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「中・短編」
伊集院薔薇先生…10話完

伊集院薔薇先生の疑惑4

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 「もう一か月以上連絡寄越してこないんですよっ!」
 ガンッとサワーのグラスをテーブルに打ち付け、つくしは酔いに真っ赤になった顔をテーブルに伏せた。
 もう呂律も半分回っていない。
 「ひっど~、そんな男ふっちゃえ、ふっちゃえ~」
 つくし同様ヘベレケ状態の山野の無責任なエールに苦笑しながら、つくしの横の田中が、つくしの手からグラスを取り上げ、零さないように遠ざける。
 向かい側の高浜も顔色は普通だったが、かなり酔っぱらっているらしく、酔っぱらいのつくしの言うことに一々うんうん、と大げさに頷いて大いに憤慨している。
 「男ってそうよね~。釣る前には、お前が好きだ、好きだ~。毎日でも会っていたいとかいいこと言って、釣った途端に掌返したように仕事と自分とどっちを取るのかなんて、陳腐なこと言うなとか?ホント、勝手だよね」
 「そう、この前会った時だって…」
 つくしが初めて田中たちの小説を読まされ、仲間として引きずり込まれようとしていたあの日。
 アパートの前で、突然時間が空いたからといって司が待ち伏せしていた。
 本来なら香港に出張するはずで会える予定などなかったのに、思わぬ時間を与えられ、次の日も一日オフだと告げられて、舞い上がっていたのが思い出される。
 半月に一度でも会えればいい方な多忙な恋人。
 司の事情もよくわかっていたし、そんな司だとわかっていて付き合っているのだから今更それに不満をいうつもりはない。
 だが、急だったとはいえ、司と会えて、恋人としての甘い時間を過ごせれば、やはりつくしだとて恋する乙女の端くれ。
 この上なく幸せで、一緒の時間はとても楽しかった。
 口ではなんだかんだと我ながら可愛くない天邪鬼な物言いをしながらも、仕事から帰ればまた司がいる。
 そう思っただけで、うきうきとして、仕事中にもうっかりニヤけてしましまわないか心配したくらい。
 司に仕事を休めと言われた時だって、危うく理性が負けて、司の言う通りにズル休みして司と過ごしたいと誘惑に負けそうになったのは内緒のことだ。
 ところが、そんなふわふわとしたつくしの幸福もあっという間に現実に戻されることとなる。
 おそらく、司にしてみれば、つくしと一緒に過ごしたい、一緒の時間を大切にしたいという思いはホンモノだったのだろうが、そうは問屋が卸さない。
 司の多忙が容易に二人の間に立ちはだかった。
 まず司の過ちは、朝出社していったつくしを見送った後、彼女不在のアパートは手持無沙汰だと、道明寺邸に帰宅したことにある。
 学生時代の司だったら、そのまま気怠い午前を過ごしたとて珍しくなかっただろうが、もう何年も世間の荒波にもまれ、すっかり企業人としての習性が身についていた彼は、寸暇を惜しんで働かずに入られない企業戦士へと姿を変えていた。 
 本人的には決して認めないだろうが、もはやそれが彼のデフォルト。
 少しでも時間があれば、残してきた仕事が気になり、昼夜を問わず仕事に立ち向かってしまう。
 さぞや、司の母・楓などは、万歳三唱、見事司を更生?できたことに満足していることだろう。
 つくしも素直にそこは評価し、司の為に喜んだが、こういう時には微妙に複雑な心境だ。
 何も、一か月ぶりに会った恋人との短い逢瀬にもそんならしくない習い性を発揮しなくて良いだろうに。
 寸暇を惜しんで、多少なりとも仕事を片付けようとした結果…道明寺邸から動けなくなり、しまいには結局オフだというのに本社にまで顔をだし、そのままつくしに連絡を入れることなく、機上の人となっていた。
 バカをみたのはつくしである。
 いつもは、フレックスとはいえ、コアタイム以外にも終業時間定時まできっちりと職場に在席し、綺麗に持ち仕事を片付けて退社するはずの彼女が、その日はついついフレックスを利用して、早帰りしてしまった。
 急ぎの締め切り仕事ではなかったとはいえ、初めて仕事を次の日に持ち越してしまったのだ。
 つくしにしてみれば、清水の舞台から飛び降りるほどの出来事であり、それだけ、司と一緒の時間を過ごしたかったという気持ちの現れである。 
 手早く、会社途中にあるデパートで、普段は買わない高級食材(あの名古屋コーチンを入手!)やワインを手に入れ、買い物袋を何度も確認しながら、ニヤニヤ、照れ照れ、息せき切ってアパートに帰ると…無人の狭いワンルームが待ち受けるばかり。
 よもやつくしが司の為に早帰りしてくるとは思ってはいなかっただろうが(普段のつくしの言動からして)、それでも、一応『ちょっと、邸に買える。夕方には戻るから、たまには外食して外でデートしようぜ』というメモが残してあり、それを見てニヤけた顔を戻すことができなかった。
 何言ってんのよ、せっかく買った名古屋コーチンで鍋するんだからっ!外食なんかしないわよ。だいたい何買うつもり?それ言うなら、帰るでしょうよっ!
 きっちり、司の書き間違いを心で突っ込む。
 そう思いながらも、外でのデートもいいなあ。
 と、なると、お泊りなのかな。
 とか思って一人で赤面したり、いやいや、やっぱりウチでゆっくりしてあげた方が、あいつだって日頃の疲れが溜まってるんだろうしと、いろいろ考えては、それはそれで楽しい時間を過ごしていた。
 落ち着かない気分でお風呂やトイレを掃除したり(部屋は普段から小まめに掃除も整頓もしていたので、今回は見送った)、ベッドメーキングを何気に丹念にしまくったり、時計を見ては溜息をつき、鳴らない携帯を覗いたりして時間を過ごした。
 と…、メールの着信音が入り、嬉々として覗いたつくしの手は、その瞬間…ぶるぶると震えだし、頭はぐわーーんとまるでハンマーで叩かれたような衝撃を受けた。
 思わず手に持っていた携帯電話を投げ出しそうになって、それが3年払い契約で最近買い換えた新機種だと思い直して、そっとテーブルの上に置く。
 だが、そのままでは気持ちが収まらず、さっきから何度も眺めていた司のメモを手に取り、ガガガガガガッ!!と執拗にそのメモの字の上をボールペンでグチャグチャに書きなぐった。
 な、何が、外食だ!何がデートだっつーの!!
 どうせ、できない約束なら、最初からすんなっ!人を期待させておいてふざけんなっ!!
 期待が大きかっただけに、ウキウキしていた時間が長かっただけに、つくしの憤りは怒髪天の域に達していた。
 普段、どんなに会いたくても、声が聞きたくても、4年間の遠恋の頃に比べればまだマシなのだからと、自分をなんとか納得させてきた。
 ところが、遠恋の頃にはわりに小まめに電話やメールで連絡してきた司も、近くに帰ってきた、いつでも会えるという安心感からか、逆に連絡の頻度は落ちてきていて、そこもつくしの不満を蓄積する要因となっていた。
 しかし、人間、誰しも我慢の限界がある。
 その限界が近づき、多少なりともガス抜きすべく、小さな噴火を起こし、本来ならその怒りの矛先を司にぶつけて、雨降って地固まる…という具合に運びたいところだったが、つくしが憤懣をぶつけるべき相手は、なんとその頃…空の上。
 とっくに機上の人。
 よりにもよって、『わりい、仕事。これから、中東へ行ってくる。電波届かないところだから、2~3週間音信不通。あ、いま、離陸だからまたな』なんてメールを送り付けて、つくしが納得したとでも思っているのか。
 貧乏性が仇になり、当たるモノも見つけられず、やっと見つけた枕を手に思いっきりベッドに打ち付けようと振りかぶった瞬間。
 ぴんぽーん。
 ありえないことだが、つくしは甘い幻想を抱いてしまった。
 もしかして、メールではあんなことを書いてきたけど、思い直して戻ってきたのか…とか。
 時間的にもありえない。
 だが、やっぱりつくしの脳は不満と寂しさで、どうかしていたらしい。
 意気込んでドアを開けた先、にっこりと微笑んでいた美貌の青年。
 いつもながら、突然の訪問者は、昨年から司と入れ替わるようにフランスに転勤していた類で、ポケッとハトが豆鉄砲くらったような顔のつくしの眼前に、なぜかエスカルゴ型チョコという珍妙なものを差出し、本人に招かれもしないのにさっさと上がり込んでいた。
 あとはもう、つくしの買ったワインと夕飯の材料での宴会…ヤケ酒大会ともいう…に突入し、司の為に買った名古屋コーチンは照り焼きと化して、動物性タンパク質が苦手な類が食べなかったので、すべてつくしのお腹へと消えた。
 何やら、来月から日本本社に転勤になったとかで、帰国するとか言っていた気もするが、彼がフランスに行くと聞いた時にはあれほど落ち込んだというのに、嬉しいどころか、飲みすぎたアルコールのせいで、ろくに頭に残らなかった。
 いつの間にか、酔いつぶれてつっぷしたつくしを放置し、頭の上で他の酔っぱらいたち…山野と田中、高浜が雑談を交し合っている。
 「そういえば~、ここのところ、道明寺副社長、美作商事との合同プロジェクトであちらの副社長と一緒に海外赴任増えてるじゃない?」
 「え~?なんか、あやめ先生の最新作まんま?」
 「へへ、実は、今回のプロジェクトの噂を聞いて、思いついた設定だったり」
 そんな会話を聞きながら、
 なによ~。あたしには一か月も連絡寄越さないことなんてザラなくせに。美作さんには三日もあけずに会ってるってこと!?そんなに美作さんがいいわけ?!
 酔った頭に、さきほど校正していた小説の内容がごちゃ混ぜになって思い浮かぶ。
 「確か、場所って電波も届かない中東の僻地じゃなかったっけ?」
 「あ~、なんか、そこの王族かなんかとの取引だとかで、いろいろと根回ししてるって聞いた」
 「それそれそれ!!」
 突然、高浜が興奮しだして、立ち上がった。
 「ど、どうしたの?高ちゃん?」
 「ねね、見た?副社長の載った今月号の週刊誌」
 鼻息荒い高浜の様子に、田中と山野が顔を見合わせる。
 半分寝ていたつくしも何事かと、突っ伏していた顔をあげ、高浜を見上げた。
 その注目度の高さに高浜は意気揚々、荷物ラックに置いてあったトートバッグをとり、中に入れてあった週刊誌を皆の前に広げる。
 「へへ、みんなに見せようと思って持ってきてたの」
 得意そうに言いながら、パラパラと捲り、器用に一発で司の記事を探し当てる。
 さすがは、司のファン第一人者を自称するだけのことはある。
 もっとも、高浜他、BL小説にハマっている他の作者4人もまた、同じようにディープでコアな司ファンを自認していたが。
 記事自体はいつもながら、派手な誇大タイトルと共に、司と彼の連れた女性のスキャンダル記事。
 NY当初は、つくしとの恋愛が遠距離で互いに誤解やすれ違いを起こしやすいと言う司の気遣いから、そういった記事が出る度に圧力をかけて潰していたようだが、最近ではつくしの理解もあり、司が誰それと食事にいった、司が誰それをエスコートした、司が…云々、噂には枚挙にいとまがない。
 いつもならつくしも斜め読みにもしない類だったが、かぶりつきに魅入る他の3人の手前、嫌々…いや、正直に言おう、その時には気になって見ずにはいられなかった。
 『道明寺副社長・新恋人!お相手は、華道・草月流元家元の未亡人。謎の婚約者T・Mさんとは、破局していた?』
 「この記事の何が、それそれそれ!なのよ?」
 「だから、今回の取引相手、中東のお偉方の接待で、華道とか茶道、日本文化を紹介する関係で、この未亡人と副社長が最近急接近しているらしいのよ」
 「え~?でも、副社長って婚約者いたよね?」
 「うん。このT・Mさんて、たしか、副社長が学生の時から付き合っているとかいう一般人の女性じゃない?」
 「かなあ。やっぱ、住む世界が違うと、結局ダメになっちゃうてことじゃないかな」
 「華道の家元の未亡人か~。うわあ。なんか、やだ~、誰が一人の女のものになっちゃうなんて」
 そんな声を聞きながら、気が付けば、手元にある割り箸を、バキッと片手で真っ二つに折ってしまっていた。




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