「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0713

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 さすがに今度こそ、類の父の目が驚きに見開かれる。
 今度は言葉を失ったのは彼の方だ。
 それでもその動揺を隠そうとか、彼が歪めた顔を一瞬で取り繕うとしているのがつくしにもわかった。
 しかし、その反応に半信半疑だったつくしも確信する。
 「やっぱり。静さんのお子さんは、類さんの子供なんですね?」
 「なぜ、それを…いや、そんなことを?」
 類さえもが、静から彼ではなく夫の子だと告げられていた事柄だった。
 けれど、
 「写真を見ました。静さんの娘さんの容姿は、あまりに類さんにそっくりでしたから」
 「……そうか、なるほど」
 類の不倫の話も聞いているくらいだからと、類の父も即座に納得したらしい。
 いくらなんでも他人の空似にしても、程がある。
 類と静の間に血縁関係があるとは聞いたことがない。
 実際に二人の容姿には、どちらも美形だというだけでまったくの相似性がなかった。
 そして、かつて二人は不倫関係にあったのだ。
 そこまで条件が揃っていて、類と静の娘の間に血縁関係を疑わない人間などいるはずもない。
 「ご存知だったんですね?」
 そして、類も。
 ーーーもちろん、静も、に違いない。
 「…それならばなぜ」
 なぜ、静は、そして、この目の前にいる類の父親は。
 …なぜ、そんな誰の目にも歴然としていることを認めようとはしないの?
 けれど、類の父は一貫して言い続けていた。
 「醜聞は避けねばならない」
 つくしには一つの予感がある。
 花沢家に勝るとも劣らない富裕の権門勢家・道明寺家の一員だった過去がある彼女だからこそ、思いつくことが。
 「孫なのでしょう?」
 「孫などではない。他人の妻である女に、当家の息子の子などが生まれるはずがない」
 「……っ」
 頑ななその言葉にすべてが忍ばれる。
 両親以外の誰にも望まれぬ子。
 …戒と同じように。
 そして、戒以上に、静の…類の娘の出生は過酷だった。
 「ふぅ。……そろそろ夜風も冷たくなってきたようだ」
 暦上では春だとはいえ、まだまだ肌寒い季節のこと。
 「窓を閉めますか?」
 「いや、そろそろ酒宴の方をお開きとしよう」
 「はい」
 その言葉で、つくしもこの会談の終わりを悟る。
 「美味しい花見酒をありがとうございました」
 「こちらこそ。つくしさんと腹を割って話せて良かったよ」
 果たして本当に腹を割って話したと言えるのか。
 類の父にしてもそうだが、つくしにしても正直だったとは言えないところがある。
 しかし、それも当たり前のことなのかもしれない。
 類の父の、経済界人として、一つの大企業を担う者の立場。
 類と自分、せいぜいこの二人の幸せを守れれば…という卑近な望みしかない彼女とでは、しょせん立ち位置そのものが違いすぎるのだから。
 …同じ土俵にすら立っていないのよね。
 「あなたと類の結婚を待ち望んでいるのは、私たち夫婦だけではない。類の実母の…ひいては、花沢に連なる一族すべての者の望みでもある」
 「そう、…ですか」
 嬉しい…という気持ちはなぜか沸かなかった。
 極論を言ってしまえば、静でなければ誰でも良かったという類の父の言葉のせいだったかもしれなかったし、全く別な理由からだったかもしれなかったけれど。
 「……あるいは、道明寺家と親族になるのも悪くない、とね」
 席を立つつくしの背後、独り言のように呟かれた類の父の言葉は、冗談めかしてはいたが本音であり、またそれを口にしたのは彼のつくしへの好意ゆえでもあっただろう。
 ーーー純粋なものではないにしろ。
 「気の早すぎる話ですよ」
 「…そうかね?」
 「ええ」
 つくしに類の子供が産めるかさえも、わからないというのに。
 いや、そもそも類との結婚…そんな日が果たして本当にくるのだろうか?
 「それに、つくしさん、あなたの息子…道明寺家の子息にとっても、実母であるあなたが我が家という後見を得るのは悪い話ではないはずだ」
 「……………」
 「今のあなたには実家という後見がない。つまりは、あなたの息子にとっても同様で、再婚した司くんが新しい妻君との間に子供を儲ければ、その立場は微妙なものになるだろう。………次男が誕生した時のように」
 グッとつくしは我知らず拳を握りしめる。
 当時は思いつきもしなかった。
 司に他に子供ができれば、戒の道明寺財閥後継者としての立場も危ぶまれることがあるなどとは。
 「あなたが我が家と結びつけば、誰もがあなたの息子の後ろに花沢を見る。もうあなたの息子を侮る者も、疎かにできる者も、道明寺一族の中ですらいなくなるだろう」
 むしろ道明寺家の人々の中にこそ、というべきか。
 現在でも他家の者たちにとって、道明寺司の一人息子であり、大河原財閥総帥の義理の孫である戒を軽視できる者などいるはずがない。
 「そんなこと……考えたこともありません」
 …本当に?
 そんな心の奥底の密やかな声から耳を塞ぐ。
 「では、これからは考えてくれたまえ」
 類の父の言葉につくしは緩く曖昧に首を振った。
 類とのことと、戒のことはまったく別問題のはずだ。
 少なくても彼女と類にとっては。
 「……………」
 「……………」
 無言が続いて、類の父もこれ以上彼女から言葉を引き出すことは無理だと察したのだろう。
 今度こそ軽く手を挙げ類の父が席を立ち、去って行く。
 …なんか、寒い、な。
 急に寒さを感じて、つくしは自分の腕で自分を抱きしめ、ブルリと身震いした。
 



*****




 つくしが類の私室に帰ると、意外にも彼は目を覚ましていた。
 「ずいぶん遅かったね?」
 「……そうかな」
 シャワーを浴びていたらしく、バスローブ一枚の姿でまだ濡れ髪のままだ。
 「てっきり寝てると思ってた。あんたが途中で起きるなんて珍しいね?」
 こんなことなら彼が起きるのを待って、彼と一緒に夜桜見物に出向けば良かった。
 そうすれば類の父と一緒に酒膳を囲むということもなく、こんな混沌とした気分に襲われることもなかったのに。
 「ん~、遠藤から電話でさ。勤務時間外に緊急なこと以外の電話は勘弁してっていつも言ってるのに、毎度のことながら聞いてくれないんだよね」
 「緊急なこと以外って、じゃあ遠藤さんはいったいあんたに何の用があって電話してくるのよ?」
 類の性質をよく理解している秘書が、わざわざ彼の不興を買うとわかっていて、勤務外に連絡してくるのだ。
 緊急以外の用件のはずがない。
 うーんと妙に神妙な顔で考え込んで、
 「…愛の告白?」
 「は?…また馬鹿ばっか言って。会社じゃなくても、あんたの場合、仕事の連絡があるのは立場上仕方ないことでしょ?」
 「それが一番の問題なんだよね…はぁ」
 …どこまで本気なんだか。
 それでもため息をつき文句を言いつつも、一応着信拒否にしていないのは、彼にもやはりそれなりには経営者としての責任感が培われているからなのだろう。
 ソファに座って、ビールを飲みながら本を読んでいる類の足元に座り込み、つくしが類の膝に抱きついて懐く。
 「……なに?そっちこそ珍しいじゃない?」
 「ん~」
 自分でもらしくないことをしているという自覚がある。
 「それにしても、いったいどこまで夜桜見物に行ってたわけ?ずいぶん冷えてるじゃん。風呂入ってきなよ?」
 「ん~」
 さっきから「ん~」ばかりで動こうとしないつくしに呆れた顔で、ため息を一つ落として、類が自分の膝に懐いている彼女の脇の下に両手を回し、まるで子供を抱き上げるように持ち上げ、膝の上に乗せてしまう。
 そしてそのまま、膝を跨がせ、向かい合わせ抱き寄せた。
 「ちょっと……」
 さすがに小さな子供でもあるまいに、この体勢は恥ずかしすぎる。
 身動ぎして彼の膝から降りようとするが、しかし、類が彼女の腰にがっちりと腕を回して押さえ込んでしまっているので動けない。
 類が秀麗な美貌を傾け、彼女へと唇を寄せてくる。
 「…ん」
 重なる唇と唇。
 今度は生返事ではなく、甘い慄きに小さな声が溢れた。
 羽のような軽いキスを何度も交わして、吐息と吐息の合間、ホンの少しだけ唇を離す。
 「……唇まで冷たい」
 「ふふふ」
 「する?」




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