部からの情報漏洩もしくは、手引きがあれば事情は違ってくる。
 …戒のヤツが警備システムの詳細を理解していたとも思えないが。
 「アイザック・ノイマン博士の息子?あのネットワーク構築の権威のかよ?」
 たしかIT系のみならず、各界に著名人を多く排出している天才一族の一人だ。
 それだけにエキセントリックな言動が目立つ問題児も多い。
 「戒坊ちゃんの学友のお一人が、ノイマン博士の義理の甥にあたるそうです」
 ノイマンの三人の息子たちも例によって例による天才の呼び声も高い子供たちだが、その末の息子がとんでもない問題児だった。
 「……あのガキ、たしか何年だか前に、どこだかの警察署だか官公庁のシステムに入り込もうとして検挙されてるよな?」
 一応は軍事施設を標的にしなかったのは分別ある行動だと言えたかもしれないが、当時5才という年齢でなければ立派な犯罪者の烙印が押されていたはずだ。
 それでもさすがに無罪放免とはいかず、厳重注意の上、保護観察処分となっていた。
 当然、その保護観察期間中にまた再び犯罪行為を起こせば、今度こそただではすまず、矯正施設なりそれ相応の施設に収容されることになる。
 たとえ著名の一族の一員であろうと、生涯を政府関係機関に滅私奉公させられることはもはや避けられないだろう。
 もちろん本人もそこら辺のことは十分教え込まれてきているだろうし、それなりに自覚もして自重していたには違いない。
 しかし、そうした人間が自らの悪癖を克服できることはめったになかった。
 理性と欲望と、そのバランスを保つことは人にとって容易なことではない。
 人間の欲望には限りがないものだ。
 それは財産欲や名誉欲だけにとどまらず、知的好奇心というものもそうした欲望の変化形であり、なまじなものよりもずっと欲が深くタチが悪いことが大半だった。
 「なるほどな。戒のやつ、自分が持ってる限られたものの中で、作り出したネットワークやらツールを使って、使える駒をチョイスしやがったってわけだ。んで?……そのガキは確保してんのか?」
 「はい。最初、ノイマン博士の夫人が、訪問した当方の警備員を見て警察を呼ぼうとしましたが、随伴していた警察官より仔細の説明を受け、事の次第を理解すると、今度は穏便に済ませて欲しいと、警備員たちに取りすがられたそうです」
 「ふん、母親としてはそうするしかねぇだろうな」
 おそらく後ほど、ノイマン家の顧問弁護士を通じ、道明寺家にそれなりの接触があるだろう。
 ある意味、この件で恩を売って、相手との間に有益なツテを作ったと思うべきか。
 「当の息子の方はどうだったんだ?」
 「………中々だったようです」
 警備員と警察官に取り囲まれ、警察署への同行を求められると、少年は友人同士の悪ふざけだった、当の道明寺家の子息からの挑戦を自分は受けて立っただけで、元々が戒によって唆されただけなのだから、咎められる筋合いはないと太々しく開き直っていたらしい。
 今も大して反省の色がないというのだから、確かに秘書の言うとおり中々の悪ガキだと言えただろう。
 「とんでもねぇガキだな。13才だっけか?」
 「ええっと……14才ですね」
 「ふん。いくら知能指数が高くても、そんな年になっても分別もつかねぇんじゃ、マジで鳶が鷹を生んだ逆バージョンの正真正銘バカ息子ってヤツだぜ。なにが子供同士の悪ふざけだ。いくらダチの家だって言ったって、他人の家の警備システムにウィルス送り込んで、システムダウンさせりゃ立派な犯罪者だ」
 だが、そこが戒の狡猾なところで、たしかにそのコンピューターウィルスを作り出したのはノイマン少年だったが、実際にそのウィルスを使用し、道明寺邸の警備システムに混乱を作り出したのは戒自身だった。




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