「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0695

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 …つ、ついに来てしまった。
 久々に見る大学病院の威容は、わりに大きな総合病院に勤めているつくしにしてさえも、一際荘厳に見える。
 我ながら不審人物みたいだと思いつつ、キョキョロと周囲を見回す。
 こんなところで知り合いに出くわす可能性は何パーセントだろうか。
 少なくても、一見の外来患者よりは遥かに高い確率だろう。
 なんせ、ホンの数年前まで、この大学病院で働いていたのだから。
 案の定、
 「げっ、来栖さんっ!?」
 初診総合受付の前に立つ古馴染みの看護師の顔に、慌ててロビーを戻って、違う入口へと向かう。
 …前途多難。
 正直探られたくないことばかりの痛い腹だ。
 この病院には、ソーシャルワーカーとして初めて勤めた病院だという思い入れがつくしにもある。
 だが一方で、その上層部には司との繋がりがあって、また彼女が病院を辞める時にも、現在すでに離婚している男性との‘結婚’という寿退職をしている経緯があった。
 なんともバツが悪い。
 …あの浅井に再会したのも、そういえばここでだっけ。
 ゲンも悪い。
 …来栖さん以外には、もう私のことを知ってる人は誰一人いないとか、さすがに都合が良すぎてありえないか。
 わりに大学病院は、医師や看護師の入れ替わりが激しい。
 医師の場合は他病院への異動や派遣、開業など、さまざまな要因で、看護師の場合は、激務な上に勉強会や研究会も多いこと。
 またそれでいて、他の病院では看護師が担当する点滴や注射、時には採血までも研修医の職務となっていて、何年勤めようとも看護技術が身に付かない、ということが理由での退職も少なくなかった。
 他のスタッフにしても、似たような事情だ。
 …それにしても。
 来てみたはいいが、つくしには知り合いに会ってしまうかもしれないことの他にも問題があった。
 果たして、本当に静は今、ここに入院しているのか。
 …数年前には確かにしていたらしいけど。
 もしかして…というだけで、本当に現在彼女がこの病院に入院しているどうかもわからないのに、わざわざこんな因縁深いところにまで来てしまった自分に苦笑してしまう。
 「どうしようかな。今の時間帯だと、たぶんもう30分もしたら準夜勤の看護師の交代時間よね」
 来栖が頑張っていた受付を通らずとも、目的の循環器内科の入院棟へ行ける道はあるし、仕事中の来栖がそうそう周囲をキョロキョロしているとも思えない。
 おそらく何食わぬ顔で、スラ――ッと通り抜けてしまえば、広いエントランス内のこと、そうそう気がつかれはしないとは思うのだが。
 「うーん、でも、あんがい、知り合いには目が行っちゃうものなのよね」
 どうしたものか。
 さらには循環器内科の入院棟に勝手知ったるなんとかで潜り込んだとしても、静の病室がわからないという問題もあった。
 個人保護法の厳しい昨今、いくら受付で患者の知人だと名乗っても、患者本人かその家族から病室を聞いてくれと指示されるばかりで、教えてなどもらえない。
 あてずっぽうで面会記録に面会相手の名前に静の名前を書いて、実際には静が入院していなかったりしでもしたら…。
 …うう、どうしよ。
 類だったら、それでも平然としていそうだが、シラッとウソをつくのは、つくし的にはかなり難易度が高い。
 うっかりそのウソがバレでもしたらと思うと、せっかくここまで来た勇気そのものまでもが萎んでしまいそうだった。
 「わぁ…凄い美少年」
 ふいに耳に飛び込んできた声に、なんとはなしに気を惹かれ、声の主が見ている方向へとつくしも振り返る。
 …わ、本当に凄い綺麗な子。
 男の子に‘綺麗な’というのも妙な表現だし、少年の年齢的には可愛いが適切かもしれない。
 だが、少年はまさにそうとしか表現のできない美貌の主だった。
 一見して女の子のような甘い顔立ちだが、かなり短いショートヘアで、カジュアルなコットン地のシャツに、羽織った濃いネイビーのダウンベストとジーンズが少年らしい溌剌さを引き立て、よく似合っている。
 まだ体ができていない棒のような細く華奢な肢体は、ユニセックスで、背丈はつくしの肩先よりも少し低いくらいか。
 ショタコンの気のないはずのつくしでさえ、目を奪われずにはいられないほどに美しい子供だった。
 …ほえぇ、男の子でもああいう子って、本当にいるんだぁ。子役のモデルさんとかかな。
 女の子の立場がない気もするが、つくしの息子である戒からして、父親である司にそっくりの女の子顔負けの超絶美形。
 その戒と比べてさえ遜色のない少年の美貌は、だが、戒とはまるで違うタイプだ。
 …自分の息子を引き合いに出すとか、なんか凄い痛い母親みたいだわ。
 もしかしたら、少年にはどこか外国人の血が入っているのかもしれない。
 …いるところはいるものなのねぇ。
 おそらく戒や陽太よりは少し年下。
 同世代の少年たちより大柄で、外見的にも大人びている戒はともかくとして、むしろ実年齢より幼く見える陽太と比較してみれば、あるいは彼らと同い年かもう少し上の年齢の可能性もある。
 サラリとした薄茶色のショートの髪や、涼しげな横顔がなんとなく類に印象が似ていて、今時の子ならさぞや小学生の女の子たちにもモテていることだろう。
 ちょうど少年は、自動販売機でジュースを買っているところだった。
 お金をいれて、ボタンを押す一連の何気ない仕草さえも絵になっている。
 思わずつくしも、立ち止まってマジマジと見入ってしまっていた。
 ミルクティーと炭酸ジュースを取り出し、無遠慮な彼女の視線に気がついたのだろうか。
 ふいに少年は顔をあげ、つくしの方を見た。
 …わっ。
 吸い込まれそうな透明感のある美貌。
 この年齢でこの美しさなら、将来さぞや美男になるだろうことが予想できる。
 顰められた眉根に、つくしも自分の非礼に気がついた。
 …うは、ついジロジロ見ちゃった。
 慌てて小さく会釈した。
 一瞬怪訝そうな顔をされてしまったものの、それで少年の方も彼女に対してすっかり興味をなくしたらしく、すぐにつくしから視線を反らす。
 おそらく注目されることにも慣れているのに違いない。
 少年のあまりの非現実的な美しさについ見入ってしまっていたが、こんなことをしている場合ではなかったとつくしも我に返って、踵を返し…かけた。
 が……。
 「おい、オバサン」
 …オバサン?
 恐る恐る振り返ってみれば、どうやらオバサン呼ばわりで呼び止められたのは、自分ではなかったようで、ちょうど少年のすぐ横、つくし以上の無遠慮さでジロジロ少年を眺めていた初老の女性が因縁つけられていた。
 …良かったっていうのか、なんていうか。
 確かに他の若い女性たちの視線にしても褒められたものとは言えなかったが、明らかに初老の女性の顔は物珍らしさを隠しもせず、彼女の視線は、つくしが少年の立場だったとしても、けっして気持ちの良いものではなかっただろう。
 だがそれにしても、確かにその初老の女性は‘オバサン’でもけっして間違いではない年齢だろうが、鈴が転がるような美声での太々しい言い方は、かなり失礼で、当の呼びかけられた女性も唖然としてしまっていた。
 しかも年長者を、おい、呼ばわりである。
 「な、なんなの?あなたっ」
 「見てんじゃねーよ」
 少年の敵意が伝わったのだろう。
 初老の女性が、癇を立て上擦った声音で叱咤する。
 「いきなり失礼じゃないの?!」
 「いくら常識のない日本人のババアにしても、人のことジロジロ、ジロジロ感じ悪く見て、あんたこそなんなんだよ?オバサンの方が失礼だろ?」
 「な、なんですってっ?!」
 「だから見てんじゃねぇよって、言ってんの!」
 いわゆるガンつけんじゃねーよ、というやつだ。
 「んまあ!」
 「さっきからどいつもこいつも、人のこと珍獣でも見るみたいに見て、いいかげんうんざりなんだよ!」
 …うひぃ、ま、まさか、私の空耳とか?
 あるいは幻聴か?
 そんなことがあるはずがないのに、あの美しい唇から、今この品のない下品な罵倒の数々が本当に出てきたのかと、思わず耳を疑ってしまう。
 …マジ?
 通りかかる人々が、少年と初老の女性のやり取りに注目しては、年齢に見合わずいっぱしの?ワル顔負けの凶悪な顔で睨んでくる少年に気圧され、騒ぎに巻き込まれるのはゴメンとばかりに離脱してゆく。
 妖精の如き清廉な美貌とのギャップが凄い。
 「お、親はどこよ!親はっ。こんなガラの悪い失礼な子を野放しにするなんて!」
 当然のことだろうが、カッカッと頭に血を上らせ、テンパった女性が、きぃきぃと金切り声を上げ少年を罵り始める。
 ガンッ!
 「ぎゃっ!」




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