「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0706

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 まだ8時だというのに、類がもう眠いというのでグズる彼を寝室に残し、つくしは一人花沢邸を散策することにした。
 類は一緒に寝ないかと誘いをかけてきたが(あの様子からして、セクシャルな意味ではなく正しく寝るつもりだろう)、さすがのつくしもいくら疲れていても、子供でもあるまいに夜の8時から寝るつもりにはなれない。
 家主の息子の婚約者だとは言え、家族のうちの誰かの同伴もなしに赤の他人が勝手に邸内をウロつくなど、普通はマナー違反だろうけれど。
 しかし、屋敷内は個人の家というよりは、ほとんど旅館のようなもので、絶えず使用人が行き来していたし、また一応は家主の息子の許可はとっていたから、まあ庭先の散策くらいは許されることだろうと開き直ってしまう。
 つくしの目的は、昼間に見た早咲きの寒桜を月明かりの下で見ることだった。
 …類も一緒に来ればよかったのに。
 夕飯の前には夜にまた二人で来ようという話をしていたのだが、眠りの国の王子様と化してしまった彼から眠気を払うことは至難の業で、実際に過労しているのはたしかだろうからと、起こすことは諦めた。
 「ふわぁ」
 母屋の廊下伝いに寒桜があった庭先へと辿りつく。
 すぐに目に入った大ぶりの枝に満開に咲き誇った桜の花は、ほとんど満月に近い月明かりを反射して、まるで蛍火のように自ら発光しているようにさえ見える。
 「凄い綺麗」
 「…明日だと雨になるようだから、夜桜見物なら今晩が一番だったようだね」
 横合いから聞こえた声音に、ハッとつくしが振り返る。
 「お義父様」
 「やあ、つくしさん、あなたも夜桜見物かね?」
 庭に面した廊下側の障子を開け放ち、電気もつけていない和室に膳を並べ、盃を傾けていた類の父がつくしへと微笑み声をかけてくる。
 慌てて腰を折って、挨拶を返す。
 「すみません。お楽しみのところをお邪魔してしまって」
 「いや、ちょうど一人での見物に飽いていたところだよ。良かったら一緒に、……どうだい?」
 杯をつくしへと掲げて飲むマネを見せる。
 「え…あ、…はい」
 あまり酒に強い方ではないが、嫌いなわけではない。
 それ以前に、曲りなりにとも婚約者の父親に誘われれば、否やとは言いづらかった。
 類の父が気をきかせ、膳を挟んで自分の左側、夜桜がよく見える位置への座布団を置き、席を勧めてくれる。
 「どうぞ」
 「ありがとうございます」
 礼を言うつくしへと鷹揚に頷き、類の父が脇の盆に重ねてあった新しい盃をつくしへと手渡す。
 「あ、自分で注ぎます」
 「いいから、いいから」
 ぞんがいに気さくに言われ、つくしも素直に酌を受けることにした。
 そして、今度はつくしが代わって、置かれた徳利を取り上げ、類の父が盃を空けるのを待って酌を返す。
 「…ん、美味い!欧米では女性に酌をさせるなんてとんでもないこと※だと忌避されるが、手酌やむくつけき男どもに酌をされるより、嫋やかな女性に酌をしてもらった方がずっと酒が美味く感じられるよ」
 「ははは」
 どうかするととんでもセクハラ発言だが、類の父の悪戯っぽい表情を見ていると単に素直な感想だというだけで、そこにイヤらしさを感じなかった。
 もっともそれが脂ぎった狸親父のセリフではなく、類によく似た面差しを持った往年の美貌が忍ばれるダンディな男性が言うことだから、というのもあったかもしれないが。
 …はぁ~、さすがは類のお父さん。こういう方を美中年とかいうのよね、きっと。
 おそらく年齢的には初老の域に達しているのだろうが、わずかに白髪交じりのフサフサした髪が若々しく、とてもではないがそんな表現の仕方をするのが忍びない。
 「つくしさんは、酒に強いのかね?」
 「いえ、実はあんまり」
 「…そうか」
 「嫌いじゃない…いえ、けっこう好きなんですけど、弱いのであまり飲めなくて、それが残念です」
 つい取り繕いかけて、そんなことを取り繕っても仕方がないと正直に答える。
 「そうか、たしかにね」
 「類さんはとてもお酒に強いですが、やっぱりお義父様もお強いんですか?」
 特に妙な質問をしたつもりはなかったが、なぜか類の父にマジマジと見返され、何か失礼なことでも言ってしまったのかとドギマギしてしまう。
 「あ、あのう?」
 …あ、もしかして。
 「えっと、すみません。まだ嫁でもないのに、お義父様だなんて馴れ馴れしい呼び方をしてしまって」
 思い当たって謝罪する。
 が、類の父の方は彼女の危惧をよそに、別段気を悪くしたわけではないらしく、どこか照れ臭そうな顔で小さく笑った。
 「いやいや、そうじゃないよ。…ただ、なにかいいものだな、とね」
 「は?」
 「いや、私には娘がいないから、あなたにそう呼ばれると妙にムズムズとするというか。とにかく悪い気持ちではないということだよ」
 「……はあ」
 今度はつくしの方が、その秀麗な横顔にマジマジと見入ってしまう。
 それでよけいにバツが悪くなったらしく、類の父は意地になったように視線を夜桜へと向け、ひたすら杯を重ね出す。
 …なんていうか、地位ある年配の男性にこんなことを言うのも変だけど。
 妙に可愛い。
 世の女性の大半が、‘男’という生き物を愛しいと思うのは、きっとこういう時なのではないだろうか?
 類は特殊な人種なので例外的だが、司にしても隼斗にしても、可愛いという形容とはまるでかけ離れたいかにも男性的な男たちだったが、つくしにしてみれば別に大したことではないのに些細なことで照れたり恥ずかしがったり、たわいのないことで喜んでみせたりと、思わずほっこりとした微笑ましさを見せていた。
 それを別の言葉で表せば、愛おしさや情愛と言い換えられる。
 けして彼女は類の父に恋したり、それに類する感情を抱いているわけではないが、女が男に母性を感じる時というのはこういう風な部分なのかもしれない。
 しばし、二人、夜の庭と夜桜を眺めて、春の気配を楽しみ、酒を無言で嗜む。
 ふいに、その庭のそこかしこに、つくしは類の幼い姿を見た気がした。
 おそらく夜の庭に出ることなど許されなかっただろうが、それでもクスクスと笑って大人の目を盗み、時には春の夜桜見物に繰り出したのではないか。
 カマキリを捕まえ、蛙を追いかけ、時には蛇に驚いて……普通の子供のように悪戯をしたりと、そんな姿を夢想した。
 そこにはきっと総二郎がいて、あきらがいて、……司がいて。
 そして、そんな彼らを見守り、時には窘める静の姿があったのに違いない。
 …ここには類の歴史がある。
 彼の親友たちの。
 そして、類が愛した…女神の如く崇め、恋した一人の少女の軌跡があった。
 ふいに、本当にふいに、大人になった…つい最近再会した、病み疲れた静の寂しげな横顔が脳裏に蘇って、ドキリと胸が甲高いイヤな音を立てる。
 …ここは私がいるべきところじゃない。
 つくしではなく、‘彼女’こそがいるべき場所だったのだと。
 そんな思いがジワジワと湧き上がって、馬鹿な連想を振り払うように、つくしはゆるゆると首を横に振った。
 「つくしさん」
 「……え?あ…はい」
 ビクッと肩が揺れる。
 空想に蝕まれ、一瞬自分以外の人間の存在を忘れ、咄嗟に類の父が自分を呼びかけているのに気がつかずに驚かされてしまう。
 しかし、そんな彼女の不審な行動は類の父には気づかれなかったようで、居住まいを正し、彼はあらためてつくしへと向き直って……頭を下げた。
 …え?
 「まず、あなたに謝罪したい」 




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※欧米では基本、店員が酒を注ぐ。そうでない店でも、女性が男性にお酌をするのはマナー違反。
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