「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0702

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 おそらくこの部屋を戒の他に見る人間がいたとしたら、まるでここだけ局地的に竜巻か嵐でも過ぎ去ったのかと思ったことだろう。
 もちろんそれは比喩にすぎないが、いつもは美しく整えられ清潔に保たれた彼の私室は、かつて調度品だったもので散乱していた。
 彼の逆鱗と癇癪を恐れ、戦々恐々と屋敷内で立ち働く使用人たちは、なるべく戒を刺激しないように息を潜ませていた。
 だが、室内を窺うSPや使用人たちの予想とは裏腹に、その散乱状態もまさに極めて局地的……彼の私室の中にあってさえごく一部、居間だけのことで、それも屋内廊下側に面しているところだけのことだとは思っていなかったに違いない。
 しかも、屋内廊下へと面するドアの前は散乱しているというよりも、整然と家具類が緻密に積み上げられ、堅固なバリケードと化していた。
 そして、そうした状態の部屋正面とは真逆に、今彼が座っているソファ周辺やミニバーのあたりはもちろんのこと、寝室や洗面室、浴室、レストルームに至るまで、ほとんどがメイドたちに整えられたまま乱されることなく、綺麗に整理整頓された状態を保っている。
 基本的に戒もそれほど潔癖症というわけではなかったが、幼い頃からわりとキチンとしている性分だ。
 外に面しているバルコニー側の窓には、厚い遮光カーテンを引き、ほとんど暗闇の中、サイドテーブルのテーブルランプと彼が手に持ったスマートフォンの明かりだけが、わずかに部屋を照らし、なんとも陰鬱な様相を作り出してはいたが、それでも戒の表情には一片の悲痛さも狂乱の影も欠片ともなかった。
 当然のことだ。
 欲しいモノが手に入らないとただ駄々を捏ね、無意味に時間を費やしたところでいったい何になるというのか。
 それを戒は、これまでに何度となくイヤになるほど思い知らされてきた。
 欲しいものを手に入れたければ、どうすればいいのか、自分の望みを叶えるためには何をするべきなのか、自身の能力と知識、そして経験を糧として、フル回転で頭を働かせなくてはならない。
 幸い彼の父母は明晰な頭脳を彼に与えてくれたし、道明寺家という環境は彼に最高の教育を施してくれた。
 そして逆境は反骨心を。
 猛スピードでスマホの画面を繰ってゆくうちに、うっかり関係ない部分に指先が触れてしまい、画面が白くスパークする。
 広告が完全に開ききる前に、クローズを選んでページを閉じてしまう。
 だが、どうやらそれで長時間に及ぶ作業への集中力も途切れてしまったらしい。
 ため息一つを落とし、妙な姿勢のままでいたせいの疲労を感て、痛む首周りを回して、気休め程度にでも凝りを解す。
 そして、そのままソファの背もたれに仰向けに寄りかかって、戒はしばし目を閉じた。
 先程まで意識していなかった眼精疲労が、ジワジワと彼の眼球を圧迫し、滲みるような痛みを感じ出している。
 目の上に掲げた腕時計の針は、あっという間に進んで、いつの間にかすでに朝の時刻を指し示していた。
 「………もう7時か」
 そろそろメイドが、朝食の有無を尋ねにやってくるはずだ。
 もちろん戒は顔を覗かせたりしないし、メイドはもちろんのこと、他の誰も室内に入れるつもりはなかったけれど。
 ~~ぐうぅ。
 気分はともかく、育ち盛りの体は正直だ。
 ほとんど徹夜明けの今朝、空腹が身に染みている。
 「なんか食べるか」
 その前に…と、昨日のうちに選んでおいて、ソファ周りに並べて置いたフォトスタンドや、2,3たわい無い置物類を無造作に、廊下側のドアに立てかけてある家具や床に向かって派手に叩きつける。
 ガッシャ―――ッン。
 グワッシャッ!
 バン、ガンッ、ドシャッ!!
 ブツけた物の大きさや数の割に、音がいやに派手なのは、あえて彼が狙ってブツけているキャビネットのガラスドアが砕けて、破片を散らす音が加わっているからだ。
 ドアの向こう側、昨夜も寝ずの番だっただろうSPたちが、息を呑んで微かにざわめきを洩らす。
 …やっぱ一個一個単体で壊すのも、なんか単調だよな。
 かといって、頭に血が上った時の父のように、まとめて薙ぎ倒して壊してしまうと、今は良くてもいずれ在庫に困ることになってしまう。
 そこが籠城の難しいところでもある。
 今のところ、こうしてたまに暴れてやることで、その物音が彼の安否確認となって外の連中を安心させていた。
 もし少しでも、体調不良や精神不安定の兆候の疑いでもかけられてしまえば、総執事長を介して司がSPたちを突入させるだろう。
 そうなってしまえば、戒も万策が尽きる。
 …まあ、そうなっても諦めないけど。
 とりあえずは一段落ついたのだと見越したらしい総執事長が、おずおずとドア越しに遠慮がちに声をかけてきた。
 『ぼ、坊ちゃん、ご無事ですか』
 「…あふぅ」
 つい出てしまいそうになるあくびを噛み殺し、不機嫌で陰鬱な声音を作って、わざと癇性に怒鳴りつける。
 「なんだよ、あの警備の連中はっ!?俺のことは放っておけって言っておいただろ、スミスっ!?」
 『戒坊ちゃん、若旦那様のご命令です。そこに引きこもるのは辞めて、出ていらして下さい。そして、SPたちから行ってはならないと忠告されている地域に、出入りされることをお辞めください。危険なことはなさらないと、約束されたはずです』
 「……誰の命令だって?そんな約束誰ともした覚えないぜ?第一、たとえ俺がここから出たにしても、今度は屋敷内での軟禁になるだけだろ?多少広くなるだけで、行動の制限がされることには変りがないじゃないか」
 これまでの司は、ある程度のことは社会勉強だと、ちゃんとSPを連れ歩き彼らの忠告にさえ従っていれば、かなりのことも大目に見ていた。
 それは自身が見たことのない視野を広げよ、という教育的配慮だったのかもしれなかったし、たとえ他人が眉を潜め叱咤するだろうことをしても、司は滅多に口を出してはこなかったのだ。
 そうしたことがやがては戒の糧になると思っていたのではなかったか。
 あるいは、やはり単なる放任でしかなかったのかもしれなかったけれど。
 あれやこれやと説得してくる総執事長の言葉を聞き流し、カーテンを敷いた窓辺へと歩み寄って、分厚いカーテンをわずかにめくり、隙間から外の様子を窺う。
 さっと入ってきた朝日の眩しさに閉口して、光から顔を背け、それでもやがては慣れてきた戒の目に、朝靄の中に立つ幾人もの人影が映った。
 皮肉に笑んで、緩く首を振る。
 「………朝っぱらから、ご苦労なことだよな」
 正直な感想。
 どの道、戒が騒ぎを起こさなくても、こういった事態になり得たのだ。
 彼がジーナを捜すことをやめないかぎり。
 父に命じられたSPの忠告に従わない限り。
 それとも、父が遠ざけただろうジーナに、彼が接触しようとし続ける限りだろうか?
 …それなら、俺のことをまだ単なるガキだと、あいつらが思っているうちの方がいい。
 業を煮やした司によって、海外に飛ばされてからでは、さすがの戒にもどうにもできやしないから。
 たとえアメリカ国内に止まれだとしても、アメリカ合衆国はあまりに広い。
 伯母の元に送られてしまっても、海外へと追いやられることと同義だった。
 常に彼を追尾しているSPたちをまかなければ、どうしても行動の自由を制限をされてしまう。
 だが、彼らはどんなに戒がそう望んだとしても、司の命令でなければ本当の意味では戒の命令になど従いはしないし、プロである彼らを戒がそう簡単に振り切れるはずもない。
 …それに、俺を監視してるのはロビンソンたちだけじゃない。
 おそらく戒には、身辺警護をするSPたちの他にも、身辺調査をする監視員がつけられているはずだった。
 「…ふぅん、たしかに外からのアタックには鉄壁だよな」
 道明寺邸は元々警備が厳しい。
 戒のことがなくても、常に朝夕関係なく、それなりの警備体制が敷かれ、主の命令一つで人の出入りが制限される。
 しかし現在は、その警備にプラスして、館の主の息子である彼を囲う監獄と看守の役割を果たしていた。
 戒は再びカーテンを閉め直し、滔々と説得を続ける総執事長が頑張っているドア口付近、先ほどまで座っていたソファへと引き返した。
 『わたくしにはされていなくても、若旦那様とは約束されたはずです』
 「俺がしたのは、無断で外泊をしないこと、女友達の部屋に長時間入り浸らないこと、節度ある交際?をすることだっけか。それくらいで、他には特に何を言われた覚えもない。……なんのことかわからないな」
 何食わぬ口調で、いかにも総執事長の説教を聞いていたフリで反論する。
 使用人を通じての司の伝達を無視し、直接命令されることを忌避して電話を着信拒否するだけでなく、さらには父から送られたメールをも開いてもいないのだから、戒には父の意思を知りようがあるはずもない。
 もちろん詭弁だ。
 たとえ一方的なものであったとしても、父からの命令を受けてしまえば、それは約束したも同じこと。
 逆らえば、昨年ロスアンゼルスの伯母のもとへと強制送致されたように、戒はニューヨークから追い払われてしまうことだろう。
 …今度こそ、どこか適当な海外の寄宿舎にでも送られるか。
 滋の娘の萌菜のように。
 そうなってしまっては元も子もない。
 とてもではないが、司の目を掻い潜ってジーナの行方を捜すことなどできはしない。
 今しかないのだ。
 『ならば、今、私と約束されてください。約束さえしてくだされば、私から若旦那様に進言いたします』
 「断る」
 ガッ、ガッシャーンッ!!
 手に触れたテーブルランプを思いっきり床に叩きつけ、見事なステンドグラスの傘を粉々に砕く。
 甲高い破砕音は実際の被害よりも大袈裟に聞こえたことだろう。
 『坊ちゃんっ!』
 「……ふわわわわ、眠い。俺は今から寝るから、邪魔するなよ?」
 今度こそこみ上げてきたあくびを堪えることなく、思いっきりしてやり、戒は寝室へと向かった。




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