「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0703

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 類の父との再会は心弾むものとは言えなかったが、それでもそこはかとない歓迎ムードのせいだろう、つくしにとってこの花沢邸への訪問はそれほど気不味いものではなかった。
 「そうなの。では、牧野さんもずっと仕事をされているのね」
 花沢夫人だというその女性は、類にまったく似ていない。
 彼の母親だというには若く、おっとりとした可愛らしい女性で、どうかすると類の姉かその恋人だと言われてもおかしくないように見えた。
 それもそのはずで、彼女は類とは10才も年が離れていないいわゆる類の父親の後妻だった。
 実母は健在だったが、類を産んで以来体調を崩しがちで、静養のために長く一人でヨーロッパで暮らし、夫とも別居が続いてすれ違いがちだったらしい。
 別に関係がマズくなったというわけではなかったが、二人の間の息子である類もとっくに成人していることから、そろそろ自分たちの老後の人生というものを考えてみてもいいのではないか、という結論のもと、つい10年ほど前に円満離婚をしたのだとか。
 だから今も双方には交流があるし、類もその気ならいつでも実母に会うことはできるのだが、主に発展途上国を回っていた類と、実母の間にはほとんど交流らしい交流がないらしかった。
 そうしたことも、サラリとこの花沢邸での会食の直前、何かの話のついでのように類から語られただけで、まったく何も知らなかったつくしは、この突然継母だと紹介された女性や、花沢家の事情に戸惑っていた。
 …聞かなかった、私も悪いんだけどさ。
 類はつくしにあえて隠し事をしないが、自分の話したいことを話すだけで、普通常識的に必要だろうそうした事情も、彼女に尋ねられるか、気が向かなければ自分から話さない。
 というか、思いつきもしないのかもしれなかった。
 …出だしが、ああ、そうだ、だったものね。
 「恵里香さんも、結婚されるまでは外務省でお勤めだったとか」
 「そうなの。長く仕事一筋だったでしょ?気が付けばこの歳で、ヤキモキしていた周囲も次第に諦めムード。私も仕事が楽しかったから、一生独身でバリバリのキャリアウーマンでもいいかな、なんてことも思っていたのよ」
 しかし、運命とはわからないものだ。
 恵里香がカナダ大使館の外交官として赴任した地で、類の父と出会い恋に落ち、……一生勤めようと思っていたその仕事さえも辞めることになるとは。
 その頃、類の父はまだ既婚者だったのだと言う。
 何年も顔を合わせることなく、遠い異国の地で別居し、ほとんど惰性で夫婦としての機能を果たしていなかったとはいえ、それでも特に離婚する気配もなかった花沢夫妻が離婚に踏み切った背景には、もしかしたら彼女の登場もあったのかもしれない。
 あるいは、類の父親がつくしに対して寛容な態度を見せるのには、そうした自身の過去の事情もあったのか。
 類の継母はおっとりとした人柄で、一見とてもそんなバリバリのキャリアウーマンだった過去ある女性のようには思えないが、歯切れよく快活に話し、話題も豊富でとても聡明な人物であることが容易に窺える。
 つくしに対しても礼儀正しく、継子の恋人という形式的なものだけではなく、柔らかく温かな心遣いで接し、彼女を歓迎してくれた。
 類にしても、馴染んでる…というほどではないかもしれないが、それでも自身の父の伴侶としての彼女を認めているのだろう。
 仕事ならばともかく、プライベートでは気に入らない相手にはどんな相手であろうと、愛想の欠片もなく下手をすれば無視することさえあるというのに、恵里香に話しかけられれば鷹揚に頷き、それなりに会話にも応じていた。
 まあ、どうみても類が気に入る人種とは思えない、つくしの両親―――晴男や千恵子にもそれなりにお愛想をしていたから、それが年月というもので、彼も大人になったということなのかもしれなかったが。
 そんなこんなでわりに和気藹々として、婚約者の家族との会食としてはまずまずの時間を過ごし、気が付けばコース料理も終盤に。
 つくしが口直しのプチフールを口に運んでいると、横からササッと類にマカロンを横流しされる。
 「なに?」
 「大好物でしょ?いつも俺のぶんも食べてるじゃん」
 つくしの顔が引き攣った。
 「る、類!いいよ、自分で食べて。もうお腹いっぱいだから!」
 「それくらい平気だろ?いつも、デザートは別腹とか言ってるんだし、なに急に遠慮してんの?」
 かあああっと顔に血が昇って、恥ずかしさに顔が上げられない。
 いつもはたしかに、甘いものが好きではない類がどうせ残すのがわかっていたから、当たり前のように彼の分ももらって食べていたが、よりにもよってこの席……初顔せではないにしても、恋人の両親との会食の場で、そんなことを言われてしまってはつくしの立場がない。
 …ただでさえお育ちが、とか思われてるかもしれないのに、どれだけ食い意地張ってんのかって思われるでしょっ!
 しかも若い小娘ならともかく、いい年も年、アラサーも半ば近くのいい大人の話だ。
 デリカシーのない類に言っても、「別に気にすることないよ」とか言われてしまうだけの話だろうが、つくしにだってなけなしの見栄がある。
 「私も、いただこうかしら」
 恥ずかしさに居た堪れないでいたつくしが、おそるおそるその声に顔をあげると、恵里香が横に座る夫ににっこり笑って、彼のマカロンをねだっていた。
 「いいけど、君にしては珍しいね。いつもはコーヒーにつくプチフールに辿り着く前に、もう満腹だとか言って、残すことも多いじゃないか」
 「あら、マカロンは私も好きなのよ、あなたも知ってるでしょ?いつも最後まで食べられなくて、本当に残念に思っているの。でも、今日はとても美味しそうに食べているつくしさんを見ていて、私まで何を食べても本当に美味しくて、……ちょっと食べ過ぎちゃってる気もするけど、でも、めったにないことですもの。美味しい食べ物を、さらに美味しく食べられるなんて、本当に素敵なことじゃない?」




*****




 食事を終え、昼寝の時間だからと恵里香が席を一時退席した。
 実際のところはわからないが、類の父は極めて紳士的で、女性の職場進出にも理解がありそうだ。
 それにも関わらず、外交官としてバリバリ仕事をしていたはずの恵里香が、そのまま官僚でいることは無理にしても、家庭に入って以後仕事をしていないということをつくしも不思議に思っていたが、恵里香は若年性更年期障害の症状に悩まされていた。
 彼女はまだ40代半ば、本来ならまだまだ更年期が訪れる時期ではないのだが、長年の激務やストレスからか、不眠や欝に悩まされていて、そうした理由もあって一時期類の父との結婚にも彼女は積極的ではなかったらしい。
 現在はその症状も落ち着いていて、閉経までには至っていないそうだが、恵里香の年齢もあり、おそらく今後も夫―――類の父との間に子供を持つことは難しいだろう。
 今回は前回のように、孫のことについて恵里香の前では話題には出なかったが、そうした意味でも類の父親には、息子とつくしの間の子に対する一言では言えない思いがあるのかもしれない。
 …そういえば、一人息子だっておっしゃっていたものね。
 そして、類の実母にとっても、と。
 それを聞いた時には、なんとなく妙な言い回しだと思ったが、こうして再婚相手とも引き合わされてみれば、なるほどと思う。
 恵里香が定期的に昼寝の時間をとることも治療の一環だそうで、寝室に引き上げるまで、彼女はつくしや類との名残を惜しんで、今夜はぜひ屋敷に泊まって行って欲しいと何度も誘ってくれていた。
 現在花沢夫妻はフランス在住で、前回の類の父との初顔合わせ以来半年もの期間が空いてしまったように、一度別れてしまえば、たとえ親子であってもそうそう会う機会を持てないほど、互いに多忙なのだ。
 自分のことはともかく、類とその父親のことを思えば、もう少し親子の交流を持たせてあげたいという気持ちがつくしにもある。
 …どうせ、私は明日も休みだし。
 類の方は出勤だが、それは彼の父親にしても同様で、どうせ同じ場所に出勤するのだ、花沢邸から一緒に会社へ行ってもまずくはないだろう。
 おそらくそういう意図もあっての、恵里香のワガママなのに違いなかった。




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