「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0699

 ←愛してる、そばにいて0698 →愛してる、そばにいて0700
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 ヘタをすればつくしよりもむしろ母親年代にも見えたかもしれない。
 苦笑して落ちてきた前髪を、耳にかける静の手指は細く美しく、伏し目がちな横顔はさすがに大女優のように美貌だったが、しかし、久しぶりの再会で、つくしが目を疑ったほど静は老け込んでいた。
 …入院患者さんの中には、確かに実年齢よりも年配に見えてしまうような人もいるけど。
 何とも言えずに言葉に困っているつくしに、静がクスリと笑う。
 今度の笑みは、先ほどまでの苦いものを含んだものとは違い、本当に思わずといった感じの明るいものだった。
 それだけでその場が華やぐほどに美しく、わずかでも昔の彼女の面影を蘇らせる。
 「ふふ、困った顔。…相変わらず牧野さんは率直な人なのね。普通、こんな時には、人は適当な社交辞令でお茶を濁してしまうものなのよ」
 「静さん」
 「ごめんなさい。私ったら、病気のせいばかりでなく、仕事柄人の反応を見るのがクセになってしまったみたいで、人が悪くなってしまったのね。困らせてしまったわ」
 「……いえ」
 自虐的というには虚ろな明るさだったが、それでもつくしを困らせようとしたというよりは、静の本音と…そして苦痛を感じた。
 人は誰しも病気になれば弱気になるものだし、どんなに強い人間でも、卑屈になってしまう時もある。
 やはり双方どこか遠慮がちではあったが、それでも久しぶりに会った旧知の知人として、失礼にあたらない範囲で互いに情報交換をしてゆく。
 岡山での再会はほとんどすれ違いに等しく、静とこうして話すのはそれこそ高校時代、非常階段で類と二人でいたところへ、どこかへ行くという静が彼を迎えに来て以来のことか。
 …昔のことなのに、あんがいよく憶えてるものなんだな。
 お似合いの二人が楽しそうに話している様子を、もの寂しく眺めていた時の気持ちと共に。
 「たしか牧野さんと最後に会った……ちゃんとお話したのって、熱海に司のクルーザーで行った時が最後だったかしら?」
 どうやら同じようなことを考えていたらしい静に指摘されて、ハッと我に返った。
 「いえ…、その後、一度だけ」
 「そうだったかしら?」
 少しだけ考え込むようだった静がポンと両手を重ね合わせる。
 「ああ、そうだったわ。牧野さんを私の誕生パーティに誘った時よね?」
 今度はつくしの方がキョトンとする方だった。 
 「……さすがに憶えていないかしら?」
 悪戯っぽく微笑む静の様子からして、気を悪くされたようではなかったが、あのあたりのことはかなり記憶も前後していて、当然忘れていることも多い―――もちろん、記憶喪失とは関わりなく。
 だが、静が自分を誕生パーティに誘ってくれるつもりだったことはなんとなく憶えていた。 
 「あ……すみません。その節は」
 「いいのよ。たしかインフルエンザだったかしら?かなり具合がひどくて、しばらく学校も休んでいたと聞いているし」
 「………………」
 もちろんそんな理由で学校を休んでいたわけではなかったけれど。
 「私の方こそ、お見舞いにも伺わずにごめんなさい」
 「……いえ」
 本当に病気だったわけではないのだ。
 来られてしまってもかえって困ったことだろう。
 そもそもあの頃、つくしは道明寺邸にいた。
 「私自身、身辺が慌ただしくなってしまったこともあるし、………司にお見舞いを断られてしまったこともあるわね」
 「え?」
 ギョッと静の顔を振り仰ぐ。
 「私が家を出て、フランスに戻ってしまったことで、類が私を拒絶するようになって……私だけで牧野さんに会うのを遠慮してしまったということもあったかしら」
 わかっていたことなのに、‘類’の名前が静の口から出たことで、つくしの胸がドキッと音を立てる。 
 …私はいったい何がしたいのよ。
 静の眼差しはどこまでも静かで、なんの含みもないように見えた。
 ただその美しい顔に浮かぶのは、懐かしさと痛み、そんなものようにつくしに感じられる。
 古き良き時代である学生の頃、青春時代というものを懐かしみ思い出しているのか。
 それとも…。
 「あの……私が以前、司…いえ、道明寺と結婚していたことも、静さんはご存知なのですよね?」
 問われて動揺を晒してしまう前にと、自ら話題に乗せてしまう。
 「ええ?」
 「……その、そのことはどう?」
 しかし、いざ口に出しても、それ以上なんと聞いていいのか困ってしまう。
 けれど、つくしのカタコトに近い言葉だけで静は察してくれたようだ。
 「あの頃は…そうね。とても驚いたわ」
 「……………」
 「もう時効だと思うから話してしまうけれど、あの頃、牧野さんが司を好きなようにはとても見えなかったから」
 それはそうだろう。
 実際、そんな事実などなかった。
 「…それに、牧野さんはてっきり、類のことが好きだと思っていたのよ、私」
 「え?」
 「違った?」
 困ったような、けれど確信に満ちた静の微笑みは、けっしてつくしに対して、負の感情を帯びることなくどこまでも優しく慈愛深い。
 「……そうですね。たぶん、あれが…彼への気持ちが、初恋というものだったんだと思います」
 時効だと言われたから、たぶんつくしも素直に認められたのだと思う。
 かつて類が好きだった人。
 そして、おそらく今もなお忘れがたく、こだわらずにはられない人。
 何度となく思い浮かんだ感慨に、自分がどうして確証もないのにこうして彼女に会いに来てしまったのか、その理由に思い当たった。
 …静さんだからだ。
 そうとしか言いようがない。
 自分のボキャブラリーの少なさに笑ってしまう。
 「…牧野さん?」
 いつもまにか内心だけではなく、表に出して笑ってしまっていたらしい。
 「あ、すみません。なんか、こうしてあらたまって、静さんに学生時代の恋バナなんかをしてるのが我ながら意外で」
 「そうね。私の方があなたより3才も年上だったし、まだ友達というほどには親しくなかったものね」
 「ええ」
 まさに彼女と自分の間にあったのは、‘類’という存在だけで、それもつくしが彼に恋していたというだけの一方的なものだったのだ。
 静にとっての自分など、おそらく類の周りをウロつく取り巻きの一人に過ぎなかっただろう。
 「…………牧野さんは、いつから東京に?」




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0698】へ
  • 【愛してる、そばにいて0700】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0698】へ
  • 【愛してる、そばにいて0700】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク