「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0712

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 「過去、どんなに我々…私と、類の母親が勧めても、アレはあの女以外の他の女性を受け入れようとはしなかった。あの女を忘れて、立ち直ろうとはしなかったのだ」
 ―――立ち直る。
 何をして、そういうのかはともかくとして、類はこの10年の間も、花沢物産の重役としていかんなくその能力と実力を発揮してきた。
 誰も彼に対して立ち直ることが必要な人間などとは思わなかったことだろう―――彼の身近な人たち以外には。
 類はたしかに病んでいた。
 病んで荒んで、あらゆる喜びから背を向けていた。
 美味しいものを美味しいと感じること。
 美しいものを美しいと感じて、誰かを愛し、温もりを共有する。
 そんな些細なことさえ、つくしがいなければ忘れていたのだと、以前の彼は語っていたのだ。
 「そんな息子が、あなたを選んだ。あの女以外で、アレが自ら選んだ女性だというだけで、我々には十分価値がある。そう言ったなら、あなたは気を悪くされるかな?」
 「……いえ」
 ある意味、類の父が言う言葉ほど、つくしに対する侮辱はなかっただろう。
 彼は誰でも良かったと言ったのだ。
 静でなければ、誰でも…と。
 …私が静さんと天秤にかけられるなんてね。
 むしろ光栄というものではないかと、複雑な気持ちで苦笑する。
 「過去の不倫が…というのなら、私と類さんの関係も、場合によっては世間に邪推されてしまうこともあるのでは?」
 隼斗との結婚生活が破綻した時、つくしにはもう誰かと恋をしようとか、結婚しようという意思がなくなっていたから、それほど気にしはしなかったけれど、しかし世間はそうではないだろう。
 類と暮らし始めた当時、―――たとえ雇い主とメイドという関係であり、その関係を逸脱していなかったにせよ、若い年頃の男女が二人っきりで同居していたのだ。
 誰でもその関係を邪推するだろうし、実際、そのことを知る身近な人たちや、類の友人である総二郎でさえ彼ら二人の関係を疑っていたことがある。
 …私だって、まったく気にならないってことはなかったものね。
 ましてやその頃、名義上だけとは言え、つくしはまだ既婚者だったのだ。
 「―――あなたは疚しい関係ではなかったと言っていたね」
 もちろん、そうだ。
 それでも、
 「私が…私たちがそう言ったとして、それを皆が皆、信じてくれるわけではありません」
 もちろん類の父だとて、そんな風に思うほどおめでたい人間ではないだろう。
 「あなたが雇用契約を結んだのは、そもそも本宅…ここであり、類のところへと派遣されていただけのことで、事細かく業務や給与、待遇等を書き記して交わし合った正式な雇用契約書もちゃんとある」
 「…でも」
 「疑わしきは罰せずーーーは、日本における基本理念だ。たとえ誰がどう穿とうと既成事実を証明できない以上、誰が何を騒ぎ立てたとしてもあくまでも邪推にすぎない」
 詭弁だった。
 もちろんその詭弁を吐く、類の父自身も承知の上の。
 「先ほど、司君との離婚時にあなたが得た慰謝料の話題を出したが、NPO法人に寄付した以外の金銭は、司君との離婚の後に再婚した相手の息子さんへと譲渡されているね?」
 「ええ」
 もはや何を類の父が知っていたにせよ、驚くことはない。
 「白血病を患い、あなたが支援をしなければすでに亡くなっていてもおかしくはない病状だった」
 「……………」
 それはわからない。
 けれど、けっして生存率の高い病ではないことは確かで、つくしと隼斗が離婚した当時、一度は寛解まで回復していた陽太の病が、一気に悪化し再発していたのも本当のことだ。
 あるいは、現在彼が受けている最新の治療を受けることができていなかったら、類の父が言うように、陽太はすでに亡くなっていたということもあるのかもしれない。
 現在、陽太の病状はかなり回復していて、再び寛解にまでに落ち着いていた。
 完全寛解、そして、いずれは完全快癒を目指し、彼は治療に励んでいる。
 「実子ではないにも関わらず、あなたが行っている援助は、あなたの評判を上げることはあっても、けっして損なうものではない」
 そう言われるのは、不本意だった。
 まるで自らの評判を保つための手段であったかのようではないか。
 …計算したわけじゃない。
 憤慨してみせるほどのことではなかったけれど。
 「そうした経緯から無一文になって困窮していたあなたを、類が友人としての好意から雇い入れた……美談だ」
 「美談……」
 わずかに皮肉なものを含んだ微苦笑が、つくしの唇に浮かぶ。
 嘲るつもりはなかったが、さすが…とでもいうべきか、類の父のあまりにあざといすり変えに、もはやつくしにしてみても笑うしかなかったのだ。
 「おかしいかね?」
 「だって、あなたが一番その論法をおかしいとお思いになっているのではありませんか?」
 「ふ……ふふ」
 だが、類の父は笑うだけでそのつくしの問いに、是とも否とも直接には答えなかった。
 「時には、あきらかな偽善だ、欺瞞だと思っていても、素知らぬ顔で信じているフリをしなければならない時もある」
 「そうですか?」
 「違うかね?」
 「さあ?」
 …反吐が出そう。
 内心で悪態をつく。
 つくしも、この年になればある程度は酸いも甘いも噛み分けている。
 もはや青臭く正義感に溢れる少女ではない。
 理解できないと食ってかかるほどには潔癖ではなかったけれど、それでも類の父の詐術に同意したくはなかった。
 「幸いあなたの前夫…牧野氏には、現在、交際している女性もいるようだ」
 「…そうですか」
 今も時々は陽太からメールをもらっている。
 さすがに隼斗から直接連絡が来ることはもはやなかったが、陽太のメールには、自身の治療経過や病状の他にもそんなことが書かれていたから、隼斗の明るい近況はつくしも知っていたことではあった。
 …良かった。本当に。
 誰も彼もが幸せであれと願うことこそ、偽善なのかもしれなかったけれど。
 「……あの女が東京に戻ってきていることを類も察していると、あなたは言っていたね?」
 「え?ええ、はい」
 「あるいは、それが類の答えなのかもしれない」
 「え?」
 唐突な話題の転換につくしが戸惑って聞き返す。
 だが、類の父の目はもうつくしではなく、すっかり彼らの間で忘れ去られていた夜桜へと向けられていた。
 けれど、夜の闇を透かし見るような彼の目は、実はその夜桜でさえ見えていなかったのではないだろうか。
 「たしかに私は類の目を反らし、あの女が東京に帰ってきていることを知らせなかったし、知られないようにと手を打ってもいた。また、類の日本各社からの移動も考えなかったわけではない」
 そこまで…という思いと、それだけ類の父が類と静の関係を危惧し、苦慮していたのだと改めて思い知らされる。
 「しかし、女一人の事で、そうそう我が社も役員の移動ができるほど悠長な経営をしているわけではない。第一…あなたとの記事同様、類がその気であれば、あの女の身辺を調べることなど容易にできたことだ」
 それは…そのとおりかもしれない。 
 類はもはや、静とはなんの関わりもないと言っていた。
 そしてその言葉どおり、彼女とはこの10年余、まったく接触がなかったはずなのだ。
 それなのに、どうして自分は、……そして類の父は?
 たしかに類の静への執着の尋常ではなさを知ってはいても、静の方が類を拒絶した以上、いまさら今度は静の方が類の下へと戻ってくるとはとても思えないはずなのに、何を危惧してこんなに不安だというのか。
 …そうだ。
 つくしは不安なのだ。
 そして、類の父もまた。
 つくしの場合には、いくらでも過去の疑わしきをもみ消してしまえると嘯きながら、静の場合にだけ神経質にこだわる理由。
 ハッと脳裏に閃いた一つの事柄。
 以前に見た一枚の写真がつくしの脳裏に蘇る。
 「あなたはまだ若い。あなたならきっと類の子を、1人でも2人でも、あるいは何人でも産んで、息子に良い家庭を作ってやることができ……」
 「でも、静さんになら?静さんにはすでに、類さんの子供がいるのではありませんか?」




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