「愛してる、そばにいて」
第8章 明日に咲く花④

愛してる、そばにいて0694

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 「ジュ……ロッソが?」
 その情報を持ってきたのは、以前戒に一緒にジュニアハイスクール※1のアメフト部の練習を見学しないかと誘った少年だった。
 「それもお前のハイスクールにいる兄貴からの情報か?」
 「そう。ロッソは、まだ一年生だけど、すでにレギュラー入りしていて、学校側の期待にも応えていた特待生だったんだ」
 戒は学校内で特にジュリオと一緒にいたり、親しげな様子を見せたりしたことがない。
 特にジュリオへの気遣いというわけではなかったが、ある意味それも当然のことだった。
 そもそもジュニアスクールとジュニアハイとでは、同じ敷地内にあるとはいえ、まったく交流がないものだからだ。
 だから、ジュニアハイの生徒で、白人とはいえ最下層に位置する貧民出身のジュリオと、有色人種を束ねて、いまや学校内でもボスの座にいるいまだジュニアスクール生の戒とでは、接点どころか、彼らを知り合いだと想像する人間さえいないはずだった。
 「兄貴は頭を抱えてるよ。せっかくベストメンバーが揃ってたのに、肝心のスポーツ特待生が、まさかの醜聞でクビになるだなんてね」
 「……………」
 ジュリオは家庭の事情とはいえ、綱渡りをしていたのだ。
 ある意味、退学になることも、ある程度本人承知の必然とも言える。
 だが―――、
 「マックス、お前、なんでわざわざ俺にそんなことを言う?」
 遠慮がちにではあるが、斜め下から見上げるマックスの視線は、どこか戒をなじって非難しているような気がした。
 「ヤツが、ロッソが退学するハメになったのは、半分はお前のせいだからだよ」
 「俺のせい?」
 怪訝に戒が顔を顰める。
 とんだ濡れ衣もいい話だが、マックスは戒という少年を、この学校内では誰よりもよく知っているはずなのだ。
 そのマックスが、むやみやたらに戒の逆鱗に触れるようなマネをするわけもない。
 「いいかげんにしろよ、のらりくらりと。いいかげん、言いたいことはハッキリ言え!」
 癇症に顰められた戒の秀麗な美貌に、さっと顔色を青ざめさせたものの、かといっていまさらおもねって口を噤んでも、かえって彼の怒りを買うだけで、ロクなことにならないことはマックスも身に染みている。
 いや、そもそもからして、怒りを買うかも知れないとわかっていながら、こんな話題を出したことからして、それなりの覚悟を決めていたのかもしれない。
 「ライナーだよ」 
 「…ライナー?」 
 ジュリオの話からまた激しく話は飛んで、今度は以前に戒に逆らって、逆にリンチを受けることになってしまった黒人少年の話だ。
 「おい、いまはロッ…」
 「ライナーのヤツが、ロッソのヤツをヤったんだ」
 「……………」
 飛び出したマックスの言葉は、戒にしてみてもあまりに意外過ぎることで…。
 わずかに目を見張って、黙り込んだ戒の様子に力を得たのだろう、マックスが一気に最後まで話しきる。
 「本来興味の欠片もないロッソのことを嗅ぎ回って、学校長にチクったんだよ。他にもお前にヤられたヤツらに声かけて、調査会社を雇ってまでロッソの素行から家庭環境、背景までまるごと調べさせた上でさ」
 「……っ」
 なぜ、とは聞くまでもないことだ。
 「ロッソとお前が親しいなんて、俺も知らなかったけど、ライナーはどこからか聞き出して、お前本人には意趣返しできないもんだから、代わりにロッソをスケープゴートにして、お前にヤられた鬱憤を晴らしたんだ」
 「ハッ?スケープゴート?(※生贄の羊)」
 戒はもちろんのこと、ライナーもその他の戒がシメてやった生徒たちも、まだプレティーン※2の少年たちばかりだ。
 そんな子供に雇われるような大人は普通はいないし、調査会社を雇うなどできるはずもない。
 けれど、生徒たちの中には、道明寺家のように内部に調査部門を抱える会社の経営者一族の子供もいれば、激甘の親が、唯々諾々と我が子の言うなりになって力を貸している場合もある。
 当然、その親たちにしても、いまとなっては、正面切って戒に物申せる人間などいるはずもない。
 かつて道明寺財閥の御曹司という身分だけでも、学校内で特別視されるに相応しい力を持っていた戒の身の上だったが、現在の戒は、養子縁組をしてはいないとはいえ、大河原財閥の後継者にもなり得る存在なのだ。
 「ロッソは本当に才能のあるタイトエンド※3だったからさ」
 マックスの顔が、まるで自分のことのように悔しそうに歪む。
 「真実が明るみになった今となっては仕方がないことだとは思うけど、…それでも俺は本当に残念でしょうがないよ。そもそもちゃんと調べていたはずなのに、よく学校側も、ロッソのような家庭環境のヤツを入学させたもんだとは思うけどさ」
 マックスがアメリカンフットボールをやっているとは聞いていないし、その兄のことはともかくとして、現在の彼の体格からして、将来的にも選手として活躍することはなさそうだが、それでもどうやら兄の影響を除いても、マックスはアメフトの熱烈なファンであり、ジュリオに期待していたのだと戒にも知れた。
 ジュリオには退学になってしかるべき理由がある。
 一つには、彼の父親が入院したことによる困窮のために、本来はスポーツ特待生として義務付けられていた練習をサボってアルバイトをしていたこと。
 そのアルバイトも、ローティーンの少年がするにはマズイものだ。
 …でも、いかがわしい仕事をしていたってわけじゃない、か。
 むしろジュリオを雇っている側の人間が摘発されることがあってもおかしくはない話だが、ジュリオには情状酌量の余地もあり、せいぜい厳重注意や謹慎処分の範囲だろう。
 そして、もう一つの理由は、まさに今マックスが言っていた家庭環境。
 もちろんスポーツ特待生として、生活まで全部丸抱えで面倒みようというのだから、貧しさはこのさい関係ないだろうが、スポーツ選手は実際はどうあれ、当然のようにクリーンさを求められる。
 だというのに、そのクリーンさを脅かし、学校の栄誉どころか名誉を地に落としかねない危険性のある人間が身内にいることが、どれだけデメリットとなり得るか想像に難くない。
 ジュリオの親族に犯罪者はいなかったはずだ。
 しかし、あるいは父親の酒乱を危惧されたのかもしれない。
 過度の飲酒癖は、本人の死に至る病でもあるのと同時に、犯罪にも繋がりかねない悪癖だった。
 …それとも。
 本来未成年が働くことを許されない酒を出す店でのアルバイトをする姉、…ジーナの存在がジュリオの急所にでもなったのか。
 「ロッソの家庭環境がネタなのか?」
 「そう。あいつの姉貴の一人が、街路に立って客を取る街娼※4をしていて、逮捕歴があったんだ。しかも、その姉には麻薬の売人の情夫がいたらしい」




*****




 「久しぶりだな」
 「…………ええ」
 シャチホコばって椅子に座るジーナの様子は、以前の鉄火で勝気そうな少女とは真逆のもので、いかに今現在の彼女が彼に対して気後れと、緊張を感じているのかを物語っていた。
 …俺のせいってだけのことでもねぇか。
 おそらく今まで入ったことのない高級レストランの個室という環境もまた、彼女の緊張感を強めているのに違いなかった。
 だが、あえて司はジーナとの会談の場を、彼女のテリトリー内ではなく、ここ…彼や戒が属する世界が垣間見えるこの場所に選んだのだ
 それでも一応は、彼女なりの処世術でドレスコードを考慮したらしい。
 いかにもチープなワンピース姿ではあったが、それでも入店を拒否されるほどではなく、彼女の可憐な容姿にはよく似合ってそれなりに様になっていた。
 「何が食いたい?」
 先に座っていたジーナの対面側に腰を下ろし、司は給仕係の差し出したメニュー表を開きながらジーナに尋ねた。
 しかし、緊張に顔を青ざめさせた彼女は、ただ緩く首を横に振るだけで、自分はメニュー表を受け取ることさえしようとはしない。
 「……あたしは食事をしにここに来たんじゃないわ」
 「レストランに来てか?」
 「それはっ、あんた…あなたが、ここを指定したからじゃないの!?」
 しかも、ジーナが交渉に望んだのは司当人ではなく、彼の秘書である西田の方だったのだ。
 「秘書に連絡しろって言ったのは、あなたでしょ?」
 「だから、俺が来たんだろ?」
 「まさか、お偉いさんのあんたが、また直接あたしなんかに会いに来たりするなんて思ってなかった。秘書の人にお願いすれば、それだけで対応してくれるって思ってたのに」
 「……ふっ」
 ジーナの言うことも、あながち見当はずれなことではなかった。
 司が彼女に西田の名刺を渡した時には、彼女の言うとおり、西田の裁量の範囲で対応させ、司は報告を受けるだけのつもりでいたのだ。
 そもそもここに至るまで、戒を彼女に近づけたままにするつもりがなかったこともある。
 …存外悪くない娘だったことが、この場合は仇になったな。




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※1 ジュニアハイスクール=中学校
※2 プレティーン=10歳~12歳の子供。13・14歳の年代をローティーン、15・16歳の年代をミドルティーン17~19歳の年代をハイティーンと呼ぶ。
※3 タイトエンド=アメフトのポジションの一つ。クォーターバックやランニングバックをサポートするオフェンスラインの一翼で、時にレシーバーとして華麗にパスキャッチを決める。
※4 街娼=街角で客待ちをする娼婦。コールガール。



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