「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0700

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 「あ…ああ、ええ」
 司との結婚を知っているのだから、当然離婚も知っているだろうし、司の妻時代は海外を転々としていたことの事情も、ある程度静も察していたに違いない。
 いつの地点から東京に戻ってきたのかと問われれば、司の転勤に伴っての帰京よりも、やはり隼斗と離婚してあらためて東京に戻ってきた時のことを言うべきだろうか。
 しかし…。
 「2年…程前に岡山から、こちらへ戻ってきました。2番目の夫と、道明寺と離婚した後に再婚した人との離婚を機に」
 言う必要はなかったかもしれない。
 けれど、隠しておけなかった。
 もしかしたら、「それで、今は?」と聞かれることを期待していたのかもしれない。
 尋ねられることを恐れる気持ちとは裏腹に。
 だが静は、それ以上突っ込んで質問を重ねることなく、わずかに表情を曇らせ、伏し目がちに自らのことを語った。
 「そう。…私もね、今、娘と二人でこちらで暮らしてるのよ」
 「……娘さんと二人で」
 離婚してのことなのか、あるいは別居なのかはわからないが、しかし、その行間にはさまざまな事情があるのだろう。
 たとえ夫と暮らしていないにしても、静は藤堂商事の社長令嬢だ。
 藤堂商事の規模と藤堂家の家格を考えれば、司や類同様、広大な家屋敷を構え、多くの使用人を抱えているのに違いない。
 本来なら、一人娘の闘病生活を支えるくらいのことは、難なく果たせるはずだ。
 「私がこんなことになってしまっているから、さすがに小学生の娘を一人にはできなくて、古馴染みのお手伝いさんに一人来てもらって面倒を見てもらっているの。それがさっきの人」
 なんの病気なのか、と聞いてもいいだろうか。
 いや、身内やそれに類するごく親しい人ならばともかく、やはりほとんど知人に等しい自分が聞ける立場ではないと、つくしは言葉を飲み込んだ。
 「牧野さんは、お友達のお見舞い?」
 「へ?」
 思わず素っ頓狂な返しをしてしまい、慌てて静の視線の先を追って、静がつくしの持っている見舞いの品を見ているのに気がついた。
 「あ…いえ、その…えっと、はい」
 誤魔化してしまった。 
 それこそそんなつもりはなかったのに、静の勘違いをいいことに惚けてしまったのだ。
 だが、だからといってもし否定すれば、なぜ今ここにいるのかという理由を答えなければならない。
 つい先ほどまでは、静の言葉かけからきっかけを得ようとしていたのに、いざ、水を向けられてしまうと口にすることができなかった。
 ただ知人として、偶然静の入院を知り、自分がかつて勤めていた病院という縁もあって、見舞いに来たーーーそんないいわけが通るだろうか。
 …ダメだ、思いっきり不審すぎる。
 かといって、類のことを話す、そのことにまだ躊躇を覚えずにはいられない。
 類の話がでれば、当然、今のつくしと類の関係を静に話さなければならず、いくら類と静が幼馴染みとは言え、幼い日も遥か遠い今になって、類本人ではなくつくしが、わざわざ彼女の見舞いに来た理由を、どう説明すればいいというのか。
 そして、類と静のかつての関係を知らぬ存ぜぬで通すのか。
 だが逆に知っていると告げて、それでどうすればいいのだ。
 「ごめんなさいね。つい懐かしくて、すっかり牧野さんを引き止めてしまったわね」
 「ああ、いいえ。私こそ、具合が悪くて入院されている静さんを、こんなに長々と引き止めてしまって」
 「循環器棟?それとも消化器棟?」
 「はい?」
 「お友達が入院されている病棟」
 「あ~あぁ」
 静が入院しているフロアは、ラウンジとエレベーターを間に挟んで、右左で循環器棟と消化器棟に分かれている。
 他のフロアもおおむね似たような造りで、たとえば産婦人科階なら、右を産科、左を婦人科というように分離していた。
 当然、双方の医者や看護師の行き来はあるが、患者は基本行き来をしない。
 「えっとぉ、……しょ、消化器棟です」
 悩んで、静の、入院している病棟とは別の病棟を騙ってしまう。
 「そう。それは残念ね。また、お友達のお見舞いにいらした時にでも、偶然会えたりしないかと期待したのだけれど」
 「あ、そのっ…また、来ます。えっと、そのついでに…」
 静に会いに来ることをついでに、と言ってしまっていいのか遠慮する気持ちと、かといって静を目的に会いに来るほど、自分たちは親しいのかと遠慮する気持ちと。
 高校生の頃と変わらない。
 つくしにとって、静はあまりに眩しくて、遠い存在すぎて、ライバルとして前に立つことさえできない。
 そうしたいとさえ、思いつきもしなかったかつての自分。
 …私ったら進歩ないな。
 「ありがとう、とても嬉しいわ。…でも、そうね、ちょっと待っていてくださる?」
 「はい?」
 静がキョロッとラウンジ内を見回して、一言つくしにいい置き、席を立つ。
 そして、入口付近に設置されている公衆電話の横に備え付けてある、ボールペンとメモ用紙を手に取り、サラリと何事かを書き込んでいる。
 「これを」
 戻ってきた静がつくしへと、両手でメモ用紙を差し出した。
 「これ…」
 「私のプライベートの携帯の番号。…今回は急な入院だったでしょ?しばらくは仕事に復帰するのも難しそうだから、名刺を持ってきていなくて」
 「あ……」
 慌ててつくしもソファ横に置いておいたハンドバックを手に取って、中から名刺を取り出し、裏側に自分の個人携帯アドレスを書き込んで静へと差し出した。
 「ありがとう」
 あえて住所を書き込まなかった意図を、静が察することはないだろうとは思いつつ、それでも胸がドキついた。
 「じゃあ、また。気をつけて」
 「はい、ありがとうございます。……お大事に」
 柔らかく微笑んだ美貌に、かつての…若き日との静のハツラツとした顔が重なった。




*****




 ドンドンドンドンッ、ドンドンドンドンッ!
 ガァン―――ッ!!
 「くそっ!」
 思いっきり建付の悪い粗末なドアを蹴り付け、戒は悪態をついた。
 それでも一応は壊さないようにと気を使ったつもりだったが、家主が在宅だったなら、さぞかし頭から湯気を立てる勢いで彼を怒ったことだろう。
 だが、その家主であるジーナと、戒はここ2週間近く連絡がとれていなかった。
 戒がロスアンゼルスに強制送致されていた頃ならば、よくあることだと、戒も自分をある程度は宥められたに違いない。
 しかし、今回は事情が違う。
 携帯が通じないどころか、ジーナは少なくても、戒がそのことに気がついたこの10日間、一度もこのアパートに帰っていなかった。
 …ジュリオも学校を辞めた。
 しかも、ある意味戒が遠因での退学だ。
 「ジ――ナぁああっ!!」
 「ちょっと…また何を騒いでるんだい?」
 廊下の向こうからこちらへとやってくる足音とともに、呆れたような声がかけられる。
 だが、ドアに両手をつき顔を俯かせたまま、戒は振り向かない。
 「……まったくこのお子様は、可愛い顔して、いつ見てもロクに挨拶も返さない愛想なしだよ」
 ボヤく言葉を一顧だにすることなく、戒は踵を返した。
 ジーナがいないのなら、こんなところに長居をしても仕方がない。
 「ちょっと!坊や。毎回毎回、ここ来ちゃあ騒ぎたてて、こっちはいい迷惑なんだよっ」
 無視し続ける戒に業を煮やしたのだろう。
 女が戒の腕を掴もうとして、逆にその腕をひねりあげられてしまう。
 「いた、いたたた!なんだい、あんたたちっ!?」
 女を止めたのは、戒に付き従うSPの一人だ。
 見るからにいかつい男に手を捕まれ、女の顔にあきらかな怯えが浮かぶ。
 が、
 「せっかく人が、親切にも教えてやろうと声をかけてやったっていうのにっ!」
 戒がわずかに足を止め、女を振り返る。 
 その視線に、女がニヤリと笑う。
 「ジーナならいないよ。あの子は、ここを引っ越したんだからね」





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