「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花⑤

愛してる、そばにいて0714

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 「しない」
 あっさり断られても、特に気を悪くするでもなく類が苦笑する。
 類がつくしの腰に回していた両手のうち片手を離して、彼女の小さな鼻をきゅっと掴んだ。
 「この酔っぱらい。どこで、こんなに飲んできたわけ?けっこう酒臭いよ」
 「んが――っ、はなしぇっ」
 抗議するつくしの珍妙な様子に噴き出して、素直に類も彼女の要求に従う。
 「酔っぱらい相手じゃしょうがない、おとなしく寝るか」
 類には酔っぱらい呼ばわりされてしまったが、頭の芯は冷えてる。
 浮かれているとか、気分が悪いというわけではなかった。
 …そもそもそんなに飲んでないし。
 いくら弱くても、日本酒を盃で1杯や2杯飲んだところで泥酔するはずがない。
 ただそうした気分ではないというだけ。
 今の彼女には、類と抱き合って、快楽に耽りたいという気持ちにはとてもなれなかった。
 つくしを縦抱きに抱えたまま、類が立ち上がる。
 「…自分で歩けるよ」
 「すっごい冷たいし…風呂はまあ、飲んでるならやめといた方が無難だけどね」
 「…だから、そんなに飲んでないつーの」
 そんなことを言い合っているうちに辿りつき、ベットの上へとそっと落とされる。
 こうして抱き上げられた状態で、ベッドまで連れてこられるなどめったにないことだ。
 王子様のような見かけとは異なって、類はロマンチストとは言い難い男だし、つくしもまた、そうしたことを望むほどには乙女チックではなかった。
 さっさとバスローブを脱いでベッドに潜り込んだ類が、自分の上に来いとつくしを差し招く。
 「さ、もう寝よ?」
 「あ、うん」
 どうやら人肌で温めてくれるつもりらしい。
 自分の足でつくしの足を挟み込んでくれた類が、びくっと触れた部分を震わせ、むっと眉根を寄せた。
 「…めっちゃ冷たい」
 「ふふふ、私は凄く温かい」
 直に触れる素肌の温もりが、体だけではなく心までも温めてくれる。
 「………いいかげん、裸で寝るのやめたら?」
 「なんで?」
 「お腹冷えると良くないよ」
 「ぷっ、俺今のところ、このカッコで寝て下痢とかしたことないから大丈夫」
 「下痢…」
 この顔から聞きたくなかったワードがあっさりと出て、つくしの顔が引き攣った。
 それでも自分から出した話題だからと諦める。
 しかし、腹のあたりに感じる彼の昂ぶりにも気がついていた。
 …そういえば、もう半月くらいシてないか。
 先ほど誘われた時には断ってしまったけれど、……どうしてもイヤというほどではなかった。
 強引にでも迫られたなら、おそらく拒まなかっただろう。
 けれど、類はそうはしない。
 必ずしも彼女から誘わなければシないというわけでもなかったけれど、基本本人の言うとり類は淡白なタチらしく、つくしがその気ではない時にはあっさりと諦めてしまう。
 「……ね、やっぱり…する?それか…私がシてもいいし」
 そう口にすることはかなり気恥ずかしいが、小娘でもあるまいにと自身を叱咤し、懸命に何食わなさを装って類へと申し出る。
 だが、本当に寝る体勢に入ってるらしい類は、下半身の元気さとは裏腹にすでに目を閉じたまま、一応は会話に応じるが彼女の誘いには乗ってこない。
 「だって、ヤなんでしょ?」
 「ん~、イヤってほどじゃないけど」
 あまり乗り気ではないというだけで。
 「じゃ、別にいいよ。今日シなきゃ、明日地球が滅亡するってわけじゃなし」
 「そ、そりゃそうだけど」
 ずいぶん壮大な断り文句に、なんと言っていいのやら。
 「今日は聞かないけど、明日、何があったのか話してよね?」
 「え~。何もないよ」
 「…おやすみ」
 「おいっ!」
 そうこうするうちにスーっという寝息が聞こえ、一度寝ているはずなのに、類はもうあっという間に寝てしまっている。
 「ひ~、相変わらずはやっ」
 …ま、いっか。
 下手に頑張っていたら、あれこれシている途中で寝られてしまっていたかもしれない。
 それはそれでかまわないのだが、しかし最中に寝られてしまうのは、つくしにしても何とも言えない感慨がある。
 …けっこうガーンっていうか。いやいやいや、いいけど。て、いうか服、着替えなきゃ。
 そう思うのに、こうして抱きしめられているのがあまりに気持ちが良くて、この場所を離れる気にはとてもなれない。
 …温ったかぁ~い。
 ドクドクと鼓動を打つ類の規則正し心臓の音と温もりが、ささくれ立っていた彼女の気持ちを宥め、眠気を呼び込んでくれる気がする。
 …やっぱりそれなりにイライラしてたのかな。
 イライラ…というのとは少し違ったが、それでも類の父との会談はヘビーなものであったのは本当のことだ。
 …あの写真。
 静と彼女の娘が写った写真はどこにいったのだろう。
 ずっと以前、つくしが類の書斎で偶然に掘り出してしまったそれを、彼がつくしから取り上げたところまでは憶えている。
 …あ、違う。たしか、また突っ返されて元の場所に戻しておいたんだ。
 つくしが寝入る直前、最後に思い浮べたのは、その写真を虚ろに見下ろしていた類の昏い横顔だった。




*****




 …ペンシルバニア州フィラディルフィア。
 「行けない距離ってほどでもないか」
 学友…というべきか、学校の子分の一人を通じて雇った調査会社から送られてきたメールの住所を眺め、どうするべきかと戒は思案していた。
 さすがにヒッチハイクで行くというわけにはいかないが、隣に位置するニューヨークからは、電車も出ていればバスもある。
 こうして父親の命令で屋敷に押し込められている以上、屋敷の車や運転手を使うわけにもいかないから、公共機関を使うしかないのは当然のことだ。
 しかし、あいにく戒は公共機関を利用したことがなかった。
 …日本でも屋敷の車しか使ったことがなかったし。
 我ながらいかにも子供の所業だが、父親に内緒で母親を探しているつもりで、屋敷の運転手や車を使っていたのだから報告は行き放題、それこそ父親に何から何まで筒抜けだったのだと今更ながらに自嘲する。
 そもそも彼には常にSPが付き従っているのだ。
 父が見逃してくれていなければ、そうすることさえできなかっただろう。
 それはともかくとして、ーーー今は電車やバスにどう乗るか。
 …ま、他の人間にできて、俺に乗れないってことはないだろ。
 そこらへんはなんとかなるだろうと、むやみに悩むことはやめ、さっさと頭を切り替える。
 スマートフォン一つあれば、なんでもできるし、調べることもできる時代だ。
 パソコンを使う方が楽な場合もあるし、戒の部屋にはもちろんパソコンもある。
 だが、屋敷内のネットワークは、警備室によって集中管理されている。 
 司の執務室のようにごく限られた人間しかアクセスできない設定ならばともかくとして、戒のパソコンは何から何まで父には筒抜けなのは言うまでもない。
 その点、携帯電話からの電波は、そう簡単に傍受することもハッキングすることもできないから、こうした隠密行動にはうってつけだった。
 司にスマートフォンをとりあげられなかったことを安堵する気持ちとは裏腹に、父の自分に対する認識をあらためて確認してなんともいえない皮肉な気持ちがこみ上げる。
 …俺のことを、ガキだと侮ってるわけだ。
 その侮りがあったからこそ、彼はこうも簡単に彼女に辿りつけたのだけれど。
 間違いなく司は、こうして戒を屋敷に閉じ込めていさえすれば何もできないのだと思っているに違いない。
 彼女の移転先が、遥か遠い海外であったり、国内にしろニューヨークから遠く離れた地ではなく、ニューヨークから目と鼻の先のペンシルバニアであることからしてもそうしたことが察せられた。
 そして、やがてはほとぼりが冷めれば、頭も冷えてもはや戒には諦めるしかないのだ、いずれ時間が解決してくれる
と司は思っているのだ、と。
 しかし、ものを考える頭と資金、計画を実行に移すツテ、…そしてやる気さえあれば、この世にできないことなど何もない。
 それはたとえ100才の老人であっても、12才の少年であっても同じこと。
 頭も、資金も父親が戒に与えてくれた。
 ツテは自身が、そしてやる気は…。
 ブーッ。
 携帯電話がメール受信のブザーを鳴らす。
 「…来た」
 …絶対に会ってみせる。




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