「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0705

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 夕方には昼寝をしていた恵里香も起き出してきて、一緒にハイティーを楽しんだり、絵が趣味だという彼女の作品を披露してもらったりと、類の父と…というよりむしろ恵里香と女同士の楽しい時間をつくしは過ごした。
 名家の花沢家の夫人だ。
 楓のことを思い起こしてももっと権高い人を想像していたが、長く外交官という仕事についていたせいか、恵里香は社交的で明るく楽しい女性だった。
 もちろん外交官はエリートだ。
 中にはつくしの想像していたどおりの権高く、気位の高い人間もいるのだろう。
 道明寺家の若夫人として社交界で出会った人たちにしても、いろいろなタイプの人たちがいて、それは庶民と同じく、一概にこうした世界の人間だからこうした人間しかいないというわけではなかった。
 「ふふふ、私たちって、姑と嫁というより、仲の良いお友達になれそうね」
 「そうですね」
 実際に年齢的にも34才のつくしと43才の恵里香とでは、一回り近くも年齢差があるが、それくらいの年齢差ならば、職場の同僚たちにもいくらでもそれくらいの年齢差の人間がいて、友人とまではいかなくても良好な関係を築いている。
 一方男たちの方は正真正銘、実の親子だというのに、話が弾むどころかそれぞれのパートナーがそばを離れると、仕事の話に終始したらしく、それも一段落するとそれぞれの執務室に引き上げ、持ち帰った仕事をしていたらしい。
 類も基本は仕事を持ち帰らないのが基本なのだが、実家に帰って来て社長に会ってしまったことで、2,3片付けなければならない案件を押し付けられてしまったのだとか。
 「……だから、イヤだったんだよ」
 ため息をつき、類はうんざりと手元のパプリカで作ったカップに入った肉詰めもどきをつつきまわしていた。
 恵里香が夕方から実家に帰っていることもあって、夕食くらいは気兼ねしない方がいいだろうという類の父の配慮で、類とつくしの二人っきりのディナー。
 「ちょっと、嫌いだからって一口くらいはちゃんと食べなさいよ?子供じゃないんだから」
 類はパプリカも嫌いなら、動物性タンパク質も苦手な男だ。
 …まだしも魚介類とか鶏肉だとかだったら、食べるんだけどね。
 チラチラと上目遣いで彼女の顔を窺う類を、つくしが睨めつけると、ハァとため息をつき、仕方なさそうに類もつくしの注意を聞き入れ、ナイフで料理を一口大に切り分け、苦虫を潰したような顔でイヤイヤ口に運んでいる。
 「ん~、美味しいわぁ」
 つくしが感嘆の声を上げる。
 …こんな美味しいお料理が、あんな顔してしか食べられないなんて、ほんと贅沢っていうか、勿体無いわよね。
 本当に、好き嫌いが多い人ほど、人生を無駄にしている人間はいないのではないだろうか。
 ほとんど好き嫌いのないつくしからすれば、そう思う。
 「……普通、久しぶりに息子が帰ってきたら、嫌いなものなんかは出さないで、好物を出すよね?」
 もっともなボヤキではある。
 が、
 「しょうがないでしょ。日本にいるくせにあんたがめったにお屋敷に寄り付かないせいで、古くからいる元々のシェフさんはこのお屋敷じゃなく、金沢にある花沢系列のフレンチレストランに移動になっちゃってるって言うじゃない。お父様たちが連れてらしたシェフさんは、あんたの好みなんて知らないんだから」
 ある意味、類の自業自得。
 一応は、花沢家のシェフもアレルギー等には配慮したのだろうが、類だけではなく、つくしにもアレルギー等はなかったし、聞かれた好き嫌いにしても、類の場合は好きなものを提示した方が早く、いくつか好きなものは言っておいたのだが、さすがになんでもかんでもカバーするというわけにはいかなかったらしい。
 もちろん類の数少ない好物も出ている。
 しかし、つくしにしてみても、彼の好みをある程度網羅できるようになったのは、一緒に暮らし出してしばらくしてのことだ。
 子供時代から一緒にいるわけではなく、接触もほとんどない継母の恵里香や類の父親が、類の好みを承知していなくても仕方がないことだっただろう。
 ごく一般的な家庭で育ったつくしからしたら、いかにも寒々しい話だが、類の父親はほとんど息子と一緒に食事を取ったことがなかったそうで、彼の偏食をまったく承知していなかった。
 もしかしたら類にとって、両親との食事は、ビジネスでの会食と大して代わりがないのかもしれない。
 「これだけ偏食ばかりのくせに、よく会食とかで取引先の人と一緒できると思ってたけど、それでも一応は我慢して食べてたわけね」
 「……フリだけどね」
 「もうっ、しょうがないわね。その肉詰めこっちに寄越して。こっちのフルーツグラタンは、あんたにあげるから。これならあんたも好きでしょ?」
 「メイプルのだったらね」
 「ワガママ言うな」
 一刀両断。
 類もさすがにそれ以上は言い募らない。
 「いいよ、半分で。お前もそれけっこう好きだよね?」
 「あんたの影響でね。でも、まあ、さすがにあんたの嫌いなもの丸ごと食べてたら、自分の分なんて食べれないからさ。こらっ!一応出されたものは一口でもちゃんと食べるっ!」
 「……あい」
 もはや恋人というよりは、口煩い母親のようなものだが、テキパキと指示を出すつくしの指示通り、類も一応はどの料理にも口をつけている。
 いい大人のことだ、むしろそうそう偏食は治ったりはしないが、それでも一緒に暮らしたこの2年で、多少なりとも類が食べるようになったものは増えている。
 そもそも類が日本に帰って来た当初は、今よりもずっと偏食は改善していたはずなのだ。
 …やっぱり人間って甘やかしすぎたらダメよね。
 「………ハンストするよ」
 「は?」
 「毎日嫌いなもので、食卓埋められるくらいなら、俺、絶食した方がマシだから」
 「ははは、いくらなんでもそこまでは…」
 ちょっとだけ目論んだのがバレたのか、類にジト目で見られて笑って誤魔化す。
 たしかに類は、やりたくないことはとことんやらない男だ。
 嫌いなものを無理強いされるくらいなら、たしかにハンガーストライキくらいはやってのけそうだった。
 「でも、せっかく里帰りしたのに、お夕食をお父様とご一緒しなくて良かったの?」
 「いいんじゃない?」
 「え~」
 そもそもめったに会えない親子の交流を深めるための実家泊まり。
 おそらく恵里香が外出したのも、なさぬ仲である自分がいては、話せる話も話せないだろうという気遣いだったのではないだろうか。
 もちろんめったに日本に帰れないのは、常に夫の転勤先にもついて回っている恵里香も同様のこと。
 たまの帰国に親元に顔を出したいというのも、人情というものだから本音なのだろうし、日本に彼らがいるのもそう長いことではなく、来週半ばには再びヨーロッパに戻ることになっているとつくしも聞いていた。
 …親子水入らずでっていう意味では、私もついて来なかった方が良かったと思うんだけど。
 けれど、正式に婚約したことの報告も兼ねての顔合わせだったのだ。
 さすがに類一人で…というわけにもいくまい。
 それにそもそも、類一人では業務命令でもなければ、けっして父親の滞在しているこの実家には来なかっただろうから。
 「だいたいオヤジと俺の二人っきりで、いまさら何を話せっていうわけ?」
 「うーん。趣味の話とか?」
 「…仕事?」
 「仕事?あんたの趣味が?」
 そりゃないだろうと面食らっているつくしを、類が呆れたように見やる。
 「俺の趣味が仕事のわけないじゃん」
 「だよね?」
 むしろ類が趣味と言ったら、寝るとか寝るとか寝るとか…三回言ってみる。
 いや、テレビ鑑賞も趣味のうちに入るのか。
 …あ、でも本を読むのも趣味か!
 やっと趣味らしい趣味を見つけて、つくしは満足した。
 「仕事が趣味なのはオヤジの方。ああ見えて、中身は道明寺家の面々とそう変わらないワーカーホリックだから。……ガキの頃はめっちゃ怖いオヤジで、スパルタすぎて、俺、マジで引き籠もりになったわけだしね」
 「……ああ。聞いたかも」
 今の類の父からは想像できない。
 類によく似た面差しのダンディな美貌は温和で、おそらく仕事となったらまったく違うのだろうが、恵里香に対する態度からしても、一家庭人としても大らかな人物のようにつくしの目には見えた。
 「たしかに、恵里香さんと再婚してからずいぶん丸くなったっていうか、かなり温厚になったみたいだけど、俺と二人の時はほとんど会社の上司と部下そのまんま」
 「そ、そうなの?」
 「……けっこうアレで不器用な人だからね」
 そして類にしても、人付き合いが得意とは言い難い。
 類の父が息子を厳しく教育しすぎたせいで、そのとうの類が精神的に病んでしまい、今度は放任になったのだと、遥か昔、総二郎から聞いた覚えがつくしにもなんとなくある。
 …美作さんからだっけ?
 類の言いようからして、父親を恨んでいるフシはないのだが。
 不器用だと言っていることからして、ある程度は大人になって、そうした父を理解できるようにもなったのかもしれない。
 けれど、理解できたとしても、許せるものだとは限らない。
 また、拗れた関係を修復できないこともある。
 類もまた親との相克を抱え、彼なりに消化してきたのだろうーーーつくしと同じように。
 …関わり合いたくないなら、関わらなくてもいいって言ってたものね。
 それはきっと、単なる一般論からのアドバイスではなく、彼自身が長い年月の中、親との関係で出した‘答え’だったのではないだろうか。
 「ここに長居すればするだけ、俺、余計な仕事を押し付けられる気がする」
 「……ははは。でも、あんたのことだから、案外、無理なことは無理ってあっさり断っちゃうんじゃないの?」
 当然だと類が大きく頷く。
 「そりゃそうでしょ。やれるからって、なんでもかんでも引き受けてたら、それこそ寝る暇もなくなっちゃうじゃん」
 …できるのに、やらないんかい。
 胸を張ってそんなことを言い切られ、つくしは一気に脱力した。
 ガクゥ――ッ。




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